第54話 真希との休日
勉強会から数日が経った夜、俺たちは任務を終え、家に戻ってきた。
「兄さん、約束覚えてる?」
玄関で靴を脱いでいた真希が、ふと俺に声をかけてきた。
あの約束か。ターゲットを誘き出すために、急遽真希に協力を頼んだときの話だ。
あの時、俺は焦っていて「何でも願いを聞く」と言ってしまった。それを言っているのだろう。
「覚えている。願いは何だ?」
真希は靴を脱ぎ終え、得意げな笑みを浮かべながら振り返る。
「ふんっ!明日、近くにできたショッピングモールに行こう!買い物手伝ってよ!」
覚悟はしていたが……思っていたより普通の願いだった。
買い物か。正直、あまりお金を使いたくないんだが……必要な物はいくつかあるし仕方ない。
「分かった。何時からにする?」
「10時くらいかなぁ~」
「了解だ」
「駅前集合ね」
「分かった……って、何でだ?一緒に行けばいいだろう」
「ダメ」
「わざわざ集合しなくても……」
俺が言い終わる前に、真希は腕を組み、じっと俺を睨みつけた。その目は鋭く、一瞬で空気が変わる。
「兄さん」
「ん?」
「これは願いだよ?兄さん、自分で言ったよね。私の言うこと、何でも聞くって」
「そうだが」
「なら、私の言うことは?」
「絶対………」
「よろしい!では、明日、遅れないように」
真希は急に笑顔になり、スキップをしながら洗面所へと向かった。
俺は少し、ため息をつきながら、靴を脱いだ。
次の日の朝、時刻は9時50分。
俺は待ち合わせ場所のショッピングモール前に到着していた。
ここは、3日前にオープンしたばかりの大型ショッピングモールだ。
駅と直結しているためアクセスが良く、休日ということもあって多くの人で溢れている。
正直、ここに来るのは気が重かった。
理由は単純だ。この場所は、俺が初任務で千明のおばあさんを手にかけた結果、建設された場所だからだ。
たとえ俺が手を下さなかったとしても、組織に目を付けられた以上、誰かがおばあさんを殺し、この建物は建てられていただろう。
だが、その誰かは俺だった。自分の行為が直接、こうして形になったと思うと、罪悪感を感じずにはいられない。
真希に『行こう』と誘われたとき、一瞬、初任務のことを話すべきか迷った。
だが、結局何も言わなかった。
過去の罪は俺一人で背負うべきものだ。真希にまで、その重荷を負わせる必要はない。
そう思いながら待っていると、ふと視線の先に違和感を覚えた。
曲がり角にある店のガラスの前で、何やら奇妙な動きをしている女性がいる。
目を凝らしてみると、その女性は真希だった。
彼女は顔をガラスに近づけて前髪を整えたり、腰をひねってスカートをひらりと揺らしたり、身だしなみを念入りに確認しているようだ。動きの一つ一つがやたらと大げさで、目を引くというか、どうにも落ち着かない様子だった。




