俺たちに昨日はない
『帰る』決心をつけた途端、気はかなり楽になった。
人間、余裕ができると前向きになれるもので、
元の世界に帰れるかの『一世一代の大勝負』をする前に『一世一代の大豪遊』を決行しようと考えた俺は、豪遊資金を調達しに銀行へと足を運んだ。
ATMにたどり着いた俺は、自室から拝借した『俺』の通帳を取り出し、挿入口に吸い込まれる様子を見つめていた。
他人の口座だが、持ち主は俺だ。 自由に使わせてもらう。
パスワードは・・・わからないが、『俺』のことだから恐らく好きな映画か何かから拝借してると考え、部屋に合った映画を一通りチェックしてきたので、まあ何とかなるだろう。
かなりお気楽な計画だが、正直、できないならできないで構わなかった。
心残りは全て潰しておこうというのが一番の目的だった為、ちょっとした推理ゲームのつもりで楽しんでいたが、この考えが『終わりの始まり』となるとは、今の俺には知る由もなかった・・・
ダンッ!!!
静かな店内に衝撃音が響く。
それは、普通の生活をしてる者には馴染みのない音・・・
そして、映画やゲームが好きな者にとっては聞きなれた音・・・
俺はそれが銃声だと瞬時に理解した。
しかし、それが意味する事実を理解するには至らなかった。
「全員そのまま。変な気は起こすな。」
仮面で顔を隠した男が静かに、それでいてしっかりと響く声でそう告げた。
男は右手にピストル、左手に妙な形の鞄を持っており、映画のキャラクターの仮面は恐怖心を掻き立てることに一役買っていた。
銀行強盗・・・いくら見慣れた光景といっても、それはあくまでテレビの向こうの話。
物理的には同じ距離でも、実際自分が当事者となると迫力は段違いだな。
そんな呑気なことを考えていると、強盗の男は次の指示を始めた。
「よし、まずはシャッターを閉めろ。」
ガラガラガラ・・・
出入口が閉ざされてゆく。
あれ、映画とかとは展開が違うぞ。
俺は想定外の展開により、一気に不安に包まれた。
「次、全員応接間に移れ。」
それからどれくらい経っただろう。
「一人、出てこい。」
男がそう指示するも、誰も行きたがらない。
そりゃそうだ。
わざわざ危険に向かう者などいないのだ。
その時、俺は肩を叩かれた。
「兄ちゃん、頼むよ。」
なんだこいつは。
人を見下すことに慣れてそうな風貌の中年男性が、憐れみを含んだ笑顔でそう告げた。
「頼むよ。」
俺が行くのが当然と言わんばかりの口ぶりだ。
「ごめんね~。」
メイクのキッツイばあさんが笑顔を見せる。
ふざけんな。
俺が自分の意思で行くならまだしも、なんで流されて行かなきゃならんのだ。
思い返せばいつもそうだ。
気が付けば都合のいいように使われており、全ての責任を背負わされてきた。
なあなあな俺の人生はいつもワリを食わされる。
何故だ?
それは、俺があくまで「正義」であったからだ。
悪いことなどせず、言うこともよく聞く。
これで弱者じゃなければ「いい人」なんだろうが、俺の場合「都合の」が付く。
ふざけんな。
これは俺の人生だ。
俺だ。俺は俺だ。俺の人生は俺のものだ。
さて、俺の人生は・・・現在は本来の俺のではないが、俺が自分の意思で行動を決めるべきなのだ。
「よしっ!」
俺は立ち上がった。
「ありが・・・ほんと、ごめ・・・」
「黙ってろ!」
人質一同はみなキョトンとした。
知るもんか。
今は俺の時間だ。
俺は歩き出すと同時にスゥ~っと大きく息を吸い、
「くったばれ おっれさま あっきらっめな~」
「おっまえに おっまえは にっあわっない~」
こういう時はBGMが必要だが、無い以上自分で歌うしかない。
「くったばれ おっれさま あっきらっめな~」
「おっまえに しっあわせ やってこな~い」
「くったばれ おっれさま あっきらっめな~」
「おっまえに ふっつうは あっりゃしない~」
「くったばれ おっれさま あっきらっめな~」
「おっまえに おっまえは・・・」
「黙れ!」
犯人の男が歌を遮る。
「なんだよ。42番まであるんだぞ?」
ダァン!
「はいっ、すんませんっ。」
いくら気持ちが強かろうと、銃は怖いのだ。
俺が黙ると男は話し始めた。
「・・・別にな、俺ぁ金が欲しいんじゃねぇんだ。」
「えっ、じゃあなんの・・・」
「黙ってろ。」
うぅ・・・なんだか懐かしい理不尽具合だな。
「俺ぁ死ねればなんでもいいのよ。」
「もう、うんざりなんだよ。」
「なんで覚えのない罪まで背負わなきゃならねえってんだ。」
強盗の男は俺に愚痴り始めた。
何だか様子がおかしい。
「だいたいよ、なんでキモオタが偉そうにしてんだ。」
「弱いくせに調子乗りやがって。」
「だからよ。お前みたいなやつ見てるとムカムカすんだよ。」
そういうと男は鞄を開いて、俺の前に見せた。
中には、複雑な配線の数々と精密そうな機械類。
そして、目立つ位置に設置された紅白の二本のケーブルがあった。
誰が見てもわかる。
これは・・・爆弾だ。
「さーて。運試しの時間だ、キモオタくん。」
「赤と白、どっちかを切れば・・・」
「どかーーーん!!!・・・だ。」
心臓を止める気かこいつは。
バックバクな心拍などお構いなしに男は続ける。
「今から10数える。」
「数え終わったらスイッチを入れる。」
「お前は、数え切る前にどっちかを切ればいい。」
男は俺の足元にナイフを投げつけた。
あっぶねえなあ。
「さてさて、爆発するのはどっちかな?」
「真実は赤?それとも白?」
「どっち?」
「どっち?」
「・・・なんでこんなことするんだ?」
男が茶化してきたので、耐えきれずに質問をしてしまった。
「なんで?・・・信じるも信じないもお前次第だがなぁ。」
「俺、俺じゃねえんだよ。」
俺は驚きを隠せなかった。
無茶苦茶な血迷い言だが、俺には・・・いや、俺だからこそ何を言っているのかを瞬時に理解ができた。
「あんたも・・・そうなのか・・・?」
男は一瞬呆気に取られていたが、そちらさんも理解したのだろうか。見えないが、明らかに笑顔を見せていた。
「へっ。なら、お楽しみ中だったか?」
あぁ、こいつも理解ってるわ。
やけにサクサク会話が進むが、俺と同じように男も、ずっとそのことばかり考えていたのだろう。
一瞬、サイレンの音が聞こえた。
ポリスメンのご到着だ。
男もそれに気づいたらしく、カウントダウンを始めた。
「10!」
「ま・・・待て!」
「9!」
クソ!聞く気はなさそうだ!
「8!」
俺の意識に記憶が溢れてくる。
これは・・・走馬灯・・・!?
「7!」
うわっ、フィクションばっかだな俺の人生。
「6!」
やっぱ俺、まだ死にたくねえよ!
「5!」
「ちょーっと待ったー!」
「4!」
「確かに死ぬことで元の世界に帰れるかもしれない!」
「・・・なんだと?」
食いついた!
とりあえずカウントを止めれれば何でもいい!
「向こうの自分が死んだとき、確かにこっちにも影響はあった!」
「・・・何故言い切れる?」
「そっそれは・・・」
「3!」
しまった!
ハッタリかまし慣れてないのが仇となった!
しかし、その瞬間!
男の背後からシャッターを破った特殊部隊のような人が見えた!
「2!」
俺は咄嗟の判断に賭けた。
『あの言葉』が出てくれれば!
「1!」
男がスイッチに指をかける。
その時、シャッターを破りきれた音が聞こえ、
「動くな!手を上げろ!」
男の注意が一瞬背後に向いた。
今だ!
俺は全体重をかけて男に突っ込んだ。
男はバランスを崩し、スイッチを手放した!
やった!まるでヒーローだ!
ここぞとばかりに、男を捕えようと武装集団が駆け寄ってくる。
俺は・・・!勝った・・・!!!
しかし、バランスを崩しつつも男は抵抗を見せた。
「0!」
男は爆弾に向けて発砲をした。
その瞬間、辺りが光で覆われ、




