第21話 期末テスト(裏)4 アームド
「はぁはぁはぁ、はぁー。まだ少し痛むが、前よりかは慣れてきたなぁ~」
一郎の息は荒く、顔には汗が滲んでいた。
機械のようなものが、生きているかのように一郎の腕を覆いつくしたが、あれは何だ。
倉庫に入るとき、黄泉兄弟は横たわっていた。
俺は違和感を感じた。二郎の方は武器を隠せるだろうが、一郎の腕は人の腕だった。
機械の腕を、戦いになる前に装着するものだと思っていたが、一郎の周囲を見渡しも見つからなかった。そのため、どこかに隠してあり、戦いの中で身につけるのかと思い警戒しながら戦ってきた。
『まさか、小さい箱を腕に当てて変形するとは……』
そんな代物を見たことも、聞いたこともない。
……俺は、今回の任務で他の組織の存在、爆弾について、アール、さっきの箱。
どれだけ、知らないということを知ったか……
『一応ダメもとで聞いてみるか』
「なぁ、その腕はなんなんだ?」
「これも知らねぇのかよ。まぁ知らなくて当然か。どうせこうなった以上、お前は死ぬしかないから教えてやってもいいな」
一郎は機械の剛腕を動かし、指を一つずつ握ったり開いたりしている。その動作のたびに金属が擦れる重厚な音が響く。
重そうな右腕を地面につけた後、そのまま振り上げ左手で支えながら俺の質問に答えた。
「これは『アームド』ってんだ。大阪の連中が俺たちRにバレねぇように、作っていた機械だそうだ。人間ってのは全力を出せねぇ生き物だ。だがな、この機械に覆われた体の一部は、体を壊さず、200%に近い力を出すことができるって代物だ」
一郎は再び拳を握り、右腕を大きく後ろに引いた。
「こんな風になぁ!!!」
口を開くと同時に、右腕が一気に前に突き出された。
気づけば、俺は後ろの壁へと吹き飛ばされていた。
俺は受け身を取ることができず、大の字の状態で倉庫の壁に埋もれてしまった。
足元が浮き、視界が微かに揺れる。
「なんだこれは、空気圧か」
壁に埋もれながら呆然とした。
一郎が右腕を俺に向かって放ったが、拳が届くはずがない距離にいた。
しかし、俺は今壁に埋もれている。壁の破片がボロボロと地面に落ちていく。
考えているうちにもう一度一郎は同じ動作を取った。
俺はとりあえず正面に向かって腕を交差し、受ける体制を取った。
すると、ものすごい空気圧のようなものが飛んできたのを感じた。
徐々に来るものではなく、一度に来るものだと分かったが、俺の体はさらに埋もれ、ついに壁に穴が開き、外へと放り出された。
大きな音を立て、倉庫の側面に穴が開く。
俺は倉庫外の地面に足をつけた。
「これで使うのは三回目だが、相変わらずすげー威力だな」
倉庫の外に出た俺をさらに追い詰めるかのように、徐々に歩を進めてくる。
空に雲はなく、一郎の右腕が月明りの下で冷たく光る。
その表面は黒い新車の装甲のようにツルツルと滑らかで、見るからに硬そうだ。金属の黒い外殻が隙間なく覆っている。
「はぁ……しかし、代償も変わらずでけえな。俺がたった二度放っただけでこのざまとは。正直笑えねぇぜ」
一郎は息を荒げ、少し疲れた様子を見せるが、その目は冷徹で、何処か満足げだ。
俺は、身体に異変がないかを確認した。
一回目は直撃を食らったときはどうなるかと思ったが何とか耐え、二回目はダメージを抑えることができた。これを何度もくらうと骨が折れる危険性があるな。一回目の攻撃が割と体に響いている。
普通、人間が全力で大気を殴れば、多少の風は起こるだろう。だが、それが空気圧として明確な攻撃になることなど、あり得ない。
しかし、一郎が装着した『アームド』……あの腕力を限界以上に引き出す強化装置の力を借りれば話は別ということか。
先ほどのように、大気を殴るだけで凄まじい風圧を生み出し、それを衝撃波として放つことができる。
俺が吹き飛ばされた原因は、まさにそれだ。
今まで通り、受け流しながらの様子見はもうできないか。
一郎の様子を見る限り、どうやら『アームド』には使用者を苦しめる何らかの副作用がありそうだ。それも気になるが、もう出し惜しみする時間もなさそうだ。
少し動いてみるか……
「だが、さすがのお前も、これを何発も食らったらやべぇんじゃねぇか~」
「そうだな」
俺は一郎に攻撃を仕掛けるために地面を蹴り走った。
一郎は嬉しそうな顔を浮かべ、再び衝撃波を放ってきた。
俺はすでに二回の衝撃波で、タイミングを掴んでいた。
走ってきた勢いを殺さずに右足が少し掠る程度でジャンプをした。
想定通り、衝撃波は足に当たり、俺は空中で前方に一回転した。
これを利用して、一郎の真上に到達した俺はそのまま、右足で一郎の右腕にかかと落としを食らわせた。
「クッ」
一郎の眉間にしわが寄り、腕が地面についた。
俺はそのまま一郎の腕に着地し、その後、肘の上あたりを左足で踏みつけ、顔面に向けて三回、拳で殴った。最後の一発は思いっきり、腹部に入れたため一郎は『ヴッ!』と声をあげ、一郎は軽く血を吐きながら、少し体が前のめりになった。
しかし、『効かねぇな』と口ずさみ腹部に入れた俺の腕を左手で掴み、頭突きをしてきた。
「この石頭が」
と言わざる得ないほど硬かったため、その分衝撃も強かった。
俺は少し後ろに倒れ、身体を沿った形になった。
体制を崩した俺を見て一郎は次の行動へと移していた。
掴んでいた左手を放し、右腕に乗っていた俺ごと上に勢いよく振り上げた。
体が沿っていた俺は空中で、まるで鉄棒の逆上がりをしているような体制になってしまた。
後ろ向きになり、世界の上下が逆になった瞬間、背中を殴られた。
「オラッーーーーーー!!!」
衝撃波も混ざった攻撃を背中で受けた俺は、飛んでもない速さで殴られた方向へと飛んでいる。
頭が地に付く寸前で、一瞬両手をつけた俺は、その瞬間に腕に力を入れ体を押し上げた。
上下がもとに戻り地に足をつけることができたが、勢いのあまり足で体を支えきることができず、後ろに倒れそうになった。
俺は咄嗟に背中が付くタイミングで、両手を思いっきり地面に叩きつけ勢いを殺した。
結局、背中を地面につけ仰向けの状態で倒れた形になった。
これはまずいな、直撃を食らってしまった。
一回目も直撃を食らったが、衝撃波だけだった。しかし、今回は殴られた挙句、衝撃波を至近距離で食らってしまった。それに当てられた箇所が背中とは…………
『失敗だな。もう時間が経ったと思ったんだが……今日はあまり調子が良くない日かもしれん』
俺は上半身を起き上がらせ、地面に手をつきふらつきながらも何とか、立ち上がることができた。
体がジンジンとするような感覚に襲われる。軽く視界が歪んでもいる。
自分が理解している以上にダメージを喰らっている。
「あの攻撃を食らってまだ立てるとは、さすが、と言ったところだな」
『だが』と一郎は付け足した。
「しかし、これで俺の考えが正しいことが証明できた。お前やっぱり弱くなってるだろう。今のお前の攻撃は、あの頃に食らった攻撃よりも明らかに浅い。それに忘れもしねぇ、お前と最後に戦った小四の頃の試練だ。お前は俺たちを完膚なきまでに叩き潰した。そんなお前が、三年後の今、この時、あの頃よりも弱くなっているとはどういうことだ」
一郎は左腕を曲げ、胸の前で欠陥が今にも破裂しそうなほど拳を握り、怒りに満ちた顔つきを露わにした。
「少なくとも俺は散々、お前の質問に答えた挙句、アールのことまで知らせちまったんだ。さぁ答えろ。お前に一体、何があった」




