第100話 投資と成果の乖離(リベールSide)
ウォルグに作ったものを人間仕様で作ること。
その依頼は達成された。
しかしリベールの口元は喜びに吊り上がるどころか「へ」の字にゆがんでいた。
「ごめんて。さっきはうっかり言う必要のないことまで言っちゃったけど、君が頑張っていることはわかってるから。ね? 機嫌直して」
それはもはやリベールの頭がよくないと思ったことが本音だと白状しているも同然だったが、立場の弱いリベールが下手に出るマイネに対して不機嫌を貫けるはずがなかった。
「俺は平気です。次、レーザーの対策装備を紹介します」
セルフィートからのふたつ目の依頼。
ベントのレーザーによる攻撃の対策装備を作ること。
ウォルグからの依頼時にはなかったものなので、完全に新規の開発品となる。
さっきはマイネにことごとく茶々を入れられてしまったが、それを覆すほどの自信がリベールにはあった。
セルフィートとマイネはリベールの表情からその自信を読み取ったらしく、彼女たちの和らぐ表情にも期待感が表れていた。
リベールは二人を研究室の隅にある一画へと案内した。
研究室の各所には所狭しと機材が並んでいるが、この一画だけは綺麗に整頓され、白い布が被せられた人間大の何かがあるだけだった。
「ずいぶんと大きいな」
セルフィートの驚く顔に、リベールも顔が緩む。
追加投資のお願いまでして、もっとも金をかけた自信作。
さっき重ねてしまった悪印象を覆すべく、白い布を一気に取り払う。
「これぞ、レーザー反射アーマーです!」
姿を現したのは、全鏡面の全身甲冑だった。
美しい銀色が光を反射して周囲の景色を映している。
「わあ! なにこれ、すごっ!」
マイネが驚嘆の声をあげると、目を丸くしたまま甲冑の周りをぐるりと歩いて回った。
セルフィートはその場から動かない。
視線を上下に動かして甲冑を見ている。
視線は鋭い。
口は引き結ばれている。
「どうですか!? 通称は反射アーマーです!」
リベールが所感を求めると、セルフィートは小さく息を吐いてから答えた。
「使えない。こんなものを着ていては身動きが取れない」
そう言われてリベールはようやく気づいた。
反射アーマーを見つめるセルフィートの視線は、鎧の鏡面ボディよりも冷たいものだった。
マイネが気まずそうに笑ったのち、明るい声で追随する。
「インテリアとしてはおもしろいと思うけど、実用的じゃないよね。この造りだと関節の自由が利かないし、ヘルムを被るとさっきのゴーグルもマスクも着けられないじゃん」
「いえ、ちゃんと関節部分は動くようにパーツを分けてありますよ」
リベールが慌てて反論すると、ため息がふたつ同時に返ってきた。
言葉まで返したのはマイネのほうだった。
「いや、そうじゃなくてさ。絶対に動きがにぶくなるじゃん、これ。〝動ける〟じゃダメなんだよ。〝動きやすい〟じゃないと。姉さんはホーリスみたいに動き回る戦闘スタイルだし、いくらランク1stといっても、ウェアウルフほどのパワーもないわけだし。重いんでしょ?」
リベールはもはや何の反論もできなかった。
レーザーの入り込む隙間をなくすために関節部分が密になっているので、着れば動きは確実ににぶくなる。
それに、ヘルムを被れば看破ゴーグルも防辛マスクも装着できない。
重量にいたっては、台車がなければリベールには運べない代物である。
すべてはマイネの指摘どおりだった。
リベールは口を閉ざした。
しかし、リベールはそうしていられる立場にはなかった。
「リベール、これにいくらかかった?」
「……追加投資分、全部です」
投資を受けた以上、責任が伴う。
リベールはセルフィートに初期投資に加えて少なくない額の追加投資を受けている。
セルフィートの出費はそれだけではない。
研究室はウォルグからの投資費用で建造されているので、セルフィートはその半分をウォルグに支払わなければならなかった。
セルフィートの出費は相当なものになっている。
「他人への投資がここまで難しいものだとは知らなかった」
強いため息とともに吐き出された言葉。
失望と落胆の眼差し。
リベールはこれほど覇気を失ったセルフィートを初めて見た。
「マイネ、戻ろう」
セルフィートはマイネの返事も待たずに研究室の出入口へと向かった。
用事が済んでいないリベールは慌ててセルフィートを呼びとめる。
「あの、まだ戦闘のサポート機械が……」
「悪いが明日にしてくれ」
立ちどまったセルフィートは、ほんの少しだけ振り返ってそう吐き捨てた。
そしてすぐに歩みを再開した。
マイネがリベールの横に来て、その耳元に顔を寄せた。
「姉さんをここまで怒らせたやつは初めてだよ、リベール。こんなんで戦えるわけがないって、あたしでもわかるよ」
マイネはブロンドの長い髪を揺らしながらセルフィートの背中に駆け寄ると、そのまま追従して研究室を出ていった。
リベールの目に一瞬だけ映ったマイネの目は、セルフィートの妹然とした冷たいものだった。




