第56話 人質
彼女の言葉に、俺は小さくうなずく。先ほどから、店の外の右側で、二人の大人がこちらをじっと見ている。そして、さらにもう二人。
俺は手に持ったスマホの画面をわずかに傾け、反射を利用して背後を確認する。そこには、夏菜と紫苑がいた。
二人は壁際に立ち、こちらをじっと見つめている。紫苑は無表情だが、その瞳には鋭い光が宿っていた。一方で、夏菜は落ち着きなく視線を泳がせている。
そんな二人を確認した俺は、もう二人が気になり、そちらへと思わず歩みを進めようとした。その時……
「おーい、聞こえるか~?聞こえてる?」
店内に響き渡る、関西訛りの大きな声。突然のアナウンスに、周囲の客たちがざわつき始める。
「どうやら、聞こえているらしいのぅ~。ちゅうわけで、ここで皆さんに大事なお知らせや!ええか、耳かっぽじってよー聞きぃ!」
少し間を置いてから、男は薄ら笑いを含む声で続けた。
「今から、君ら全員、人質になってもらうわ。せやから、無駄な抵抗とかやめときや~。ワイら、結構キレやすい性格やからな!」
その発言と同時に、ショッピングモール内に潜んでいた複数の男たちが一斉に動き出した。彼らは手にナイフや銃などの武器を持ち、周囲の人々を威嚇し始める。先ほどからこちらを見ていた二人の男も、腰に隠していた銃を取り出し、無情にも銃口を俺たちに向けてきた。
「君らに向けられてるもんは、もちろん本物やで。ほんでな、下手に動いたら……そりゃわかるやろ?」
関西弁を話す男が楽しそうに声を響かせていた。周囲の客たちは次第に悲鳴をあげ、逃げようとする者たちは次々と殺されていく。それを目撃した人々の反応は二つに分かれた。逃げる者と、その場で動けず震える者。
動かずじっとしている者には手を出さない銃を持った男たちの様子を見て、俺は真希に『動くな』と指示をした。真希は小さく頷き、俺たちはその場に留まることにした。
しばらくして、俺たちも腕を後ろ手に縛られ、そのまま広場へと連行されていった。
ショッピングモール中央の吹き抜け部分には、すでに大勢の人々が集められていた。彼らの周囲を囲むように、武器を持った男たちが立ちはだかっている。その緊張感は、場の空気を一層張り詰めたものにしていた。
広場の中央には、マイクを持っている男が立っていた。背が高く、スーツ姿ではあるが、その笑顔の裏に凶暴さが滲み出ている。
「はい、みなさん、注目~!これで全員集まったんかな?まぁええわ!」
マイクを持った男は楽しげに辺りを見回しながら続ける。独特な声質だったため、すぐに放送した奴だと分かった。
「ワイらの目的は、このモールを拠点にすること。Rの連中が手ぇ出さんように、お前ら一般市民を人質に取らせてもらった。この広場には、ざっと5000人はおるなぁ。少ないなぁ~粗方死んだちゅうことかいな。まぁええ。これだけいれば十分や。仮にも国民は、この国を支える大事な存在や。これで、奴ら(R)も簡単には動けへんはずやろ。まぁ、動いたら動いたで、お前らの存在が明るみに出るだけやがな!」
男の言葉に周囲がざわつき、怯えた表情が一層強まる。
口調からして、関西弁。大阪から来た連中だというのは明らかだ。
だが、それはあり得ない。父さんは任務を達成して帰ってきたはずだ。Rの影響下にあった大阪は完全に制圧されたと聞いていた。なのに、今ここに、大阪で活動していたと思われる連中がいる。しかも、周囲の仲間らしき者たちも同じ背景を持つなら……まだ生き残りがいるということか。
胸の奥に不穏な感覚が広がる中、真希が小声で話しかけてきた。
「兄さん、どうする?」
「ひとまず様子を………」
「バンッ!」
張り詰めた空気の中を、一つ大きな銃声が鳴り響く。




