第17話 初めて(裏)
次の日からは本当に苦労した。
スプーンを取ろうと手を伸ばしても、数秒後にようやく手が動く。歩こうと思っても、足が反応するまで時間差がある。
これまで無意識で行っていたことさえ、全て遅れるのだ。戦うどころか、日常生活さえ過ごすのが大変だった。
しばらく殺しの任務の休暇をもらった。
学校での監視任務はすでに終わっているが、急に休み続けると怪しまれるため、学校生活は続いた。
とはいえ、俺は普通の人間とはかけ離れた身体能力を持っていた。
だから、この時差があることで、ようやく『普通の人間』としてのバランスが取れたのだ。
今までは小学生らしさを装うため、力を抑えながら生活していた。しかし、薬を飲まされたせいで、身体能力が低下し、抑える必要がなくなった。
そのせいか、少しだけ『普通の生活』というものを楽しめるようになった。
誰にも気づかれることなく学校生活を過ごすことができた。
しかし、この悪くない気分を味わっていられるのは平日の大体18時までだ。
そこからは、ひたすらに鍛錬。
父には事情を説明したが、それでも弱くなった俺を容赦なく叩きのめしてきた。
最近になってようやく父の速さに慣れて始めてきたのだが、その力は失われ、結局父の攻撃を食らい続けている。
さすがに心が壊れそうだった。
それでも諦めず、少しずつ体の調子を戻し、時間差を埋めながら体を鍛え続けた。
三年の月日があっという間に過ぎ、中学校に上がった。
それと同時に監視の任務も再開した。
監視対象の人数は恐ろしく増えたが、小学校時代から知っている者も多く、その分時間を短縮できた。
夜は任務に出ることが多く、最近は一日に三人を処分することもある。以前より苦労は増したが、なんとかやっている。
任務のない日は筋トレ、Rから送られてくるプロの格闘家や殺し屋との試合、そして父や妹との戦いで己を鍛え続けている。
中学校では部活に入ることが義務付けられていたため、陸上部を選択した。
理由は、簡単だ。
もし正体がバレそうな時、『陸上部だから運動神経が良いだけ』と言い訳ができる。しかも、鍛錬とは別に体力をつけられるため、一石二鳥だからだ。
それに……。
そんな日々を過ごしていたある日、俺は千明と駿斗とラーメン屋で食事をした。
その後に、父から電話があった。
「時間がないため手短に話す。大阪の殺し屋達が暴動を起こし、一般人を何百人も殺しながら移動しているらしい。組織は日本の治安維持を優先し、最重要任務として、こいつらを処分しろと命令が下った。この任務は私がやる。お前の任務はしばらく中止だ。だが、万が一、お前のところに殺し屋が来た場合、その時は始末しろ」
「了解」
俺はただ一言、そう返事をした。




