第42話 林間合宿(表)10 嫌われたかもしれん
夕食は再びバイキング形式だった。
俺はできるだけ食べたことのない料理を多くトレイに乗せ、空いている席に腰を下ろす。
今日が合宿最後の夕食だ。みんな、仲の良い友人と楽しげに話しながら食事をしている。聞こえてくるのはサバイバルゲームについての話題がほとんどだ。どの席もにぎやかで、笑い声が絶えない。
今日は一人で食べるつもりだったが、なぜか不思議な予感がしていた。
思い返してみればこの合宿中、俺は必ず誰かと一緒に食事をしている。イベントの流れで、班のみんなに食事に誘われたり、それがなかった昼は佳と共に食事をした。
俺は先ほど、班のみんなに食事を誘われなかった。つまり、昼食に佳が来たように、この夕食も誰かが来る気がしていたのだ。
そんなことを考えていると本当に来た。
「ねぇ、隣空いてる?」
話しかけてきたのは紫苑だ。その後ろには、少し控えめな様子で夏菜が隠れている。
昨日の件以来だろうか。いや、今日のサバイバルゲームで少し関わったな。確か、夏菜が転んで撃たれそうになったとき、俺が庇って軽く応急処置をした。それくらいの接点だ。
「あぁ」
俺の左隣に紫苑、その隣に夏菜が座り、二人とも料理を机の上に置いた。
「ほら、言うんでしょ?」
紫苑が小声で促すと、夏菜は少し顔を俯けて、恐る恐る俺を見た。
「うっ、うん………」
夏菜と視線が合った瞬間、彼女は慌てて目を逸らした。そして、少し躊躇いながら口を開く。
「昨日………助けてくれて、ありがとう。それから………今日も………」
彼女は両手の人差し指をくっつけたり離したりしながら、消え入りそうな声で言う。その頬がうっすら赤いのが目に入った。
昨日の怪我に加え、本人にとっては災難続きだろう。体調を崩さなければいいが。
「気にしなくていい。怪我は悪化していないか?」
夏菜は再び紫苑を壁にして、俺の視界から外れようとしてくる。
『どうしたんださっきから、もしかして、俺のことが嫌いなのか?』
思い当たる節を少し考えた結果、十分あり得る話だという結論に至った。
俺は彼女を助けるとはいえ、これまで関りがなかった男子である俺に体を触れられたんだ。それに、お礼を言わなきゃいけない状況自体が、彼女にとって負担だったのかもしれない。
先ほどから、夏菜は俺の顔を直視できていない。
………つまり、俺の顔が生理的に無理なのかもしれない。
整形をするつもりは今のところないため、申し訳ないがそこは我慢してほしいと心の中で願うしかなかった。
「大丈夫大丈夫………元気」
「なら、よかった」
「あっあの!」
「ん?」
「そっそれだけだから!」
夏菜は咄嗟にトレイを持ち、この場を去った。
「夏菜!?どこ行くのー!」
「もうお腹いっぱいだからーーー」
「何も食べてないでしょ。もう、どうしちゃったんだろう夏菜。さっきから何か変なんだよね」
やはり俺から距離を取ろうとする。これは完全に嫌われたな。学年委員に嫌われたのは痛いが、こればかりは仕方ない。
紫苑は『ごめん』と俺に言い残し、夏菜を追いかけていった。
その夜、外の広場ではキャンプファイヤーが行われた。
合宿最後の夜ということもあり、大きな炎を囲む生徒たちは皆、笑顔を浮かべていた。誰かがリズムに合わせて踊り出せば、それに続く者が現れ、輪になってはしゃぐ。周囲には笑い声や歌声が絶えず、夜の空気は一層賑やかだった。
少し離れた場所では、雪と幸子、夏菜と紫苑が話し合っている姿が見えた。
表情こそ硬いが、口調や態度には険がなく、穏やかに会話を続けているようだった。仲良くなったとまでは言えないが、揉める様子もない。駿斗が間に入って説得してくれたおかげだろう。
キャンプファイヤーが盛り上がる中、俺も班の人たちと他愛のない会話を交わしながら、夜の空気と炎の暖かさを楽しんだ。
やがて、炎が少しずつ勢いを失い、周囲が静かになってくると、名残惜しそうに撤収の準備が始まった。生徒たちはそれぞれに笑顔を浮かべながら広場を後にし、湯気の立ち込めるお風呂場へと向かった。




