第20話 期末テスト(裏)3 謎に満ちた箱
一郎は笑いながら素早く飛び込み、右拳が目にも留まらぬ速さで迫る。
寸前で体を左に背け、攻撃をかわしたものの、その動作で体制が崩れる。
「くっ」
一郎はその隙を逃さず、左腕を引き絞り腹部へ強烈なパンチを放ってきた。
俺はとっさに両足を曲げ、低く身を沈めて回避する。
一郎は戦いを楽しそうに笑っていた。
「へぇ」
すぐに左足で蹴り上げてくる。
速さに驚き右腕を盾にし、攻撃を受け流し、後方へ飛んで体制を整えた。
一郎は、蹴り上げた足を思いっきり下に降ろし、体を前のめりの状態にして両腕を広く広げ突っ込んできた。
先ほどよりも早く前進してきたため、俺は構えを取ろうとした瞬間、予想外なことにさらにスピードを上げてきた。
咄嗟の出来事に俺は対応できず、一郎は俺の両足を掴み、俺の体ごと持ち上げ、一度地面に叩きつける。
反動で跳ね上がった俺はまだ両足を掴まれており、一郎を軸に回され、そのまま箱がたくさん詰まれている方へと投げ飛ばされた。
幸いと言ったところか、鉄製の箱の箱が積まれているところではなく、木の箱が積まれているところに飛ばされたため、軽傷で済んだ。鉄製の方に当たっていたらこの怪我では済まなかっただろう。
埃が立ち込め、視界が白く霞む。
俺は息を止め、周囲に散らばった木の破片や埃まみれの箱を押しのけながら、慎重に地面に足を付けた。
「おいおいおいおいおい。どうしたんだぁ金星よぉー!」
一郎の咆哮が倉庫中を響き渡る。
一度攻撃を当てただけで調子に乗るところは変わっていない。そう思った俺は懐かしい記憶を思い出す。
俺と二郎が戦っている横で、一郎と真希が殴り合っていた。
何度倒されても立ち上がる真希に、一郎はいつも煽っていた。
俺と二郎は何をしているんだと思いながら訓練をしていたが、思い返してみればあの頃が一番平和だったかもしれない。
数年前まで、高め合ってきたライバルであり仲間。
今となっては殺さなければいけない敵。
それがどうして、こうなってしまったんだろうな。
そんなことを考えているうちに、一郎は間合いを詰めるため、再び走ってきた。
『おらっ!』と叫びながら高く跳躍し、両手を握り合わせ、俺に向かって振り下ろしてくる。
箱を背にしていた俺は、左右に避けようと考えたが、左は壁が近く、右は二郎が吹っ飛んできた。避けた場合、真希の邪魔をしてしまうと考え、受け止めるしか選択肢がないと思った。
俺は、左腕を上にした両腕をクロスさせ足に力を入れて、一郎の攻撃を受け止めた。
激しい衝撃が全身を襲う。
「さっさと反撃して来いよっ!」
馬鹿力は相変わらずのようだ。それに加えて、一郎の全体体重がのしかかっている。少しでも力を抜けば、地面に叩きつけられそうだ。
だが、これは利用できる。
俺は右腕の力を一瞬抜いた。すると一郎の体重がさらにかかったと感じた時、受け止めていた左腕を引きながら、体を右に捻った。一郎の拳は地面を叩きつけ足が浮いた。
「そんなの何度もやられてんだよ!」
一郎はとっさにひびの入った地面を手で掴み、逆立ちし上がった足を右、左と振り下ろしてきた。
体制を崩していた俺は、足に力を入れ咄嗟に後ろに飛びこれを交わしが、一郎の左足が俺の頭を少しかすったため、おでこから血を流した。
ぽたぽたとほんの少しだが、俺の血が床に垂れる。俺は右袖を使って血を拭いた。
一郎は俺に背を向けた状態で立ち、ゆっくりこちらを向きながら、何かを投げる動作をしているのが見えた。
俺はさきほど地面から拾ったものをこちらに投げてくると予想し、左にすぐに避けられるよう重心を傾けた。
俺が傾けた方向に、一郎は石のようなものを右手で投げてきたので右に避けた。
物体は壁にめり込み、大きな音を立てて反響した。
「あれは食らったら面倒だな」
一郎は投げた勢いで前のめりになり、さらに突進してくる。間合いを詰め、連続で拳を振るう。
拳が顔をかすめるたび、鋭い風切り音が耳を打った。
俺は体を捻り、拳で相殺し続け、なんとかその猛攻を受け流した。しかし、一郎の攻撃は絶え間なく続いた。
一郎の拳が俺の顔に迫り、避けきれなかった俺は防御を試みた。腕を前に出して必死にガードするが、その衝撃は先ほどよりも重く、腕に痺れるような痛みが走る。
次の瞬間、一郎がガードを突破し、腕の隙間から拳が飛んできた。その拳は俺の顔に当たった。
衝撃に合わせて顔を横に向けたが、体全体がその勢いに押されてよろめいた。
何とか体制を立て直そうとしたが、その瞬間、俺の動きの遅れを一郎が逃すはずなかった。
すぐさま一郎は右足を曲げ、強烈な蹴りが俺の腹を捉える。
「ぐっ!」
数メートル後ろに吹き飛ばされ、足元が滑る。
「おい、いい加減にしろよ。なぜ反撃してこねぇ。昔のお前はあんなに強かったのによぉ~。一体どうしちまったんだ?」
挑発的な言葉が俺の耳に響く。
一郎は、左腕を前に出し手の甲を上に向け、『来いよ』と手首を二回曲げた。
しかし、俺は動かない。
俺の行動を伺っていた一郎は、大きなため息をつきながら言った。
「だったら、二郎!!!選手交代だぁー」
一郎は、俺から目を離さずに大きな声で二郎の名を呼んだ。
だが、二郎の名を呼んでも何の返答もない。
倉庫の奥からは、二人が戦いが繰り広げられている音だけが聞こえる。
武器がぶつかり合い、金属が激しく擦れる音が響く。
倉庫内を様々な道具を使って戦っているであろう二人の武器音が、聞こえてくるだけだった。
「二郎の奴、苦戦しやがって……」
『チッ』と舌打ちをし、わずかに苛立ちを滲ませた。
一郎は俺に向かってもう一度、手首を曲げた。
だが、俺は動かない。
「はぁ~。かかってこないんだったら、いいぜ。そのままくたばれや!アールのことを知らねぇお前は用済みだからなぁ!」
一郎は、左手でポケットから小さな箱を取り出した。
その箱は黒く光を反射する金属製で、いかにも怪しげな雰囲気を放っていた。
それを腕へと当てると、機械のようなものが『ガキン』と鋭い音を立て、箱から金属製の触手のようなものが蠢きながら、一郎の右腕に絡みついていった。
「クッ……」
一郎は苦しそうに顔を歪む。触手は容赦なく腕を締め付け、まるで血肉と融合するように巻き付く。腕全体が異様な光を放ち始め、眩い閃光が一瞬だけ辺りを照らした。
そして……。
一郎の右腕は巨大な黒い金属の剛腕に変わっていた。真っ黒に輝いており、先ほどの腕よりも二倍近くの大きさ変化した。




