第36話 林間合宿(裏)7 契約
夕食の前、俺は駿斗を呼び出していた。
「お前の指示通りに女子を言いくるめたぞ」
「ありがとう」
「お前が坂に落ちた直後、俺はすぐに雪を叱った。彼女は泣いて反省してる風だった」
「分かった。これから班の人たちと合流すると思うが、引き続き頼む」
「了解」
俺と駿斗は、小学3年生の頃からある契約を交わしている。
駿斗には両親がいない。彼の家庭を支えているのは祖父母の年金だけで、経済的に苦しい状況だった。ある日、そのことを知った俺は、彼に提案した。
『俺が金を出す。その金は好きに使って構わない。ただし、俺のどんな命令でも聞くこと。俺が関与している問題を解決すること』
これらを条件に、こうして契約が成立した。
それ以来、俺は彼に支援を続けている。もちろん、俺の仕事(R)については伏せたままだ。
俺が金欠な理由はまさにこれだ。これのせいで俺は良太に依頼料を払えていないということだ。悪いとは思っている。
俺は学校にいる以上目立ってはいけない。だから、協力者がいたほうが色々と立ち回りやすい。
夕食時、俺たちは班のメンバーと一緒に食事をした。
駿斗は人差し指を口元に当てると、メッセージアプリのグループに「喋らないで、ここで話そう」と送った。
すぐに一人が返信してきた。
「何でわざわざ文字で会話するんだ?」
それに答える前に別の話題が続いた。
「金星、お前よく無事だったな」
「本当だよ。夏菜さんを助けるためとはいえ、あの坂を飛び出すなんてすげぇよ」
「俺なんて一歩も動けなかったのに、お前はよく反応できたな」
「しかも、気づいた時には空中で夏菜を抱えてたもんな。ヒーローみたいだったぞ!」
その言葉にみんなが笑いながら同意するが、話はすぐに雪に移った。
「それにしても雪の奴、ひどいよな。普通、人を驚かそうとして背中押すか?」
「金星が助けなかったら、どうなってたか、わからないよな」
「もう雪とは関わりたくないな。それで、金星は先生に報告したのか?」
突然、矛先が俺に向けられた。
この四人はその現場にいた。正直に答えるべきだろう。
「保健室の先生には、夏菜が足を滑らせて落ちたとだけ伝えた。雪の名前は出していない」
驚いた様子の4人を前に、駿斗が返信を送った。
「俺がそう指示したんだ。あの場にいたのは紫苑の班と俺たちの班だけ。この件を黙っていれば何も起きない」
「でも、雪がまた同じことをするかもしれないだろ?」
「それはわかってる。けど、夏菜には記憶がない。それに、俺が雪を散々怒った。彼女も泣いて反省しているはずだ」
俺は夕食のとき、雪が腫れた目をしていたのを思い出した。どうやら駿斗に叱られたらしい。
「それでも雪を庇う必要はないと思う」
「もし先生に言ったら、俺たちの合宿は台無しだ。最悪、明日帰ることになるかもしれない。それは嫌だろう?夏菜も記憶がない以上、困るはずだ」
「………そうだな」
「俺たちができることは、この件をここだけに留め、周りに迷惑をかけないことだ。合宿が終わった後も黙っていてくれ。修学旅行や他の行事にも影響が出るかもしれない。これは班長としての俺の不注意だ。雪と夏菜を引き離すべきだった。すまない、協力してくれると助かる」
「そこまで考えていたのか。なんかごめんな」
「そうだな」
「過去は過去ぞ」
「はい、厨二病ー」
「中一ですぅー」
と、一気に和んだ。
夕食で、はやとがみんなを説得している時、食器を片付ける良太に合図を送った。
すると、肩をすくめ『了解』だと来た。
レクリエーションで、みんなが笑いながら見ている中、俺と良太は後ろの壁際で会話をしていた。
「なんだ?我が右腕よ」
「頼みがある」
「聞くと思うか?」
「道具(新しい武器)が手に入る可能性が出た」
「そんなことよりも、返す物を返せ」
「もしも、お前が協力してくれたら、あれ(依頼料)は倍して返す。道具も渡そう」
「本当か?」
釣れたな。
良太はRの技術者。アームドという未知の武器は気になることだろう。
「あぁ、本当だ。それにやることは簡単だ」
俺は良太に作戦を伝えた。
「簡単すぎるな。あまりに都合が良すぎる。俺が手伝ったら、本当にくれるんだな?」
「もちろんだ」
「わかった。具体的なことを後で送ってくれ」
「助かる」
こうして、1日目を終えた。




