第35話 林間合宿(表)6 保健室
その後、長い時間をかけて俺は夏菜を抱えながら山を登った。
宿泊施設である寮に到着した頃には時刻は17時10分。
自然観察には間に合いそうになかったため、事前に駿斗に連絡を入れ、休ませてもらっていた。
俺は夏菜を寮内の保健室に連れて行く。
「失礼します」
「何かね……どうした?」
星崎先生は書類を整理していたようだが、夏菜の姿を見て手を止め、すぐにこちらへと向かってきた。
「ハイキング中、夏菜が足を踏み外して坂から落ちてしまいました。彼女は今、気絶しています。診ていただけますか?」
「怪我がないようだが、それはどうしてだ?」
「彼女を守るため、俺が下になって滑り落ちました」
「どうやって?」
普通ならあの状況で抱き寄せるのは不可能に近いだろう。先生の疑問も当然だ。
「色々とありまして」
「はぁ~言わないのならいい。彼女をそのベッドの上に」
俺が夏菜をそっとベッドの上に乗せると、先生はあることに気が付いた。
「お前、その怪我はなんだ?少し見せて見ろ」
先生は俺の背中を見るため、両手で肩をがっちりと固定してきた。その後、少し怒った口調で口を開いた。
「説明しろ」
「これは小学生の頃に負った傷で、先ほど再び開いた感じです」
「そうか………それにしても深いな」
「先生!夏菜と金星は!」
ドアが勢いよく空き、現れたのは駿斗だった。
自然観察が終わって急いで帰ってきたのだろう。額に汗をかいている。
「ゆっくり開けなさい」
「すみませ……おい、大丈夫か金星。その傷、あの時の……」
「あぁ、大丈夫だ。ただ少し開いただけだ。それより、班のみんなは?」
「みんなももうすぐ来ると思う。俺だけ先に走って戻ってきたんだ。夏菜は?」
俺が視線で『そこだ』と伝えると、駿斗は夏菜の元へ駆け寄り、手をそっと握って言った。
「無事でよかった……」
本当にこいつは良い奴だ。千明と春歌が惚れるのも納得だ。それどころか、ほとんどの女子が彼に好意を寄せている可能性すらある。雪と幸子の様子もあり、その確信がさらに強まった。
星崎先生が俺に目を向け、少し険しい声で問いかけた。
「君の怪我は私が後で治療するとして、夏菜は本当にただ足を踏み外して坂から落ちたんだな?間違いないか?」
その目は何かを探るようだったが、俺は迷わず答えた。
「はい。その通りです」
駿斗も状況を察したようだ。
「自分も近くで見ました。間違いないです」
「そうか、分かった。この件はそういうことにしておく」
駿斗は保健室を退出し、俺は治療を受けた。
お風呂は一組から七組の順番で、一クラスずつ入る仕組みになっている。
保健室にいた時間はおよそ45分。
部屋に戻り急いで風呂場に向かったが、一組の入浴時間はすでに終わっていた。
風呂場の前に立っていた先生に事情を説明すると、「仕方ない」と言われ、特別に入浴を許可してもらったが……。
浴場に入ると、何やら無数の視線を感じる。
当然だ。自分のクラスの入浴時間ではない中、他クラスの男子が一人だけ混ざっているのだから、注目されて当然だ。
俺は温泉に浸かりながら、じっとりとした視線の中、肩身の狭い思いで湯気に紛れるように身を縮めた。
『……なんか、すまん』
風呂から上がると、夕食の会場へ向かった。
夕食はバイキング形式で、各自好きな料理を自由に取れるスタイルだった。普段あまり会話を交わさない他クラスの生徒とも自然と話す機会が生まれ、賑やかな雰囲気が広がっていた。
夕食後、広場で行われたレクリエーションでは、演劇部や漫才部がそれぞれの出し物を披露し、会場は笑いと拍手に包まれた。
最後には、先生たちがサプライズでコントを披露し、会場の熱気は最高潮に達した。
こうして、林間合宿の一日目は笑い声に包まれながら幕を閉じた。




