第14話 心の世界(裏)2 初任務
俺は父の跡を継ぐため、幼い頃から様々な知識を叩き込まれ、体を鍛えられてきた。
小学3年生のある日、父に家の地下へ呼び出されたことがあった。
家の奥にある隠し扉を開けると、真っ暗な細い通路が続いている。俺はその通路を数メートル進み、途中で右の壁窪みに指を触れると、生体認証の反応で扉が静かに開いた。
目の前には本棚が並ぶ静かな部屋。
そこで、ある一冊を抜くと、本棚が動き、床に鉄製の小さな扉が現れた。
俺が扉に触れると、部屋中に設置された赤外線センサーが即座に反応する。
父、俺、妹以外は侵入者と見なされ、壁からせり出す銃によって射殺されると仕組みだと聞かされていた。センサーは俺だと認識し、床が開き、薄暗い地下へと続く階段が現れた。
階段を降りると、薄暗いコンクリートの壁に囲まれた大きな部屋にたどり着く。
壁には様々な武器が掛けられ、どれも常に使える状態に整備されている。
部屋の隅には箱がいくつも積まれており、その中には任務に必要な物資が詰まこまれている。
天井から吊るされた一つの明りが、木製のテーブルとその前に座っている父をぼんやりと照らしていた。
父は俺に気づくと無言で指を指し、椅子に座るよう指示した。手にしていた資料をテーブルに置くと、低い声で話し始める。
「お前は今日から初任務に出てもらう。ターゲットはこいつだ。組織は、駅近くに
大型ショッピングモールを建てようと計画している。周辺の建物は買い取ったが、唯一、こいつの家だけが売却を拒んでいる。何度も交渉したが、思い出が詰まっているからと断り続けているそうだ。このままでは建設が遅れ、計画が狂う。組織にとって害と判断され、俺に仕事が回ってきた。お前はそろそろ実践に出てもいいころだ。この任務をお前に任せることにする」
俺は初めて実戦に出るように言われた。
その言葉が心臓を鋭く突き刺す。喉の奥がひりつく。無意識に視線を床へ落とした。
これまで、鍛錬では何度も実践を想定した任務をこなしてきた。
しかし、これは違う。標的は人間の命だ。
日々の生活から、命を奪うか、奪われるかの世界に踏み込む。これがどれほど怖いことなのか、今、身をもって感じている。いずれ実践に出ることは分かっていたが、実際にその瞬間が訪れると、緊張をせずにはいられなかった。
ゆっくりと渡された資料のページをめくりながら、内容を確認する。
ターゲットの名前、住所、生活パターン……。すべてが詳細に記録されていた。
そして……。
「父さん……」
小さく漏れたその言葉は、声ともいえないほどかすかだった。
資料に貼られていた写真。その顔を見た瞬間、胸の奥から記憶が鮮明に蘇る。
千明と友人になり、初めて家に遊びに行った日のことだ。
そこいたのは、千明の父親でも母親でもなく、おばあさんがいた。とても元気な人で、孫のように俺を歓迎してくれた。
笑顔を絶やさず、毎回優しい言葉をくれたのを覚えている。庭でボール遊びをした時も、疲れた顔一つを見せずに楽しそうに振舞ってくれた。
本を読み聞かせてくれたり、懐かしい思い出話を語ってくれたあの優しい声。千明は、おばあさんの膝の上で寝ていたが、俺にとっては有意義な時間だった。その記憶の光景が、今でも心の奥に刻まれている。
だが、俺はこの人を殺さなければならない。そう思った瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われ、思わず言葉が漏れていた。
「なんだ、不満か?」
父の冷たい声が耳に響いた。その冷徹な目で無表情な表情が、俺の意思を捻じ曲げる。
組織に目を付けられた以上、いずれ誰かが殺しにくる。ならば、せめて俺の手で……。
「いえ、ありません」
「ならいい。実行しろ」
「了解」
そう答えながら、心の奥の痛みを無理やり封じ込めた。脳を切り替え、ただ命令を果たすために、目的地へ向かった。




