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国外追放されたマッドサイエンティスト、何を血迷ったか世直しを始めてしまう~狂科学者のオリジナル武器無双~  作者: 日和崎よしな
第2章 剣聖ホーリスと風の射手アルチェの救国

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第115話 世直し第2弾

 ベントが特に邪悪と感じるものがふたつある。


 〝暴力による支配〟と〝搾取を目的とした独占〟である。


 暴力はその悪性がわかりやすいが、厄介なのは独占のほうである。


 独占自体は悪いわけではない。ベントだって自分の開発した武器は基本的に他人には渡さないようにしている。


 それは犯罪などに悪用されないためである。


 ベントが邪悪と感じる独占というのは、その技術や権利をもってして、他人の財を欲望のままに吸い上げたり、そうと気づかれずに支配したりするものを指す。


 こうした邪悪を考えるうえでベントの念頭にあるのは、やはりシエンス共和国だった。


 シエンス共和国の技術開発は国家主導でおこなわれている。


 ゆえに国民からは〝国家繁栄のための技術開発税〟なる多額の税が徴収されている。


 それでいて、その技術の恩恵に預かる国民たちは法外な使用料を要求される。


 便利な道具を使えば使うほど出費がかさむ。


 大統領府がそうして得た資財は、その搾取構造を膨らませるために使うか、あるいはそのまま彼らの身内のふところを膨らませている。


 シエンス共和国はその搾取構造をウィルド王国に対しては適用しなかった。


 やろうと思えばできるが、やらなかった。


 圧倒的な技術格差を生み出し、武力で支配し、すべてを奪おうと画策したのだ。


 それは〝暴力による支配〟にほかならない。


 よって、シエンス共和国はベントが特に邪悪と感じるふたつの要素を両方とも満たしている。


 結論、シエンス共和国の大統領府は邪悪である。


 物を申す第三者がいないので、シエンス共和国はやりたい放題になっている。


 それを止められるとしたら、シエンスで多くの新技術を開発してきたベント自身しかいないだろう。


 そして、それをすることはベントの責任でもある。


 なぜなら、ベントの技術開発がシエンス共和国を増長させる一端を担ったと言えなくもないからである。


「ベント殿、あの……ベント殿?」


 気づくとベントの正面にはダークブラウンの長髪を風に揺らす紳士が立っていた。


 コミス伯爵である。


 隣には騎士ポティスもいる。


 ベントは伯爵邸の門前で立ったまま思考の世界に意識を埋没させていたのだった。


「あ、失礼しました。ちょっと考え事をしていまして」


「ベント殿、普段から頭を使いすぎではないですか? 少しは頭を空にして脳を休ませてはいかがです?」


 ベントの思考が止まることはない。


 さっきだって技術開発に酷使した脳を休めようと頭をカラッポにした結果、自然と邪悪についての考察が始まってしまったのだ。


「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。これからがリフレッシュタイムなので」


「え……?」


 コミス伯爵の困惑した表情にベントが首を傾げていると、ポティスがベントに近づいてきて耳打ちした。


「ベントさん、それはコミス伯爵をないがしろにしているように聞こえますよ」


「ああ、失礼しました。私はおふたりの喜ぶ顔が見られるだろうと楽しみにしているのです」


「おお、それでは何か朗報をお持ちになられたということですか?」


 コミス伯爵が固い表情を崩す。


 ベントは相変わらずの無表情だが、わずかにほおを緩めた。


「朗報というより、現物をお持ちしました」


 ベントはふたりを案内した。


 風になびく白衣が、(つや)のある貴族服と無骨な鎧を引き連れ、伯爵邸の外壁に沿って歩いていく。


 外壁の端に達し、角を曲がったところにそれはあった。


「おお、これは! ベント殿にしてはもったいぶりなさる!」


 エアバイクが数台は入りそうな巨大な物体に、紫色の大きな一枚布が覆いかぶさっていた。


 ベントがその布の端をつかむ。


「私もセルフィートさんにならって、お披露目演出というものをやってみました。それではご覧ください」


 ベントがバッと布を引くと、白いボディをした箱型の乗り物が姿を現した。


 シエンス共和国のエアトラックに似ているが、荷台部分は存在せず、後部も前部と同じく座席になっている。


「これは、まさか……ベント殿が開発すると言っていたスカイタクシーですか? もう完成したのですか!?」


「すごい! これなら雨に濡れずに移動できますね。移動技術はもうシエンス共和国に追いついたんじゃないですか!?」


 コミス伯爵も騎士ポティスも目を輝かせ、車体を舐め回すように覗き込んでいる。


「いえ、まだ完成というわけではありません。目的地に向かって飛行することはできますが、運転の自動化と安全面の確保、それからタクシーとしての運用機構など、実装できていない要素は多くあります」


 未完成と聞いてもふたりの興奮は止まらなかった。


 このふたりもわかっているはずだが、今回はタクシーとしての運用になるので、スカイタクシーを個人用に譲渡することはできない。一般に販売することもない。


 スカイタクシーはそもそものコンセプトが、公共の乗り物として万人が比較的安価に利用できるというものである。


 エアバイク改は個人が購入して所有することができるが、それができるのは一部の財力がある者だけ。


 少しずつ価格を落とすといっても、庶民の手が届くようになるまではかなりの時間を要する。


 エアバイク改の存在は世の中を便利に変える一方で、それを使える者と使えない者との間の格差を広げることになる。


 その格差をなくすことで、将来的に生まれ得る〝独占による搾取構造〟の発生を予防する。


 ベントはスカイタクシーに対して、ひそかにその効果を狙っていた。


 スカイタクシーの試作機をひととおり見たコミス伯爵たちがベントのそばに戻ってきた。


「ベント殿、試しに乗せてもらうことはできますか?」


「ええ、構いませんよ。こんなことでよければ、いくらでも……」


 投資してもらったコミス伯爵に対し、ベントはスカイタクシーからの実入りが少なくなることを申し訳なく感じていた。


 無賃乗車権を付けても割に合わないだろう。


 ベントが沈んでいることを察したのか、コミス伯爵がベントの肩に手を置いた。


「投資というのはどのような結果を迎えようと投資者の責任です。その判断をしたのは投資者なのですから。ベント殿、私は今回の投資を後悔していません。スカイタクシーに投資したとも思っていません。ウィルド王国の未来に投資したのです」


「コミス伯爵……」


「だから絶対に守りましょう。この美しい国を」


「はい、守りましょう!」


 陽光を反射して輝く白いボディに手を伸ばし、ベントはスカイタクシーの扉を開けた。


 操作席に乗り込み、ふたりをスカイタクシー内へと招く。


 コミス伯爵は助手席に、騎士ポティスは後部座席に腰を下ろした。


「では、発車します」


 ベントたちはウィルド王国の雄大な空を飛んだ。


 無限に広がる青い世界で、青々しい緑の大地を見下ろしながら、未来へと突き進んでいく。



 (第2章 完)

読者の皆様、本作をお読みいただきありがとうございます。

これにて第2章は完結です。ここまでいかがだったでしょうか?

おもしろいと思っていただけたら、ブックマークやポイントを入れて応援いただけると嬉しいです!


最終章となる第3章は、前半では大ギルド・シクレシーの秘密を暴き、後半ではついにシエンス共和国との戦争に突入します。

そして、リベールとの最終決着も……!

物語は残り3分の1。引き続き第3章もお楽しみください(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

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