外伝 千明 5 最終試験
たった一つの思いを支えに、私は多くの訓練を耐え抜いた。何度も試験をこなし、全てに合格してきた。
私は、最終試験のためにヘリでどこかへと運ばれている。
ヘリの中には、モニターがあり日付と時間が映し出されていた。画面を見ると、夏休みはもうとっくに終わっており、いつの間にか三月になっていた。
ヘリが目的地に到着すると、私はスマホを手渡され、ヘリから降ろされた。そして、そのままヘリは音を立てて飛び去り、私は見知らぬ島に一人取り残された。
前を見れば森が広がっており、遠くには山が見える。後ろを見れば砂浜と、海が月の光を照らしながら輝き、どこまでも続いているような地平線が見える。
素敵な場所だが、もっといい場所があった気がするなんだっけ………
今はいいか。
数分後に、島全体に響き渡るアナウンスが聞こえた。
「これより、最終試験を開始する。ルールは簡単だ。三日以内に、この島にいる自分以外の者を全て殺すこと。最後の一人だけが生き残るサバイバルだ。食料は自分で調達しろ。もし三日以内に二人以上が生き残っていた場合、全員が胸につけている装置が作動し、爆破する仕組みになっている。島から出た場合も当然、その場で爆破だ。一人になった瞬間に試験は終了だ。残りの人数と経過時間は、先ほど渡されたであろうスマホで確認できる。また、島内には武器が点在している。それもスマホで確認しろ。どんな手段を用いても構わない。ただ、自分の生存だけを考えろ。では、最終試験を開始する」
私はすぐにスマホを確認した。画面には(30人)と表示されていた。私以外に29人が同じ島にいる。武器の位置も確認し、私は行動に移った。
「試験終了。数分後にヘリが到着する。それまで待機するように」
試験は、わずか一日半で終わった。私は、30人中20人を自らの手で殺した。
最後の一人は私を前にした時、自ら命を絶った。よく分からないがこれでようやく、目的が果たせられる。そう思ったら、疲れが一気に襲ってきた。視界が少し歪み、体が重く感じた。
『少し気が緩んだかな』
ずっとこの日まで訓練が続いた日々、睡眠はしていたが気を緩められない環境だったため、しっかりと眠りにつけていたわけじゃない。私は、よく頑張ったと思う。
試験が終わって数分後、黒スーツの男一人が浜辺の近くで着陸したヘリに案内してくれた。ヘリに乗って数時間が経過し、ようやく着いたようだ。と思ったら、今度は車に乗せられた。
さらに数時間後、車から出るとそこには何もなかった。
ただ、分かることは森の中ということ。周囲は、木で覆われている。運転席と助手席は切り離されていて、私が座った助手席は黒い壁で覆われていたため、車のドアを閉めた後は何も見えなかった。どうやって、この森の中を運転してきたかさえ分からない。
私が周囲を見渡している間に、男が何もないところで何かを操作している。すると、車周辺の床が沈み地下に飲み込まれていく。
ゆっくりと下に沈んでいき、ある程度沈むと天井が閉まり真っ暗になったが、すぐに壁の中から明りがついた。
辺りは灰色の壁で覆われており、一つの大きなドアが現れた。男が開け私は中に入った。
私は、自分の目に映る光景に息を飲んだ。そこには、巨大な町が広がっていた。
天井が黒く、星がない夜空が広がり、その下には無数の明りが灯り、町全体がくっきりと浮かび上がっていた。建物はガラスや金属でできているのだろうか、明りが反射してキラキラとしている。
ビルのような高い建物がそびえ立ち、その間を貫くように、透明なトンネルが交差している。空中に浮いている道路のようだ、車がそのトンネルを走り抜けている。
第二の都会と言ってもいい、いや未来の都会の方が近い。
街をゆっくり眺める時間も与えられず、男はこっちへ来るよう合図をしてきた。街に行くのではなく、壁の方に案内され、男がまた操作すると壁が音を立てながら開いた。
数分間、また灰色に覆われた通路を歩くとまた、扉がありそこに入ると辺り一面真っ白な部屋だった。前にはたくさんのモニターがついており、色んな姿をした人たちが映っている。
モニターの前では、数人椅子に座りながら何かをしている。
そして、それを見渡すように段が高い椅子が一つあり、誰かが座っている。
「おぉ、やっときたか」
男がこちらに顔を向けそう言ってくると、私に付き添っていた男は敬礼をした後、どこかへと消えた。
「とりあえず、合格おめでとうと言った方がいいだろう」
男は階段を降り、私の元へ来た。
「あなたは誰ですか?」
「自己紹介がまだだったな、私は副団長だ」
「副団………」
私ははっとなり、右膝をつき左足を90度に曲げその場にひれ伏した。最初の試験が終わった時に山本に言われたことを咄嗟に思い出したからだ。
「最初の試験が終わった後に悪いが、言い忘れていたことがあるから言っておくぞ。この『 I 』には団長と副団長がいる。その二人はこの組織で、一、二番目に権力を持つ人だ。たとえ、お前が最後まで合格できたとしても、この人達に選ばれなければそれまでだ。まぁ、会うか分からないが、とりあえず伝えたからな」
山本はそう言っていた。
この人が副団長。確かに言われてから意識したけれど、強そうに見えない。山本の方が段違いに強く見える。
『けれどなんだろう、違和感がある。山本同様に勝てる未来が創造できない。分からない。だけど、今は分析している場合じゃない。粗相のないように振舞わないと』
私が脳みそを回転させていると、副団長と名乗る男が右手を手に挙げながら発した。
「結構。立場をしっかりと理解しているな。それでは君の現状を話すとしよう」
副団長は私の今の現状を報告してくれた。
息を整えて、聞き漏らさないようにしっかりと耳を澄ませた。
私は父親の仕事の都合により海外で過ごしている設定らしい。母が亡くなったため娘を一人にできないからと、私を一緒に連れて行った。
そして、父の仕事が終わり再び日本に帰ってきたという流れだ。これは学校側にすでに報告していることであり、私はこれからこの設定を頭に入れて、生活するようにと言われた。
正直、意味が分からない。私は『 I 』の役に立つために兵器となるのではないのかな。未だに兵器の意味が分かっていないけれど。
どんな状況にしろ、この設定を叩き込む必要があるのかと疑問に思った。
「お話の途中で失礼しますが、なぜ、私は今、現状を話されているのでしょうか?これから私は兵器となるのではないのですか?」
副団長は、私の質問に頷き答えた。
「そうだ。君はこれから私たち『 I 』の兵器となってもらう。それは変わらない。今、君に現状を話しているのはある任務のためだ
「任務ですか?」
「そう、君にはもう一度、学校に通ってもらう」
副団長は突然、指を鳴らした。すると、床からテーブルと水が入っているコップが現れた。
それをグイっと飲み干した。
「あぁ~。やはり、水に限るな。今や、数えきれない飲み物があるが存在しているが、結局水が一番だ。あぁ、すまんな」
副団長はコップを置き、両腕を後ろで組みながら話を続けた。
「任務の前に君にはまず、『 I 』について知ってもらわなければならない。少々、長話になるが聞いてくれ」
私はここにきてから一度も『 I 』について知らされていなかった。
だけど、今までの試験、それに最終試験の内容から察するに最終的に一人になるのだから、そいつだけに教えればいいと考えていそうだ。
『わざわざ、死んでいくものに教えるほど暇ではないということかな』
そんなことを考えていた私はついに、このIという組織について説明を受けた。




