61~66話 (裏)
俺が今回やることは2つだ。
1つ、紫苑に借りを作らせること。
2つ、駿斗と千明を二人っきりにさせること。
紫苑は、俺が知らない組織に所属している。それを無理やり吐かせる手段がないわけではない。『クモちゃん』を使えば、嫌でも口を割らせることは可能だ。しかし、そんな手段を取ったところで、今まで築いてきた信頼も友情も、すべてが壊れてしまう。それは、今の俺にとって最も避けたい選択だった。
だからこそ、今回は別の方法を選んだ。紫苑が自分の意思で情報を話す可能性を引き出す――そのための計画だ。
・まずは紫苑をできるだけ長時間プールに浸からせた。このプールの水温は低く、長時間入っていれば筋肉が硬直しやすい。紫苑は何故か夏菜に固執する。夏菜が嫌っている俺に付いてくる行動を利用し、紫苑をプールへと誘導。これを数回繰り返し、出来るだけ長く、紫苑の体を冷やした。
・チンピラたちが来たのは好都合だった。紫苑に『普通の男』が近づいてくるという精神的ストレスを付与。
・食事の時、ブラックコーヒーを飲ませた。カフェインは体内の水分を吸い取っていく。足をつらせるには効果的な飲み物だ。
・最後に紫苑の性格を利用した。紫苑は根っからの負けず嫌いだ。これは小学校の頃から一緒に将棋をしていた俺だからこそ、よく理解している。プールに向かう前、俺は真希に一つ頼みごとをしていた。『理由は何でもいいから、紫苑と泳ぐ勝負をしてくれ』と。俺が合図を送ると、真希は予定通り紫苑を誘い、競争が始まった。
・対決の内容として、俺が提案したのは50mという微妙な距離。これなら短距離の速さが勝負を左右し、自然とクロールのような激しい泳法が選ばれるだろう。そして、コースは足が届かないほどの深さの場所に設定することで、疲労や緊張を誘発しやすい状況を作り出した。
…………これらの過程があり、今がある。全ては紫苑の足をつらせ、俺が助ける。
命を救うことで、俺は紫苑に『貸し』を作る。紫苑に自らの意思で情報を話させる可能性を少しでも、引き上げるための布石。
さて、反応は…………おい、何故、顔が真っ赤になっているんだ?
「紫苑…………」
紫苑は俺に背を向けた。
その時、夏菜が大慌てで紫苑に抱き着いてきた。
「紫苑ーーーー!!!」
「夏菜」
「浮かんでこなかったから、すごく心配したんだよーー」
夏菜は紫苑の大きな二つの山にうずくまり、顔を擦りながら泣いていた。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
そんな夏菜に紫苑は両腕で優しく抱きしめた。
その微笑ましい光景を見ていた勝者である真希は俺に顔でこう訴えてきた。
『後で事情は聞くから』
と強く。
俺は深く頷いた。
こうして、俺の誘導作戦は終了した。
後は、向こうがどうかだ。




