第108話 オールラウンダーの戦い①
「まずは小手調べといこうか」
セルフィートはそう言いながら、左腰に提げた鞘から剣を引き抜いた。
オールラウンダーでいろいろな武器を使いこなすという彼女だが、今回は剣を使ってくるらしい。
左手首の小盾との兼ね合いかもしれない。
ベントも白衣のポケットから光線銃を取り出して左手に持ち、右手には形状記憶ネクタイを体温で変形させた黒い剣、タイ剣を持った。
「いつでも大丈夫ですよ」
ベントからは仕掛けなかった。相手の初動を待つ。
セルフィートは右手の片手用直剣を手元で振り回して手になじませている。
剣身は細いものの、そのぶん長さがある。女性が持つには重そうだが、彼女は涼しい顔をしていた。
「先手を渡すというのか。ならばその言葉に甘えるとしよう」
それを聞いた直後、ベントの目が眩んだ。
セルフィートが鏡面小盾で陽の光を反射させてベントの目をくらませたのだ。
気づくと彼女は剣の間合いまで数歩という所まで近づいていた。
そしてそのまま駆けてくる。速い。
ベントは即座に光線銃を撃った。
しかし左手の小盾で弾かれる。
「間合いに捉えたぞ」
セルフィートの振り下ろし。
ベントは頭上でタイ剣を横にしてそれを受けた。
ズシリとした重みに押し込まれるが、万能AIスーツの動作サポートで上に押し返した。
「よく受けたな。だが、ここからが本番だ」
セルフィートがさまざまな角度から連続で剣を打ち込んできた。
素人の目で捉えられるような速さではない。
ベントはそのことごとくをタイ剣で的確に受けるが、それを可能にするAIマネジメントシステムはあくまでサポートをしてくれるだけなので、肉体の地力が及ばず、押されて2歩、3歩と後退する。
ベントは剣を受けながら空に飛ばしていた脳波連動AI搭載型レーザー・ドローン、いわゆるAIレーザーにセルフィートを攻撃させた。
レーザーの色は威力の弱い赤色。
セルフィートはそのAIレーザーの存在に気づいていたようで、レーザー射出口が彼女に向いた時点で打ち込みをやめて後方へと跳びすさった。
AIレーザーが追撃してセルフィートをさらに後方へと追いやるが、3射目を鏡面小盾に反射させてベントへと飛ばした。
しかしレーザーはベントの正面で跳ね返り、セルフィートの左肩をかすめた。
結果的に最初の位置に戻ったふたりは、ひとまず止まって視線を交わした。
「まさか反射させたレーザーがさらに跳ね返ってくるとはな」
セルフィートの視線がわずかに下方へ動く。
ベントの胸前には円形の銀板が浮いていた。
「これは脳波連動AI搭載型シールド・ドローンです。通称、AIシールド。脳内で『飛び道具による攻撃を防御しろ』と命令すれば、それを果たすためにAIが独自に判断して自動で動いてくれます。ちなみに、中央の飛行制御ユニットを水平に保ったまま円盤の向きを変えられるので、傘にも盾にもなりますよ」
AIシールドの円盤部分は細い扇が段状に重なっている。それは扇子のように折り畳みが可能になっているからである。
また、中央の飛行制御ユニットは空気の流れを阻害しないよう複数の板が螺旋状に覆っており、この部分も防御性能を有している。
セルフィートは自分の鏡面小盾と見比べて軽く嘆息した。
だが彼女が口にするのはリベールの開発品に関する小言ではなく、あくまで相手の情報を得るための質問だった。
「さっきは『まさか』と言ったが、実のところAIシールドとやらはさほど意外ではなかった。むしろ、そのまえの部分で驚いている。君は戦士ですらないのに、よく私の剣に反応できたな。剣の心得があるのか?」
「いいえ、すべてAI任せです。視覚サポート型AIコンタクトレンズで情報を得て、万能AIスーツの動作サポートで体を動かしています」
ベントは白衣をめくり、内側に着た黒いボディースーツを見せた。
「なるほど。一分の隙もないように思えるが、しかしAIというのは学習が必要なものなのだろう? ならば学習が及んでいない武器種を探すしかないな」
「よくご存知で。勤勉ですね」
ウィルド王国にはシエンス共和国の技術情報は入ってくるが、技術そのものは独占されていて入ってこない。
自国に縁がない技術について知ろうとする姿勢は勤勉と言わざるを得ない。
「私は好奇心旺盛なのだ。おかげで使える武器も多い」
セルフィートは言いながら剣を鞘に納めた。
そして左手首を右手で触った。
ベントからは鏡面小盾が邪魔でよく見えなかったが、その動きは手首に装着した何らかの道具のボタンを押したように見えた。
その瞬間、ボンッという空砲音が響き、赤い布が真上に飛んで、そこに隠されていた銀色の機械が姿を現した。
大きな円柱状の装置を中心に、等間隔に6本の脚が付いている。
脚はそれぞれ関節が2ヶ所ずつあり、折れ曲がった関節を伸ばせば中央の本体よりも長くなる。
「武器換装ドロイドだ。リベールに作ってもらった」
「なるほど。戦闘中での武器交換を可能にして、多くの武器種を扱える強みを活かすわけですね」
「そのとおり。リクエスト・双曲刀!」
セルフィートが両手を頭上に上げると、換装ドロイドの上部がシャカッと素早く開き、ドヒュンッと2本の武器を放った。
刀身が陽光を反射しながら宙を舞い、柄が天に掲げられた両手へと納まった。




