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アルガナイ…力を失ったルシファー 学園生活を謳歌する?  作者: T.T
世界の一端

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第37話 林間合宿(表)8 山登り

二日目


 俺は6時30分に目を覚ました。

 みんなはまだ寝ているため、静かに窓のカーテンを少しだけ開けた。

 草木が生い茂っている山々が見え、霧が辺り一面を覆っている。朝日の光が反射してとてもきれいな景色だった。

 それを眺めながら二人の人物とメールのやり取りをし、準備を済ませ、朝食を班のみんなと食べた。


 時刻は9時を回り、体験学習が始まろうとしていた。

 オリエンテーションを行った場所が集合場所となっており、そこに一学年全員が揃った。


「これから、体験学習を始めさせてもらいます。カヌー、山登り、魚釣りの場所は知っての通りそれぞれ異なる場所で行われます。我々スタッフが案内し、担当の者がその場で説明を行いますので従ってください」


 俺たちの班は山登りだ。

 山登りを選択した班が、担当スタッフのもとに次々と集まってくる。

 周囲を見渡して班の集合状況を確認していたその時、肩をそっと叩かれた。振り向くと、そこには千明がいた。


「おはようー金星ー」


 そう言うと顔に手をつけ、壁を作り小さな声で呟いてきた。


「ねぇ、作戦のこと忘れてないよね?」


 俺もそれと同じくらいの声量で返事をした。


「あぁ、もちろんだ。お前こそ、メールを送るのを忘れていないよな?」


「当たり前じゃん!昨日一日中、これでいいのかぁなぁ~、いや違うなぁ~って、夜の12時くらいまで考えましたから」

 

 千明は両腕を腰に当て自慢げに胸を張る。

 考えすぎでは………


「ちゃんと寝れたのか?」


「平気平気~~………じゃないよぉ~。緊張で今にも心臓が飛び出そうなんだよ~助けて~」


 すぐに肩をすくめ、頭を少し下に下げた。


「俺にはどうすることもできないな」


「うぅーけち!」


 専門外だ。


「ヤバい!はやとくんが接近中!じゃ、後で連絡ちょうだいよ!バイチー!!」


「おう」


 千明は俺が伝えた作戦を行い、今夜はやとに告白する………

 俺は心の中で千明に謝り、班と合流した。


 俺は班の仲間たちと山登りの準備を始めた。リュックを背負い、スタッフから配られた地図を確認する。今日のコースは山の中腹まで歩き、その後ロープウェイで頂上まで向かう予定だ。

 頂上では写真撮影をし、再び同じルートで戻る。所要時間はおよそ2時間45分とのこと。険しい箇所もあるが、途中に休憩ポイントがいくつか設けられているらしい。


 スタッフを先頭に、各班が一組から順に並んで歩き出した。俺たちの班は先頭だ。最初は緩やかな道が続き、木漏れ日の中を歩くのは心地よい。俺も自然に囲まれた空気を吸い込みながら、気持ちよく足を進めていた。


 だが、少しだけ気になることがある。

 今日は晴れの予報が出ており、地元のスタッフも『これなら問題ない』と言っていたが、山道を進むにつれ、空模様がどんどん怪しくなってきている。

 山の天気は変わりやすいとは言え、この雲行きは………


「金星、大丈夫?」


 前を歩いていた班の仲間が振り返って声をかけてきた。どうやら俺が少しペースを落としていたらしい。


「ああ、大丈夫。悪い、少し考え事してた」


「そっか。でも、ぼーっとしてると転ぶぞ。これから先、結構急な坂になるからさ」


「気をつけるよ。ありがとう」


 その時、前方から誰かの声が聞こえてきた。


「うわ、マジかよ………」


 『どうした?』と誰かが尋ねると、先頭にいた駿斗が険しい顔で振り返りながら答えた。


「倒木だ。道を塞いでる」


 前方を見上げると、太い木が横たわり、完全に進路を塞いでいるのが見えた。

 幹はまだ生木のようで、どうやら最近倒れたばかりらしい。木の根元が土ごと持ち上がり、地面にはまだ湿った土が露出している。


『うわ、本当にこれ、通れないな』と、誰かが呟く。俺たちは顔を見合わせ、不安そうな表情が浮かんだ。


 その時、スタッフが冷静な声で指示を出した。


「皆さん、一旦止まってください。これ以上進むのは危険です。倒木を迂回して進む場合、時間がかなり掛かるうえ、雨が降りそうな状況になっています。このまま無理をするのはリスクが高いので、引き返しましょう。安全が最優先です」


 先頭にいたスタッフが、一番後ろに控えているスタッフに無線で連絡を取り、引き返す準備を整えた。隊列を組み直し、今度は先ほど先頭だった俺たちの班が最後尾となる形で進み始めた。


 足音が湿り気を帯びた土を踏みしめる音を立て、風が木々を揺らす音が周囲を包む。小鳥の鳴き声がかすかに響いていたが、山の静けさにはどこか不安を煽るような重さがあった。


 雲はさらに厚みを増し、空はまるで夜が近づいているかのように暗い。湿った空気が肌にまとわりつき、じっとりと汗ばんだ体を冷やすようだった。


 足元を注意しながら進む中、ふと前を歩く班員の一人が小声で呟いた。


「これ、雨………降るんじゃない?」


 その声は静かな緊張を広げるようだった。誰も返事をしなかったが、全員が同じことを考えているのが伝わってきた。その瞬間、ひとつ、ふたつと頬に冷たい感触が落ちてきた。


「あ、降り始めたかも」


 ぽつぽつと降り出した雨は、すぐに木々を叩く音を伴い、降水量を増していく。濡れた葉が滑りやすくなり、土の道もぬかるんで足を取られそうだ。


「急ぎましょう!」


 後方のスタッフが声を上げ、俺たちは少しペースを上げて歩き始めた。だが、道は滑りやすくなり、誰かが足を滑らせないかと気を張りながら進む必要があった。


 なんとか無事にスタート地点に戻ることができ、集合地点ではスタッフが一斉に各班の状況を確認していた。そして、全員が揃ったのを見計らって、スタッフの一人が発表した。


「山登りはこのまま中止とします。他のイベントについても、安全を最優先に考え、中止とする判断になりました。皆さん、申し訳ございません。これからは室内で休憩を取る時間になりますので、指示に従って行動してください。お昼まで時間がありますので、お風呂に入りたい方は、ご自由にお使いください」


 その言葉に、班員たちからは安堵のため息と、少しの落胆が漏れた。楽しみにしていた体験学習が途中で終わってしまったのは残念だったが、誰も無事に戻れたことに感謝しないわけにはいかなかった。

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