第114話 歓迎会②
宴もたけなわに達してしばし。
頃合と見たベントはグイルと示し合わせてふたりで立ち上がった。
グイルが咳払いをひとつ入れる。
「あー、みんな、すまない。聞いてくれ。ベント殿から大事な話がある」
それを聞いたアルチェが真っ先に反応した。
ニマニマと訳知り顔で立ち上がり、パチパチと激しく手を叩いた。
「ベント君! 叡士爵の……奉受? おめでとーう!」
グイル以外の一同が追従の拍手を送る。
ベントは両手を前に掲げて静黙を求めた。
「ありがとうございます。ですが、その話ではありません。もうじき戦争が起こります」
「え、違うの? ……って、えぇーっ!?」
騒がしいアルチェをフォルマンが諫め、ホーム内は静かになった。
「シエンス共和国がウィルド王国を侵略してきます」
「なるほど。さっき言っていた『どうしても距離を置くことができない場合』とはこのことか」
ベントはホーリスに黙って首肯を返した。そして続ける。
「シエンスに対してウィルド側から友好関係を求めても、彼らは絶対に応じません。圧倒的に強い立場にあるからです。シエンスは長い年月をかけていまの状況を作り出しました」
シエンス共和国は長らく技術を独占してきたが、それは単に利益を独占するためではなかった。
ウィルド王国に対し、技術力、経済力で圧倒的優位に立つことで、軍事的にも優位に立つためだった。
ウィルド王国を侵略し、支配する。シエンス共和国はそのためのロードマップをたどってきたのである。
ベントはそういったシエンス共和国の野望の歴史を説明した。
「我々は戦うしかないのです。だからみなさん、力を貸してください」
にわかには状況を受け入れられないようで、誰もすぐには口を開かなかった。
しばし沈黙が流れたあと、最初に口を開いたのはホーリスだった。
「もちろんボクは戦うけれど、それは王家が取り仕切ることではないのか? 王家には知らせていないのか?」
ホーリスも彼女以外のメンバーもみんながベントに視線を集めている。
それはみんなホーリスと同じ疑問を抱いていると言っているようだった。
「王家には報告済みですよ。戦争の指揮は私が執ります。そして、プログレスが中心となって戦況を動かしていくことになります。ウィルド王はその権限を私に与えるために叡士爵という爵位を新設して授けてくださったのです」
アルチェがガバッと立ち上がった。
テーブルに両手をついて前のめりになり、隣にいるベントの顔を覗き込んだ。
「でも、プログレスは全ギルドのなかで最弱って言われているギルドだよ。ほかのギルドの勇士たちが素直に従ってくれるとは思えないんだけど」
「プログレスはバーキングと入れ替わりで3大ギルドと呼ばれるようになります」
ベントが当然のことのように言うので、アルチェは目をパチクリさせた。
「え、なるの?」
「なります。バーキングにそう触れ回らせているので」
一同は沈黙した。
ベントは続ける。
「私が叡士爵になったのも、ホーリスさんをプログレスに引き入れたのも、すべてはプログレスの権威性を高め、全ギルド、全勇士を指揮下に置くためです。すべてシエンス共和国に勝つために必要なことなのです」
ベントは改めてプログレスの勇士たちに協力のお願いをした。
グイルとリゼはもちろんのこと、アルチェ、フォルマン、クレム、そしてホーリスも協力を約束してくれた。
「でもベント殿、協力といっても俺たちは何をすればいいんだ? 単に戦うわけではないのか?」
フォルマンがアルチェの向こう側から顔を出して質問した。
「ええ。戦ってもらうことには変わりありませんが、みなさんにはそれぞれ異なる役割を果たしていただきます」
「良材緑楊ってことですね!」
リゼが胸の前で両手の拳を握った。
「正しくは量才録用ですね」
「はわわ!」
リゼがぴょこんと跳ねて小さくなる。
ベントが表情を崩したので、気を張っていた様子の面々も肩の力が抜けたようだった。
「要するに適材適所ということですが、難しい要求をするつもりはありません。実際に何をしていただくかは、後日、個別に説明させていただきます」
ベントは歓迎会に水を差したことを謝り、続きを楽しむよう促した。
プログレスの面々は切り替えが早く、すぐに歓迎会のわいわいモードへと戻った。




