第33話 林間合宿(表)4 きっかけ
その後、俺は紫苑と夏菜と共に再び火を起こす作業に戻った。湿った薪に苦戦しながらも、夏菜が一歩前に出て声を掛け合い、なんとか火を安定させることに成功した。
一方で、駿斗は雪と幸子の注意を引きつけつつ、作業を進めさせていた。彼は軽く冗談を交えながら、二人の苛立ちを和らげ、なんとか場を収めようと努力していた。
里香と渚には、俺たちの班に混ざってもらい、俺と駿斗の分の料理を先に食べてもらった。申し訳なさそうにしながらも、二人は状況を理解してくれた。
こうして俺たちは何とか料理を完成させ、班全員で食事を終えることができた。食器洗いや片づけも、ぎりぎり時間内で全員協力して終わらせることができた。班の中に少しだけ安堵の雰囲気が広がっていた。
完全に解決とは言えないが、次に進む準備は整った気がした。
ハイキングが始まった。
グループごとに隊列を整え、先生の指示に従って出発した。
ハイキングは目的地が決まっており、そこで自然観察をやるようだ。次の時間までに、到着できれば、どんな道を辿っても良いという。
俺と駿斗は行く前に相談し、念のため、紫苑たちの班に付いていくことを決めた。
俺たちは紫苑たちの班の後ろについて歩き始めた。
森の中に入ると、周囲は一気に緑に包まれた空間に変わる。鳥のさえずりや風が木々を揺らす音が心地よく、自然の中にいることを実感させる。
道の最初のうちは幅が広く、歩きやすかった。けれど、しばらく進むと、道が徐々に細くなり始めた。湿った地面が滑りやすく、注意して歩かないと足を取られそうになる。紫苑が何度か振り返りながら夏菜を気遣う姿が印象的だった。
「こっちの道、大丈夫かな……?」
夏菜が不安そうにつぶやく。
「たぶん、大丈夫だよ。地図だと、これが近道になってる」
紫苑が少し先を見ながら答える。彼女は地図を持ちながら進んでいて、周囲の状況を確認していた。
地図では確かに人が通れるが記されており、この道を真っすぐ行ったところに目的地はある。しかし、細い道はさらに険しくなり、足元には小さな石や枝が転がっている。左には土の壁があるが、右は急な坂になっている。おおよそ1.5人分の幅しかなくなった道で、夏菜がバランスを崩しそうになり、紫苑がすぐに手を伸ばして支えた。
「ありがとう………ごめんね」
夏菜が小さく礼を言う。その顔は緊張で強張っていたが、すぐに気を取り直して歩き始めた。
雪と幸子は特に声をかけることもなく、ただ前を歩いている。二人の間にはあまり会話がなく、どこかぎこちない雰囲気だった。そう感じた瞬間、雪がふいに夏菜のもとに近づき、背中を軽く押したのが見えた。それを見た途端、胸騒ぎがして俺は全力で駆け出した。
夏菜は体勢を崩し、足で踏みとどまったが、そこは細道の端だった。
「きゃっ!」
俺は反射的に飛び込み、手を伸ばして空中で夏菜を抱き寄せることに成功したが、坂は想像以上に急だった。俺たちはそのまま一緒に滑り落ちてしまった。
とっさに夏菜を守ろうと、彼女を上に抱きかかえ、自分の背中から滑り落ちる形を取った。
足を使ってなんとか勢いを殺そうと試みたが、地面は大量の落ち葉で覆われており、それが湿って滑りやすくなっていたため、思うように減速することができなかった。
そして、大きな岩に背中を強く打ち付けた衝撃でようやく止まったが、その瞬間、あの事件で負った背中の古傷が開いたのか、鋭い痛みが走った。
「天野くん大丈夫?」
「あぁ、平気だ。それより夏菜は大丈夫か?」
「うん。どこも痛く無いよ。天野くんが助けてくれたから。でも、どうしよう
この坂登れるのかな?」
「まぁ、無理だろうな」
「だよね」
「なぁ、そろそろ話さないか?」
「何を?」
俺と夏菜は長い会話をした。




