第116話 待ち伏せ
ベントは囲まれていた。
相手は銀鎧の上から黄色いケープをまとった勇士が10人くらい。
そのうちのひとりが、ボコボコに変形したエアバイク改の上に腰掛けていた。
ウィルド王城の外壁沿いには訪問者用の厩舎が設置されており、エアバイク改もそこに停めていいことになっている。
ベントはそこにエアバイク改を停め、ウィルド王城でシエンス共和国侵攻対策会議に参加していたのだった。
「おや、これはベント叡士爵殿ではありませんか。これからお帰りですか?」
エアバイク改に尻を置いている男がリーダーなのだろう。
黄色い短髪を逆立てて、鋭い視線をベントに向けている。
「黄色いケープということは、ギルド・サーフェの者たちですか。あなたたちの領主の男爵さんとは特に険悪な間柄にはなっていなかったはずですが」
「べつに男爵の命令じゃねーよ。これは自警権の行使だ。理由は死体に教えてやるよ」
リーダー格の男が立ち上がり、腰に提げていた剣を抜いた。
「自警権は理由を言わずに行使できないはずですが。それに相手を殺す権利もありません」
「ごちゃごちゃと、うるせーんだよ!」
リーダー格がベントに飛びかかってきた。
それが合図になっていたのか、残りの9人も同時に動きだす。
「うるさいのはあなたです。牛の鳴くような声で怒鳴らないでください」
ベントは白衣のポケットから撃音波銃を取り出し、それを相手に向けて引き金を引く。
円状に並んだ6つの銃口から超音波が発射される。
「おりゃっ!」
共振させた超音波は効かなかった。
ベントはリーダー格の斬り下ろしをバックステップでかわした。
「まあ、そうでしょうね」
相手がベントだと知って襲ってきているのだから、対策されていることは想定内だった。
「とりゃああっ!」
背後からの袈裟斬り。
ベントは剣の軌跡と平行になるよう体を傾け、斬りかかってきた男の脇をスルリと抜け、その背中をポンと押した。
黄色いケープたちは同士討ちにならないよう足を地面に滑らせて突撃の勢いを殺した。
さっきは囲まれていたが、いまは10人全員がベントの視界に収まっている。
「テメェ、なんでそんなに動けるんだよ!」
「おや、波銃のことは知っているのに、AIMSのことは知らないんですね」
「あい……むす……?」
「AIマネジメントシステムの略称です。AIレンズで得た情報を元に割り出した最適な動きを、AIスーツがサポートしてくれるんです」
「ごちゃごちゃと、知るかーっ!」
10人がいっせいに飛びかかってくる。
その10人に局所的に雨が降った。
「おいっ、急に止まるな!」
「おわっ!」
先頭のひとりが動きを止め、玉突き事故を起こして全員前のめりに倒れた。
急いで立ち上がろうとする彼らだが、体が地面や仲間にくっついて身動きが取れなくなっている。
「脳波連動型粘着液スプリンクラー・ドローン。通称、粘着ドローンです。あなた方は私が剝がさない限り、もう動けませんよ」
「なんだとっ!?」
黄色いケープが山状に積み重なっている。
その光景は太陽系地球の建造物のピラミッドに似ていた。
奇しくも頂上にいたのは最後尾になっていたリーダー格の男だった。
「えー、あなたに尋ねます。持っている情報が中途半端なのは、あなたたちを差し向けた黒幕がいて、その人が雑に入れ知恵したからでしょう?」
リーダー格の男はギリリと歯を食いしばりながらベントをにらみ上げている。
「はんっ! 自警権だっつってんだろ。ウィルド王国にはびこる害悪を排除しようとしただけだ」
ベントははためく白衣のポケットに手を突っ込み、黒い箱状の道具を取り出した。
箱には銀の触覚が2本ほど生えている。
「これはバカ正直ショックと言いましてね」
ベントがそれをバチッと言わせながらその効果を説明するが、黄色いケープたちは慌てふためくばかりで誰も話を聞いていないようだった。
下段の男が苦しそうにわめく。
「待て待て待て! いま俺たち、つながってるから!」
「そんなことはわかっていますよ」
ベントはリーダー格の男に銀の棒を押し当てた。
「あがががががっ!」
その悲鳴だか唸りだかの声は連鎖的に重なっていき、汚い大合唱となった。
「で、黒幕は誰ですか?」
「子爵」
「あなたたちは本当は誰ですか?」
「子爵領で収監されていた罪人」
「まあ、そんなところでしょうね。サーフェの方々は揉め事を避けるように細々と活動していらっしゃるので、絶対に違うと思いましたよ」
ベントはウィルド王城の衛兵に彼らを引き渡し、ウィルド王に子爵の暗躍を報告するため、少々砂を被った白衣を脱ぎながら城内へと戻っていった。
その後、子爵は国外追放が決まり、子爵領についてはひとまずコミス伯爵が代理で治めることになった。




