第110話 オールラウンダーの戦い③
草の中からピョンとバッタが跳ねた。
1匹や2匹ではない。
何匹もいる。それがいっせいにセルフィートへと襲いかかる。
「リクエスト・槍!」
セルフィートが右手を天に掲げながら走る。換装ドロイドがふたたび頭を開いてそこから武器を放つ。
槍は正確にセルフィートの右手へと飛んだ。
走りながらでもきちんと位置や軌道を計算してくれるらしい。なかなかに高性能だ。
追われていたセルフィートは立ちどまり、槍で熱源バッタをばったばったと叩き落とした。
位置がよいものはまっぷたつに斬り払った。
20匹近く駆除したところで草原は静かになった。
だがセルフィートはまだ草原を警戒している。
それは当然のこと。熱源バッタがまだ多くいるからだ。
突然静かになったので、さっきまで跳んでいたものが息を潜ませていることは誰の目にも明らかだった。
「下ばかり警戒していて大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。ちゃんと上も警戒している」
セルフィートは左手の鏡面小盾にAIレーザーを映していた。
そのAIレーザーが動いて照準を合わせたとき、彼女は素早く左手を頭上に上げて盾でレーザーを弾いた。
だがその瞬間、熱源バッタが彼女に飛びついた。
とっさに盾でガードしたため、バッタが盾に貼り付いた。
「しまった……」
そうボヤきつつも、動きには寸分の迷いもない。
セルフィートは素早く鏡面小盾を左手から外した。彼女はレーザー攻撃への対抗手段を失った。
ベントはこれで決着がつくと思ったが、しかしそうはならなかった。
さすがはランク1stの勇士にしてウィルド王国一の女傑と言うべきか、彼女は呆けるどころか一瞬さえも無駄な動きを見せなかった。
「仕方ないな」
彼女は右手の甲を下にして槍の中心部を持ち直し、左手でゴーグルを外した。
ゴーグルを振り回して飛びつくバッタを薙ぎ払いつつ、体をひねり、1回転させて右手の槍を上空へと放った。
槍はAIレーザーに突き刺さった。
そしてその飛行する脅威を道連れにして遠方へと落下した。
「もっとも得意な武器を使い捨てにしてしまった」
「武器は別のものを補充できるでしょうけれど、ゴーグルは外してよかったんですか?」
「ここは草原だ。幻惑迷彩とやらを使っても草を踏めば正確な位置はわかる。それから顔にスプレーをかけられるような距離にはもう接近しない」
セルフィートはそう言いながら両手を天に掲げた。
ベントはそのポーズとさっきの言葉から、彼女が次に何を呼び出すのかに見当がついた。
AIシールドを破壊されたいま、それを持たれるのは好ましくない。
「リクエスト・二丁拳銃!」
換装ドロイドが、開いた頭上から二丁拳銃を射出した。
その刹那、ベントの後方にあった重装エアバイクがビカッと激しい光を放った。
光に目が眩んだセルフィートは飛んできた二丁拳銃を取り損ねた。
二丁拳銃は勢いのままにベントの近くまで飛んできて草の上に落ちた。
ベントが駆け寄ってそれを拾う。
「姉さん、これを使って!」
セルフィートの妹のマイネが叫び、二丁拳銃を投げた。
まだふらついていたセルフィートだったが、今度はしっかりと得物をつかんだ。
2組の二丁拳銃が互いににらみ合う。
訪れた静寂と緊張感は、まるで姉妹喧嘩の様相を呈していた。
「ベント殿、銃の心得はあるのか?」
「ありませんよ。私自身はね」
ベントに心得は必要ない。
AIレンズがセルフィートの持つ二丁拳銃の向きや指の挙動を正確に捉えている。
その情報を元に、万能AIスーツが最適な動きを取らせてくれる。
熱源バッタが跳ねた。
セルフィートが反射的にそれを撃ち落とす。
同時にもう一方の銃の引き金も引いた。
ベントも銃弾を発射した。二丁同時。
一方の弾はセルフィートの弾丸と接触し、軌道が逸れた。
ベントの弾はセルフィートの足元に着弾し、生えていた草を数本だけ宙に散らした。
セルフィートの弾はベントの顔の近くを素通りした。
ベントが撃ったもう一方の弾は、マイネの左手銃に命中してセルフィートの手から弾き飛ばした。
「しまっ――」
宙を舞う拳銃を見ながら、セルフィートはもう一度「しまった」と思ったことだろう。
彼女が急いで視線をベントに戻したときには、すでに次の銃弾が発射されていて、右手の銃も弾き飛ばしていた。
「さすがにもう打つ手がないのでは? ほかの武器を呼んでも撃ち落としますよ」




