外伝 夏菜 運が悪すぎた日
「夏菜さん!ぼ、僕と付き合ってください!!!」
「ごめんなさい。私、彼氏がいるの」
このやり取りを、私はもう30回以上繰り返している。
私の名前は朝倉夏菜。父は医者、母は看護師。二人ともとても美形で、その遺伝子を受け継ぐ私も、美人に育った。
周囲からは数えきれないほど『かわいい』『美人』『綺麗』と言われ続けてきた。
だけど、そんな私に彼氏がいたことは一度もない。
大人になっても私はきっと美人のままでいるだろう。だから、今は無理に彼氏を作る必要はないと思っている。
母のような看護師を目指しているから勉強もしなければいけないし、趣味のダンスに打ち込む時間もほしい。
正直、男に構っている暇があったら友達と遊んで好感度を上げるか、勉強やダンスに時間を使いたいと思っている。
だけど、中学校に入学して数か月後、ある男子を見て考えが少し変わった。
宵宮駿斗………彼は付き合って時間を割いてでも彼氏にする価値がある、ハイスペックな男子だったのだ。
今まで多くの男を見ては、告白されてきた私は思ってしまった。
『こんな男、滅多にいない』
私はそう確信し、この男を自分に惚れさせようと心に決めた。
もし駿斗を自分のものにできたら、将来は安泰。他の女子に嫌われても構わない。どうせ中学の3年間だけの付き合いだ。それ以降は関わる必要なんてない。
だけど、どんなにアプローチしても、駿斗は私を振り向かない。
『どうして?私は可愛いよね?こんなに頑張ってるんだから、早く惚れなさいよ』
そう思いながら必死に駿斗を振り向かせようと行動していた時、ふとクラスのある男子が目に入った。
名前は確か・・・
『天野?金星………だっけ?』
彼は自己紹介も地味で、特に目立ったところもない。休み時間は本を読んでいるか寝ているだけで、友人も少ないモブキャラだ。
気楽そうで羨ましいわ。こっちは色々忙しいっていうのに。
私はそんな天野金星を、考える価値もないと判断し、すぐに意識の外へ追いやった。
林間合宿が始まった。
これから楽しいイベントが続くこの期間中に、しっかりと駿斗との距離を縮めて、キャンプファイヤーで最高のシチュエーションを自分で作り出す。
そう作戦を立てた私は、気分を高めながら合宿に臨んだ。
オリエンテーションが終わり、一人でトイレに向かう。
『さて、まずはどう仕掛けようかな』
そう考えながら、トイレのドアを開けると、そこには長い髪をした女性が立っていた。
「あなた、運が悪いわねぇ〜」
そう呟いた彼女が突然私に襲いかかってきた。
私はなすすべもなく、口元にハンカチを押し当てられると、そのまま意識を失った。




