第111話 オールラウンダーの戦い④
今度こそ決着がついたかに思われたが、セルフィートにあきらめるという選択肢はないらしく、腰に戻していた片手用直剣をふたたび引き抜いた。
その剣でベントを警戒しつつ歩き、草原に落ちていた黒いネクタイを拾った。
体温に反応して剣になる。
「今度は直剣二刀流だ」
「粘りますね。もしかして、戦いを楽しんでいるのですか?」
「さあな。私の目的はあくまで勝利することだ。ホーリスは渡さない」
口元はマスクで見えないが、目元が笑っているように見える。
セルフィートは厳格そうに見えて、案外、戦闘狂なところがあるのかもしれない。
しかし、決闘において性格は問題ではない。
重要なのは勝つかどうか。そのための力があるかどうか。それだけである。
「ホーリスさんは私が勝ってプログレスに頂きますが、もうひとつの目的もじゅうぶんに果たせたので、そろそろ終わりにさせていただきます」
ベントは二丁拳銃を左右のポケットにしまった。
そして、重装エアバイクの方へ歩いていき、そのステップに両足をのせた。
直立状態のままベントが重装エアバイクのボタンを押すと、重装エアバイクが細かいパーツに分かれた。
分かれたといっても完全に分離したわけではない。
内部のパーツでつながっており、パーツの位置関係を変えて変形しているのだ。
要した時間はほんの3秒程度だった。
ベントは分厚くて白い装甲に覆われた。
光沢のあるボディでのっしのっしと歩く。
「それがベント殿の切り札か。鈍重そうだが、大丈夫か?」
ベントの身長はさほど変わっていないが、胴体はふた回りほど太くなっている。
「近づくとヤケドしますよ。機動力を確保するために放熱しているので」
「熱風は見極めるさ」
先に走りだしたのはベントだった。
人間では出せない速度で走る。
そしてセルフィートに突っ込む。
セルフィートはベントのタックルを横に前転してかわし、白い装甲の背中を追いかけた。
ベントが止まったところで右手の剣を大きく振り下ろす。
ベントにはその光景が見えていた。
後頭部のほか数ヶ所にカメラがあり、その映像をホログラム・ディスプレイに映し出して見ることができるのだ。
ベントは体をひねって右腕で剣を薙ぎ払った。
そのスーパーパワーが剣をセルフィートの右手から弾き飛ばした。
セルフィートはそれを予測していたのか、振り向いたベントの顔にタイ剣を投げつけた。
体温を失ったタイ剣は黒いネクタイに戻り、ベントの視界を一瞬遮った。
その隙にセルフィートがベントの右脇の下をくぐり抜け、左腕を足場にしてベントの肩へと飛び乗った。
腰のうしろからナイフを抜き、首元の装甲関節部を狙って振り上げる。
その瞬間、青いレーザー光線がナイフを打ち抜いた。
刃が焼けて柄から落ちる。
レーザーの発射元はベントの足元にあった。
破壊されたはずのAIレーザーがそこにあった。
「馬鹿な! 破壊したはず」
「別の個体ですよ。1機だけじゃないってことです」
ベントの背中の装甲が外側に少し開いている。
その内側から追加で8機のAIレーザーが射出された。
「な、馬鹿な!」
全部で9機。
それがあらゆる角度に散ってセルフィートを狙う。
セルフィートはベントの肩から飛び降り、器用に体をひねって赤いレーザーをかわす。
だが次第に追い詰められ、最後には限界までのけぞり、太陽系地球の遊戯でいうところのツイスターゲームのような体勢になって身動きが取れなくなった。
レーザーは単発射撃ではなく継続照射をしている。
へたに動けば体がレーザーに触れてしまう。
いま照射されている赤い光線は8本。
まだ1機のAIレーザーが余力を残している。
そしてそれが青い光線を放ってマスクも首輪も破壊し、最終的にセルフィートの顔の正面に来て止まった。
「参った。降参だ!」
8本の赤い線が消え、セルフィートはバタリと背中を地に落とした。




