第113話 歓迎会①
「かんぱーい!」
ギルド・プログレスの勇士一同は、移籍してきたホーリスの歓迎会を開いていた。
マスターのグイルが仕切り、ホーリスを招いた張本人であるベントが簡単な挨拶をしてから、テーブルに並んだプロトポリアの料理にありついた。
「このまえは中断されちゃったから、前回のぶんまで存分に食べてねぇ」
立ち上がったアルチェが大きなサラダボウルを手に取りつつホーリスに言った。
アルチェがお礼にとホーリスを招いた前回の食事会は、ディーアが持ち込んだスタンピードの知らせによって中断された。
その前回と同じ並びでテーブルを囲んでいるので、今回はその続きのような雰囲気になっている。
「アルチェよぅ、自分の好物を確保してから言うのはみっともないぞ」
隣のフォルマンが長い耳を見上げながら言ったので、アルチェは毛むくじゃらの鼻にトングを突きつけながら言い返した。
「情報と金の亡者からは執着に関する苦言は受け付けません!」
その様子を見てホーリスがフフッと笑った。
「こちらではウェアウルフとエルフは仲がいいのだな」
「え?」
アルチェがポカンとしてホーリスを見た。
フォルマンもポカンとしている。
ふたりとも素でホーリスの言葉の意味が理解できていないという顔をしている。
「ああ、すまない。ピオニールではウォルグがエルフを目のかたきにしている節があってね。何かあるとすぐディーアに火の粉が飛ぶんだ」
ホーリスが物憂げに視線を落とし、空気が沈んだ。
しかしベントだけはそれを気に留めずにモグモグと口を動かしていた。
やがてそれを飲み込み、口を開く。
「でもディーアさんは里に帰るのでしょう? だったらもうホーリスさんが心を砕く必要はないじゃないですか」
「それはまあ、そうなんだが……でもやっぱり『仲良くすればいいのに』とつい思ってしまうよ」
ホーリスは寂しそうに笑った。
ベントは首をゆっくりと横に振った。
「他人の性分はそうそう変えられるものではありません。薬漬けにしたり脳を弄ったりでもしない限りはね」
「そのやり方は穏やかではないな……」
ホーリスが苦笑しながら返す。
ほかの面々も彼女と同じような表情を浮かべている。
ベントは構わず続けた。
「穏やかに済ませたいのであれば、相容れない相手に対しては距離を置くしかありません。もっとも、どうしても距離を置くことができない場合もありますが」
アルチェがガバッと立ち上がり、真っ赤なパスタの皿に手を伸ばした。彼女に視線が集まる。
それを意見を求められたと勘違いしたのか、自分なりの意見を述べはじめた。
「とりあえず、表面上だけでも取り繕ってみたらいいんじゃない? あたしはそういう性分じゃないけれど、ディーアならやれるでしょ。クレム君みたいにぃ」
「ちょっと! 変なこと言わないでくださいよ。それだとまるで僕が本心を隠して上辺だけでみなさんと接しているみたいじゃないですか」
突然の飛び火に狼狽するクレム。その姿はみんなの表情に緩みをもたらした。
少しだけ和んだところでリゼが加勢する。
「麺汁腹杯ですね!」
クレムは「めんじる……?」と首を傾げたが、ベントが即座に彼女の意を汲み取って訂正した。
「それは正しくは面従腹背です」
「はわわ!」
リゼはぴょこんと跳ねると、赤く染まったほおと口を両手で覆い、目に涙を浮かべた。
彼女のかわいらしい反応に空気は完全に和み、楽しいお食事時間が戻ってきた。




