第117話 待ちぼうけ①
エアバイク改を壊されたベントは、スカイタクシーを使って王都から帰ってきた。
スカイタクシーは実用化したばかりで利用者はまだ少ないものの、利用した人からは好評の声が届いている。
ベントがギルドホームの玄関扉を開けて中に入ると、プログレスの面々が慌ただしく動き回っていた。
フォルマンとクレムはプロトポリアで注文してきた料理を運び、アルチェとホーリスはカラフルな布を壁に貼り付けてホーム内を装飾している。
アルチェとホーリスがそれぞれ緑色と赤色が好きなせいか、ホームは太陽系地球でいうところのクリスマスパーティーの様相を呈していた。
「ただいま戻りました」
ベントの声にいち早く反応したのはアルチェだった。
「おかえりぃ」
アルチェに続き、フォルマン、クレム、ホーリスもベントに声をかけた。
アルチェが緑の長髪を大きく揺らしてベントの前まで駆けてくる。
それを見たほかの3人は、それぞれ自分の手元に視線を戻して作業を再開した。
アルチェの大きな翠眼がベントの白衣に向けられた。
左右から舐め回すように眺めている。
「どうしました? 何か手伝いましょうか?」
「うーん……ベント君、なんだか埃っぽーい。湯浴みでもして、着替えてきたらぁ?」
「そうですね。そうします」
***
ベントが帰ってから少しの時が経ち、準備を終えた面々はテーブルについていた。
さっぱりしたベントは新しい白衣を身にまとっていた。
アルチェが「今日くらいは脱げばいいのに」と言ったが、ベントは「着ていないと落ち着かないので」と濁した。
ベント以外も格好は普段と大差がない。
違いといえば防具を外しているくらいで、その下に着ていたいつもの衣服が表に出ているだけである。
「遅いですね。マスターとリゼちゃん……」
意外にもアルチェより先にクレムがそうこぼした。
今日はリゼの誕生日で、みんなでサプライズパーティーをしようという話になっていた。
そのため、マスターのグイルがクレムに受付の代理を頼み、ギルドの備品買い出しを名目にリゼを連れ出していた。
しかし、予定の頃合を過ぎてもふたりは帰ってきていない。
グイルは「遅くとも日が暮れるまでには帰る」と言っていたが、日はとうに暮れている。
「トラブルに巻き込まれたのかもしれません。ちょっと探してきます」
ベントは立ち上がって早足に研究室へと向かう。
勢いで翻る白衣のすそをアルチェがつかんだ。
「待って!」
「アルチェさん、私は急ぎますので」
ベントはつい先ほど子爵のよこした刺客に襲われたばかりなので、自分と同じプログレスのふたりも襲われたのではないかと不安になっていた。
そのことを知らないプログレスの面々は、いつになく落ち着きのないベントに驚いている様子だった。
「あたしも探す!」
アルチェのまっすぐな眼差しに射抜かれ、ベントは足の力を緩めた。
彼女の言葉を受けて、ほかのメンバーも立ち上がった。
ホーリスがアルチェの横に並んでベントを見やる。
「手分けをしよう。人探しは人手が多いほうがいい」
フォルマンとクレムもベントのそばにやってきた。
フォルマンがクレムの肩に手を置く。
「おまえは留守番だ。ふたりが入れ違いで帰ってきたら困るからな」
「あ、はい」
ベントは正面に並ぶ4人を心強く思った。
仲間を想い、即座に結束するプログレスの勇士たち。
身を置いた場所がここでよかった。
ベントがここに所属することになったのは偶然だが、ギルドへと導いてくれたリゼには感謝の念に堪えない。
「わかりました。では、みなさんにはこれをお渡しします」
ベントは椅子の脇に置いていた箱を拾い上げ、フタを椅子の上に置いた。
箱の中にはフック状にうねった紫色の道具が7個入っていた。
ベントが箱からひとつを取り出してアルチェに差し出すと、アルチェはベントの顔を一瞥してからそれを受け取った。
ホーリス、フォルマン、クレムと続く。
「これはフォンと言いまして、耳に装着すると双方向通信が可能となります。指向性集音機能搭載マイクにより少ないノイズで音声を拾うことができ、骨伝導式なので周囲がうるさくても相手の声が聞こえるし、周囲の音と聞き分けることも可能です」
ベントがフォンを耳に装着してみせると、アルチェたちもそれにならってフォンを装着した。
素材には柔軟性があり、左右の耳のどちらにでも装着が可能となっているため、それぞれが好きなほうの耳に装着した。
狼頭のフォルマンも問題なく装着できた。
「ほう。すごいな、これは。でもこれ、どうやって使うんだ?」
フォンの耳への馴染み具合を確かめながらフォルマンが訊いた。
ベントは自分のフォンを外してから説明を始めた。




