外伝 夏菜 5 気づけば彼を見ていた
『???』はサバイバルゲームと知らされた時、男子はすごく喜んでいたけれど、私たち女子のほとんどが真顔だった。
鬼ごっことか、施設を使って体育大会みたいなことをすると踏んで、色々と駿斗に近づく方法を考えていたのに、全てが台無しになった。
けれど、まだ諦めたわけではなかった。
駿斗の目の前でわざと転んで助けてもらう作戦。銃撃戦ならどさくさに紛れて近づくこともできるはず。そこで助けてもらえば距離を縮められる。
そう考えた私は、本番が始まった瞬間に友達から離れて駿斗がいる方向へと向かった。
『いたぁー!けど、お前もいるのかい!』
木の壁に隠れている駿斗を見つけることができたけど、隣に天野金星もいた。
でも、もうキャンプファイヤーまで時間がない。早く誘わないと。
「駿斗君!………きゃあっ!」
これは計算ではなかった。本当に地面の窪みに足を取られて転んでしまったのだ。
「痛たた………擦りむいちゃった」
でも結果オーライかも、駿斗君の目の前で転ぶことはできた。痛いけど、これであとは駿斗が助けにくれば………
「夏菜!」
顔を上げた瞬間、目の前に天野金星が覆いかぶさってきた。
『何してんのよ!そこは駿斗が………』
あれ?おかしいな彼の顔を直視できない。顔を上げようとするけれど、力が入らない。
「夏菜、怪我しているだろう。膝、見せて見ろ」
彼は手を挙げて「ヒット!」と大きな声で宣言すると、私の膝に目を向けた。次の瞬間、ポケットからハンカチを取り出して傷口にそっと当て、それを軽く縛り始める。
『えっやだ。触んないで』
心臓の鼓動がうるさすぎて、周りの音が聞こえない。風の音も、銃声も、みんなの歓声も。聞こえてくるのは、彼の声だけ。
「肩を貸すから、腕を回せ」
彼がそう言うと同時に、私は手を伸ばしてしまった。
『なんで助けるのよ。私はあなたを遠ざけようとしたのに。あなたはモブキャラでいなさいよ。私の物語に入ってこないでよ。やめてよ………もう、心が痛いの』
心の中で何度も言い聞かせる。それなのに、心臓が壊れそうなほど速く鼓動している。こんなにも胸が痛くなるものなの? それが嫌なはずなのに、不思議と悪くないと思ってしまうのはなぜ?
『違うの、私は………駿斗を私に惚れさせる計画を進めなきゃいけないの!あなたじゃない!あなたじゃ………』
『トクン………』
私はサバイバルゲームを棄権し、再び保健室に行った。
星崎先生に治療してもらって訓練場に戻ってきた。
観客席から、訓練場が一望できる。見るとちょうど、私たちのクラスと五組のクラスが戦っていた。
「すごい、また当てた。かっこいい………おぉ、あんなところからまた………
そこに敵が………あぁ、ほしい!負けちゃった」
あれ?今、私、誰のこと見てたかな?
サバイバルゲームが終わった。うちのクラスは三位という結果になった。
数分後、紫苑が私の元へ駆け寄ってきた。
「大丈夫?どこか痛いところある?」
「大丈夫。ただのかすり傷だよ」
「本当?よかった~!」
「心配してくれてありがとう」
紫苑は安心したように胸を撫でおろす。だが、ふと彼女の視線が私の手元に向けられた。
「そのハンカチは?」
「えっ?」
言われて初めて気づいた。私の両手は、まるで宝物を守るようにハンカチをぎゅっと握りしめていた………




