第118話 待ちぼうけ②
「フォルマンさん、『コール・アルチェ』と言ってみてください」
「お、おう。コール・アルチェ」
フォルマンがそう言った瞬間、アルチェがビクッと跳ねた。
「おわっ、なんか鳴った!」
「アルチェさんは『アンサリング』と言えば受話できます。使用者を登録すれば誰からの着信かも教えてくれますよ。ちなみにプログレスのメンバーについては登録済みです」
「アンサリング。フォルマン、なんかしゃべってみてよ」
「うおっ、アルチェの声が聞こえたぞ!」
「あ、こっちも聞こえた! なんだかムズムズするぅ」
ホーリスとクレムはふたりのやりとりを興味深そうに眺めている。
ベントは説明を続けた。
「切断するには『ディスコネクト』と言います。グループを登録しておけば、グループ通話も可能です。その紫色のフォンにはプログレスとしてのグループ登録をしているので、『コール・プログレス』と言えばみんなで話せますよ」
ベントはフォンを装着してプログレスをコールし、グループ通話を実演してみせた。
歓声があがるなか、フォルマンが恐縮そうに尋ねた。
「ベント殿、プログレスのメンバーはまたタダでもらっていいのか? いつももらってばかりで悪いと思っているのだが」
アルチェがフォルマンの肩をパシッと叩いた。まるで余計なことを言うなとでも言っているようだった。
フォルマンはアルチェを一瞥したが、すぐに視線をベントに戻した。
「今回は違います」
「え、やっぱ金は取るよね……」
アルチェの笑顔がぎこちなくなっている。
今度はフォルマンがアルチェの肩を叩いた。
「いえ、そうではありません。プログレスだけでなく、ウィルド王国の全勇士に無償で配ります。シエンスとの戦争で必要なものなので」
「全勇士にタダで!? こりゃたまげたな……」
フォルマンの両目が限界まで見開かれた。
ほかの者も似たような表情になっている。
ベントは元々、今日これらのフォンをみんなに配る予定だった。
今日開かれたシエンス共和国侵攻対策会議でも、王家や各領主にフォンを無償提供した。
それは、戦争時にそれで通信を取り合って連携することへの同意を得るためである。
また、各領主から領内のギルドにフォンを使用せよと通達してもらう約束も取りつけた。
シエンス共和国との戦争において、通信網の整備は投核弾対策に次ぐ重要課題だった。
ただ、それは難題ではなかった。
シエンスでの開発実績があるため、改めて開発する必要がなかったのだ。
課題となっていたのは、製造して数をそろえるための資金、人員、時間の部分だったが、エアバイク改の製造が落ち着いたため、すべてをそちらに回すことができた。
よって、少数であればフォンの製造はとっくに終わっていた。
いままでそれを使わなかったのは、ウィルドを監視しているシエンスに対して通信網の整備を進めていることを隠し通すためだった。
どうしても必要な場合は、エアバイク改にメール機能を搭載したり、ネックレスに偽装したりと、バレないような工夫をしていた。
ウィルドにおける通信網の整備は、シエンスからすると大きな脅威となる。
もし彼らがそれを認知すれば、侵攻の予定を繰り上げ、投核弾以外の手段で攻撃を開始してくるかもしれない。
しかし、いまは投核弾の完成が目前に迫っているため、その懸念は小さい。
通信網の整備を妨害するよりも、投核弾を完成させてそれを使ったほうが早いからである。
ベントは一開発者でしかないので、この予測がどこまで当たっているかはわからない。
だが仮説を立ててシミュレートすることは得意であり、この予測の妥当性にも自信があった。
「ベント君? ねえ、ベント君ってば!」
「ああ、すみません。ちょっと考え事をしていました」
いつの間にかアルチェがベントの両肩をつかんで前後に揺さぶっていた。
どうやら用があるのはフォルマンで、彼の質問にほかのみんなも興味を示している様子だった。
「もしこのフォンをなくしたら、替えをもらえるのか、というのを訊きたかったのだが」
「たいへん恐縮ながら、2個目からは代金を頂きます。戦争で必要なので、絶対になくさないでください」
「へぇ。代金って、いくらくらい?」
そう訊いたアルチェはフォンを手に戻し、値踏みするようにいろんな角度から眺めている。
「まだ厳密な価格設定はしていませんが、600ルドくらいになると思います」
「600!? スカイタクシーで伯爵領と王都を2往復くらいできる額ですね……」
クレムが指を折りながら顔を引きつらせている。ランク4thの彼にはかなり痛い出費になるだろう。
もちろん、アルチェやフォルマンのようなランク3rdにとっても馬鹿にならない額である。
「コミス伯爵は800ルドくらいが妥当だと仰っていましたよ」
「そ、そうですか……。大切にします」
クレムが顔を青くしている。
アルチェも「うへぇ、たっか!」とつぶやいていた。
そんなときだった。
玄関扉が勢いよく開けられ、マスターのグイルがギルドホーム内に駆け込んできた。
グイルは肩で息をしながら、神妙な面持ちで一同に告げた。
「リゼがいなくなった!」




