第66話 紫苑VS真希(表)
ここは50mプール。そのスタートラインには、今まさに紫苑と真希が立っていた。
ルールは簡単。50mプールを先に泳ぎ切った方の勝ち。泳ぎ方は自由。
その審査と任された俺と夏菜は、少し遠くから見ていた。
「二人はどこに行ったの……かな?」
夏菜が俺の横顔をじっと見たかと思うと、すぐに顔を逸らしながら質問してきた。
「駿斗と千明は、トイレに行ったぞ」
真希と紫苑が今から対決するというのに二人がトイレに行くというのは、かなり不自然だが、ここは乗り切るしかない。
「そ、そうなんだ……」
夏菜は少しうつむきがちに返事をする。だが、次の瞬間、勢いをつけるように再び俺へと問いかけてきた。
「ねぇ……」
「ん?」
「あ、あのままの、のの、金星は……彼女とか、いるの?」
「……別にいないぞ」
「そ、そうなんだ!」
夏菜の顔が一瞬パッと明るくなったが、その後すぐにどこか照れくさそうに視線を泳がせる。
「どうしてそんなこと聞くんだ?」
「え、えっと……その……ただの興味っていうか、なんていうか……深い意味はないからっ!」
「そうか。まあ、聞きたいことがあるなら、何でも聞いてくれ。できる限り答えたいと思う」
「えっ……!そ、そんなこと言われたら、聞きたくなっちゃう……」
夏菜が何かを言いかけたその時、プールサイドから紫苑の声が響いた。
「準備できたよー!兄さん!見ててね」
真希が手を振りながら、遠くからこちらに呼びかける。紫苑も同じくやる気満々の表情で俺を見ていた。
数秒後、二人が整ったと判断した俺は右手を高く上げる。
「じゃあ、合図を出すぞ…………位置に付いて、よーいドン!」
「ジャポン!!!」
合図と同時に、二人は勢いよく水中へ飛び込んだ。水面が割れ、激しい水しぶきが周囲に飛び散る。
二人ともクロールを選択しており、互いに一歩も譲らない接戦が繰り広げられていた。
真希はキレのある腕の動きで水をかき分ける。一方、紫苑は長身を活かして伸びのある泳ぎを見せる。
「すごい……二人とも速いね!」
隣で夏菜が驚いたように声を上げる。確かに、これだけの速さで泳げる二人は見応えがある。
プールの半分を過ぎたあたりで、真希が少しリードする形になった。しかし、紫苑もすぐにスピードを上げ、再び二人の差が縮まる。
その中、徐々に、紫苑が泳いでいたレーンから水しぶきがなくなっていった。
「紫苑?」
夏菜が不安そうに立ち上がり、心配そうな表情を浮かべる。
俺はすぐに状況を察知し、迷うことなくプールへと飛び込んだ。水の中に潜り、紫苑の姿を探す。
水中で見つけた紫苑は、苦しそうに口元から気泡を吐き出しながら、静かに沈んでいた。目は閉じられ、手足は完全に力を失っている。彼女が溺れているのは明らかだった。
俺は素早く紫苑に近づき、体を支えながら唇を合わせて空気を送った。




