外伝 紫苑 4 金星はワタシの友達
「……きっきん……せい」
目の前の光景は事実だ。ワタシは助けられた。けれど、金星はどう考えても普通の中学生じゃない。じゃなきゃ、あんな動き、できるわけがない。
金星がこちらに近づいてくる。心臓が嫌な音を立てている。助けられたはずなのに、何か重いものが胸の奥に沈んでいく。
「「「金星はワタシの友達で、そして、匂いが……しな……い……」」」
その瞬間、全てが繋がった。あぁ、そういうことだったんだ。
【ワタシ、信じたくなかったんだ】
いつもクラスの陰で大人しくしている男子、天野金星。
初めて会った時から違和感があった。匂いがしない。最初は監視対象だからと近づいて友達になった。だけど……
男子なのに気が合った。
将棋を指している時間は楽しかったし、会話だって苦痛じゃなかった。むしろ心が軽くなった。
・初めてだった。男の人の前で笑えたのは……楽しいと思えたのは・
だから、ずっと気づいていたのに。金星が『普通の男』じゃないって、気づいていたのに……信じたくなかった。否定して、目を背けてたんだ……。
ワタシは馬鹿だ……大馬鹿だ。ワタシ……兵器失格ね。
理由も分からず、助けられたこの命。でも、この状況で逃げられるわけがない。
遠く、視界の端に狙撃銃のわずかな光が見える。
殺されるのは分かっていた。
一般人の前で、そして、Rの関係者かもしれない金星の前で、実力を露わにしてしまったんだもん。情報を吐かれる前に処分させるのが、私たち兵器。それが「 I 」のルール。仕方ない……仕方ないけど……もう少しだけ、長く生きたかったなぁ……。
夏菜、ごめんね。あなたの恋を応援できそうにないや……ごめんね、翔。お姉ちゃん、先にいくよ。そして……ごめんね…私……。
体中から力が抜け、ワタシはその場に立ち尽くした。足は動かない。いや、動かそうとする意志すら湧いてこない。目の前の金星と戦おうとは思わない。ワタシが狙撃されて終わり、そう自分の運命を受け入れたように、視線を自然と下へと向いていた。
……せめて、最後くらい。
そう思いながら、金星の顔を見ようと視線を上げた瞬間だった。
鋭い痛みが胸を貫いた。
「……えっ……?」
視界に映ったのは、自分の心臓に深々と突き刺さったナイフ。その冷たさが、身体の芯まで響く。
「……がっ……!」
血が喉を逆流し、言葉にならない呻き声が漏れる。足元に赤い滴が広がり、血が金星の体にも染みていく。
ワタシの体は力なく金星にもたれかかった。
「……あな……たは……」
問いを発したいのに、声が震えて、消えていく。
金星の瞳に浮かぶ冷徹な光。そこに感情らしいものは何一つなかった。
思考が混濁し、視界がどんどん暗くなる。遠くで銃声が聞こえた気がしたが、もう何も感じない。
ワタシの世界は静かに、闇へと閉じていった。
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【……あなた、誰なの?】 ワタシの心の中で、私の声が聞こえてきた……




