外伝 紫苑 5 これから
「んん……こっ……ここは……」
「目が覚めた!良かったぁ~。ちょっと待ってて、今から兄さんと春歌を呼んでくるから!」
声が聞こえ、ドアが閉まる音がした。ワタシはその音でハッと目を覚ました。
「えっ?……あれ?」
……私、確かに……心臓を金星に刺されて……。そうだ、金星!なんでワタシのことを殺して……でも、待って。ワタシ、生きてる?
混乱するワタシの耳に、賑やかな声が飛び込んでくる。
「ねぇ、一郎!私の分食べないでくれる? 今夜のデザートがなくなっちゃったじゃない!」
「うるせぇな!いいじゃねえか、また買えばいいだろ!」
「……誰?」
視線を向けると、見知らぬ人物が二人。体格のいい男と、すごく美人な女性が軽口を叩き合っていた。
混乱した頭で彼らを見つめていると、不意に低い機械音が部屋に響き渡る。
「ウィーン」
扉が静かに開き、その先に現れたのは……。
「起きたか」
「金星!?それに……春歌!?」
ワタシは思わず声を上げた。目の前に立っていたのは、自分を心臓から刺した張本人、金星と、同級生の春歌だった。
「紫苑、よく目覚めてくれた。具合は大丈夫か」
心配そうに問いかける金星。しかし、以前とは明らかに状況が違う。
ワタシは先ほどの戦闘で、金星の恐るべき戦闘技術を目の当たりにした。だからこそ、今、はっきりとさせないといけない。
「そんなことよりも、あなたは本当に何者なの?」
ワタシは勇気を振り絞る。
「俺はRに所属している。矛の役割を与えられた人間だ」
予感はしていた。今まで金星が普通の男子ではないことは感じていたし、あの戦闘を見た後だと、彼の言葉が真実だと分かってしまう。
けれど、それならば、余計に分からないことがある。
「じゃあ、なんでワタシを生かしたの? あなたがRの関係者だって言うなら、ワタシを殺すか、尋問して情報を聞き出すのが普通じゃないの? 実際、ワタシは殺されたと思った。けど、こうして生きている……なんで?」
「戸惑うのも無理はない。紫苑、お前は一度、死んでいた。」
「えっ?」
耳を疑う言葉に、全身が凍りつく。
「俺のナイフは確かにお前の心臓を貫いた。そして、抜く際にあるものを体内に入れた。それがこれだ」
金星は、本当に小さなボールのようなものを手のひらに乗せて見せた。
「これは、春歌と良太が開発したものだ。名前は」
「クモちゃん!!!」
金星の隣に立っていた春歌が胸を張りながら、元気よく答えた。
彼女の声にも表情にも自信が満ちている。金星は少しため息をついた後、話を続けた。
「このボールが心臓に触れると、瞬時にクモのような機械に変化し、対象の状態を分析して、適切な治療を施してくれる」
「えへん! すごいでしょ!」
春歌が腕を組み、得意げな顔で金星の横に立つ。
ワタシは驚きを隠せなかった。そんな革新的な代物が存在するなんて、聞いたこともなかった。
「ということは、春歌も……?」
「そう、私もRの関係者だよ。命の役割を任されているの。黙っていたことを謝るつもりはないよ。それは、紫苑も同じだと思うからね」
「……そう、だね」
ワタシと金星と春歌は長い付き合いだ。それにも関わらず、今日まで正体を隠していた。しかし、それぞれに事情があるのは理解している。だから、このことを責める気持ちは毛頭ない。
そんなことを思っていると金星が話しかけてきた。
「紫苑、お前を生かした理由はただ一つ。俺たちの新たな戦力として加えたかったからだ」
「えっ? 戦力?」
驚きで言葉が詰まるワタシに、金星は静かに頷いた。
「あぁ。俺たちはこれから世界を敵に回す。その時に備えて、一人でも多くの戦力が必要だった。だからお前を生かした」
「世界を敵に……? 何の話? 全然意味がわからないんだけど」
「いいか、よく聞いてくれ」
金星は真剣な表情で私を見つめた。その視線には迷いがなく、強い決意が宿っていた。周りにいた人々も全員動きを止め、静寂が広がる。
「俺たちの目的は、Rを壊滅させることだ」
その言葉に、場の空気が一層張り詰める。金星は続けて、この世界で何が起きているのかを語り始めた。
24歳以上の全人類が洗脳状態にあること。その人たち全員を意のままに操れるということ。
それに対して、24歳未満の人々は洗脳を受け付けないという事実。
……そして、金星たちはすでに戦力を着々と集めつつあること……




