第44話 林間合宿(裏)11 処分
俺はキャンプファイヤーの間、班のみんなと会話を交わしながらも、遠くから真希を監視していた。
理由はただ一つ。真希がターゲットに狙われているからだ。
しかし、ターゲットは姿を現さなかった。
これだけ人がいる場所では、さすがに動けないのだろう。
『ここで現れてくれた方が正直楽なんだがな』
内心そう思いながらも、これからの手順を頭の中で確認する。
真希にはお風呂に浸かった後で、ターゲットを探すよう命令を出している。
………もちろん、真希を囮に使うために。
だが、彼女を犠牲にする気は毛頭ない。
ただ、ターゲットをおびき出し、この手で片をつけるためだ。
相手は大阪の組織に属している。
そのため、一郎と同様に『アームド』を所持している可能性が非常に高い。
真希はまだ、『アームド』を使う相手との戦闘経験がない。
だからこそ、経験のある俺が相手をする必要があるのだ。
少し離れた場所から真希のスマホについているGPSを追う。
画面上の真希を示す点が突然動きを止めた。
『想定よりも早いな』
俺は一瞬のためらいもなく、足に力を込め、山道を駆け上がる。
そして、視界に映ったのは、まさに真希がターゲットの攻撃を受けそうな瞬間だった。
だが、焦りはない。
状況を冷静に把握し、体が自然に動いた。
俺は地面を蹴り、力を込めた拳をターゲットに向けて振るった。
その拳は空中にいた彼女の脇腹を捉えたが、華麗に受け身を取られ、再び姿勢を整えられてしまった。
「痛いわねー!ってまた、あなた?ほんと邪魔!」
鈴木の表情が険しくなり、俺を睨みつけている。
「兄さん!」
真希が笑顔を見せながら俺に近づいてきた。
「遅れて悪いな。お前は寮に戻って伝えた通り、紫苑の監視だ」
「分かった。頑張ってね!」
真希はそう言った後、俺に背を向けて寮の方へと戻っていった。
「待ちなさい!」
彼女は瞬時に真希に飛びかかったが、俺がその行く手を阻む。
「真希の邪魔はさせん」
「しつこい男はモテないわよ」
「まぁ、モテるつもりはないからな」
「あら、そう。でも、今はそんなことはどうでもいいの。ねぇそこどいてくれない?そしたら、後でお姉さんと一緒に遊べるわよ~」
「断る」
「あのねぇー。私はもう時間が本当はないの!いい加減にしてくれる?」
「生憎とこっちも事情がある。それにお前を処分することは決定事項だ」
「あぁそう。昨日の戦いで勝てると思ったの?それは残念ね」
女は胸の谷間から小さな箱を取り出した。
「私、痛いの嫌いなんだけど、時間がない以上、この際は仕方ないわね」
ターゲットはその箱を床に落とす。箱が彼女の足先に触れた瞬間、『ガキン!』と金属音が鳴り、触手のような物が彼女の足に絡みつく。ターゲットがその感触に苦しみながらも、それらはすぐに形を成し、彼女の足は桃色に輝く金属に覆われた。
「あーヤダヤダ。本当に嫌いだわ、これ。でも………」
ターゲットは突然、俺の視界から消える。次の瞬間、俺の体中に衝撃が走る。
そして、彼女は再び現れた。
「でも、嫌いなところだけじゃないのよねぇ〜」
その衝撃に俺は一瞬、膝をついた。
『あの一瞬で、複数回の同時攻撃。時間を止めた?いや、冷静になれ。そんなことありえない』
彼女が消えたと思った瞬間、すぐに攻撃が伝わってきた。まるで時間が止まったかのように、彼女の動きが全く見えなかった。
一郎と同じく、やはり初見で反応するのは無理か。だが、何よりも驚くべきはその速さだ。
彼女の動きがあまりにも速すぎて、目で追うことさえできない。
「さぁ、どんどんいくわよっ!」
彼女の声が耳元で響くと、次の瞬間、鋭い衝撃が胸に走った。
反射的に体を横に捻り、攻撃をかわそうとしたが、やはりその動きに追いつくことができなかった。
膝裏、頭部、両腕と次々と衝撃が全身をいきわたり、痛みが生じる。最終的に体が木の幹に激しくぶつかり、足元がふらつく。
「ふふ、いい顔になってきた」
静かな森の中に彼女の声が響き渡る。その声はどこか挑発的で、余裕すら感じさせるものだった。
声の方向を探し、必死に目を凝らすが、彼女の姿は見当たらない。木々の間から微かな風の音だけが耳に届く。
次の瞬間、再び衝撃が全身を襲う。
背中、腹、胸……どこに攻撃を受けたのかを認識するのは、その痛みを感じた後のことだ。彼女の動きは速く、攻撃の軌跡を追うことすらできない。
避けるどころか、反撃の隙さえも与えてくれない圧倒的なスピードと正確さが俺を苦しめる。
「くっ……」
思わず膝をつきそうになる体を必死に支える。森の静けさの中で、鼓動がやけに大きく響いている気がした。
「どうしたの?まだ終わりじゃないわよ」
彼女の声が再びどこからともなく聞こえてくる。その声が鼓膜を打つたびに、俺の意識は研ぎ澄まされていく。
彼女の攻撃は絶えず続く。
「ほらほらーもっと見せなさい!」
一撃ごとの衝撃は一郎の足元にも及ばないが、その速さと、同時に複数の攻撃を仕掛けることによって、まるで無限の力を持っているかのように感じる。
一番の強みである軟体動物に近い柔軟性を巧みに使い、関節を曲げて複数の同時攻撃を可能としている。
俺が今も立っていられるのは、彼女の元々の力が弱いからだ。
アームドは体を壊さず200%の力を発揮するらしい。つまり、元の力が弱ければ、増大した力も比例して弱い。
しかし、強くなったことに変わりはなく、あの俊敏さは別次元だ。目で追うのが不可能な速さで動き回る。
個々の攻撃は弱くても、その圧倒的な速さから繰り出される連打が襲ってくる。 一つ一つは微力でも、総和は脅威となる。この状況では防御も反撃も至難の業だ。
『確かに敵は強い………だが、俺のやることは変わらない』




