第53話 駿斗がモテすぎな件
時刻は18時。俺たちは図書室を出た。
「そういえば、俺、千明から『プールに一緒に行こうよ』って誘われてるんだよな」
帰り道を歩いている時に、駿斗が急に言い始めた。
「なぁ、お前たちも来ないか? 大勢で行った方が楽しいだろ」
「楽しそうだけど、夏菜はどうする?」
「どうしよっかなぁ~行ってもいいなぁ~」
そう言いながら、紫苑が夏菜に目を向けると、夏菜は俺を見つめてきた。
林間合宿2日目の夜、千明は駿斗に告白する勇気が出せず、結局告白できなかったとメールで教えてくれた。そして、再度挑戦するためにプールに誘ったそうだ。
二人きりで行こうという意味で誘ったはずだが、駿斗は「みんなで行く」と解釈したようで、今、俺たちを誘おうとしている。
千明の告白を応援するなら、二人きりにさせるのが一番だ。いつも通り「習い事があるから」と断れば済む話だ。
しかし……
「駿斗と千明がいいって言うなら、行こうかな」
「じゃあ、私、絶対に行く!」
俺がそう言うと、夏菜が瞬時に反応した。
「ふふふ、なら私も行くよ。……ふふふ」
夏菜が突然笑い出し、紫苑の肩をポコポコと叩いた。
「よし! 決まりだな。8月1日に行く予定だから、そこは空けといてくれ。じゃあ、俺、こっちだから」
そう言いながら、駿斗はこの場を去って行った。
駿斗は手を振りながら別れ道へと進んでいった。その後ろ姿を見送りながら、俺たち三人は家へ向かって歩き出した。
「絶対って………」
紫苑はどうやら謎のツボのハマったらしい。お腹を押さえながら必死に笑いを堪えている。
『本当に意味が分からないが』
「だっだって、これで駿斗君を堕とせるで………あっ」
『本当に意味が分かってしまった』
今日の勉強会に参加したのも、プールの誘いに乗ってきたのも、全て駿斗との距離を縮めるためだったのだと理解した。
しかし、このことを俺が聞いてしまったのは、まずい気がする。聞かなかったことにできるだろうか……無理か。仕方ない、これ以上嫌われるのも嫌だが、これも運命だ。
「もしかして夏菜……」
「今のなぁーーーし!金星は何も聞かなかった!いい!?」
夏菜ではなく、紫苑が何故かフォローに回ってきた。その一方で、夏菜はまるで銅像のように固まってしまっている。
「まぁ、誰にも言わないから安心しろ」
「それもそうなんだけど………違う、何て言うか、そう!夏菜は駿斗をプールに落としたかったんだよ!物理的にね!」
「それは少し無理が………」
「そ・う・な・の。ねぇ、夏菜?………夏菜?」
夏菜は目と口を開いたまま、正面を向いて固まり返事が返ってきそうにない。
「じゃ、じゃあ、そういうことだから!勘違いしないでよ!」
夏菜は紫苑の背中を押して、曲がり角を曲がろうとする。
「本当に違うからねぇーーー!」
二人はそのまま帰り道へと消えていった。
そんな二人を見送った後、俺は頭の中を整理しながら静かに帰宅した。
『それにしても、駿斗は本当にモテるな』
俺の知る限りでは、これで千明、春歌、雪、そして夏菜が駿斗に好意を寄せていることになる。
……まぁ、それだけ駿斗に魅力があるということなのだろう。
それにしても、今日は紫苑の意外な一面を垣間見た気がする。普段はクールで落ち着いた雰囲気の彼女だが、今日は笑顔を見せる回数が妙に多かった。
………どちらが本当の紫苑なのだろうか………




