第107話 決闘の舞台
決闘の舞台はウィルド平野。
ピオニールのギルドホームから東方にいくばくか行った所にある、だだっ広い平原である。
場所と日程はセルフィートが指定した。
ピオニールのギルドホームから近く、そして戦闘によって周囲に被害が及ばない場所。
指定日はベントとの交渉から2日後の昼。
「仕切りと見届け人はプログレスのギルドマスターである、わたくし、グイル・マステルが務めさせていただきます」
その役目の候補としてはピオニールのマスターもあり得たが、彼はここのところずっと不在とのことだった。
見物人は少なかった。
ベント側はグイルのほかには、エルフのアルチェとウェアウルフのフォルマンのみ。
セルフィート側はホーリス、ウォルグ、マイネ、ディーア、リベールの5名。
ベント側は好奇心の強いふたりが遠出してきただけだが、セルフィートはあまり周囲に声をかけなかったのだろう。
紫色のケープを風になびかせ、グイルが果たし状の写しを眼前で広げ、決闘の条件を読みあげる。
【勝利条件】
相手を戦闘不能状態にする、または戦意を喪失させる。
【決闘方法】
武力による戦闘。武器、防具、道具の制限なし。
【決着後の処遇】
ベント・イニオンが勝利した場合、ホーリス・ウォルドをギルド・ピオニールからギルド・プログレスへ移籍させる。
セルフィート・メイジェスが勝利した場合、ベント・イニオンはピオニールの勇士全員にエアバイク改を無償提供する。なお、勇士には戦士と職員が含まれる。
ベントもセルフィートも条件に不服がないことを宣言する。
ふたりの視線は互いの荷物に向けられていた。
白衣はためくベントの背後にはビッグスクーター型の白い重装エアバイクが鎮座しており、セルフィートのそばには彼女のケープと同じ赤色の布を被せた大きな何かが存在を主張していた。
赤い布は上から見ると六角形で、その中心部分が上に出っ張っていて、横向きに見ると五角形に見える。
道具の制限なしという条件が利いていて、何だろうが持ち込んだ者勝ちとでも言わんばかりに存在感がある。
「両者、準備はいいか?」
「私は大丈夫です」
グイルの確認にベントがすぐ答えた。
セルフィートは軽く片手を挙げた。
「少し時間をもらおう」
セルフィートは腰を落とし、赤い布の下からカゴを引きずり出した。
そこからゴテゴテとした装備品を順に装着していく。
白地に花柄の丸い首輪、縁の部分が首輪と同じ柄のゴーグル、両側面に吸収缶の付いたガスマスク。
それから鏡面の円形小盾を手首に固定し、最後に鏡面缶のスプレーを全身に吹きつけた。
ウォルグと戦ったときにも対策されていたので、今回も対策されることはベントも想定済みだった。
ウォルグが使っていた装備については情報屋のフォルマンに調べてもらい、名称も効果もすべて把握している。
首輪はGESキャンセラーリング(防波リング)、ゴーグルは熱分布分析ゴーグル(看破ゴーグル)、マスクは辛味微粒子吸着マスク(防辛マスク)、スプレーは粘着物質剥離スプレー(剥離スプレー)。
セルフィートの装備はウォルグのものとは少し異なっていたが、見た目が変わっただけなのは明白だった。
鏡面の小盾については初見だったが、それがレーザー対策品であることは見ればわかる。
そうでなくても消去法でそうだとわかる。
ウォルグ戦で対策されていなかったのは初披露の光線銃とAIレーザーだけだったのだから。
「私も準備完了だ。いつでも始めて構わない」
セルフィートが宣言した。
マスクのせいで声がこもっているが、彼女の言葉ははっきりと聞きとれた。
不格好な装備が顔を完全に隠してしまったが、彼女の美しさ、凛々しさ、勇ましさは、ゴーグルやマスクなんかでは隠しきれない。
風にあおられ優雅に流れる長い黒髪と、頭部の重量をものともせずピンと伸びた美しい姿勢。
それはまさに強者の風格だった。
仕切り人のグイルが右手を高く掲げる。
そして、力強い声が高らかに発せられた。
「決闘、はじめ!」




