第9話「信者第一号」
フォロワーが十万を超えたのは、バズから一週間後だった。
コメントの種類が変わってきた、と浅井は思っていた。
最初は「面白い」「わかる」「冷静すぎて好き」という軽いやつが多かった。でも最近は、なんか違うやつが混ざってくるようになっていた。うまく言えない違い。読んでいて、少しだけ空気が変わる感じ。
火曜日の夜、DM欄を開いていたら、藤代からLINEが来た。
「DM見た?!」
「見てるとこ」と浅井は返した。
「@tane_1109のやつ」
浅井はスクロールした。@tane_1109。アイコンは木の芽の写真だった。
開いた。
長かった。
スクロールしても終わらなかった。
「先日のWBRCの投稿を読んで、初めてメッセージを送ります。マダニの話を最初に読んだとき、正直よくわからなかったんですが、何回も読んでいたら気づいたことがありました。私はずっと「感じすぎる」ことで損をしてきた気がしていて、それは私が弱いからだと思っていたんですが、WBRCの観察記録を読んで、これは弱さじゃなくて、ただ「余分に感知している」だけなんだと思えるようになりました。マダニは視覚を持たないから不安がないんですよね。私も、もう少し感知するものを減らしていったら、楽になれる気がしています。ヴィラ・ナチュラーレは今も入れますか?一度訪問したいと思っています。長文すみません。でも、本当に助かりました。」
浅井はしばらく画面を見ていた。
「読んだ?!」と藤代からLINEが来た。
「読んだ」
「すごくない?本気じゃん!」
浅井は「本気だな…」と返した。
「しかもヴィラに来たいって。どこに来るんだ笑」
浅井も「笑」と打った。でも少し遅かった。
翌日の昼、屋上で二人でもう一度読んだ。
藤代がスマホを持って読み上げた。「「感知するものを減らしていったら、楽になれる気がしています」——これWBRCの解釈として正しいか?」
「正しいのかな」と浅井は言った。「マダニが感知するものが少ないから幸せ、って書いたのは俺たちだけど」
「そうそう。でもそこからこの人が出した結論って、俺たちが想定してたやつと違くない?」
「どう違うの」
「俺たちは「面白いな」って書いただけで、「だから感知を減らせ」とは言ってない!」
「確かに」と浅井は言った。「でも読んだらそう読めるか」
「読めるっちゃ読める笑」
二人で少し黙った。
「ヴィラに来たいって言ってる」と浅井は言った。
「どう返す?」
浅井は「どうしよ笑」と言った。「行き先がないじゃん」
「「現在は見学を受け付けておりません」でいいんじゃない?」
「それ返すの?」
「うーん…」と藤代が考えた。「返さないか。神秘性!笑」
「神秘性か笑」
でもその夜、浅井はもう一度DMを読んだ。
「本当に助かりました」という最後の一文を、三回読んだ。
助かった、と書いてある。
何から助かったんだろう、と浅井は思った。俺たちは高校生で、マダニが好きな藤代と、暇だった俺で、ただ面白いことをやっていただけで、誰かを助けようとしたことは一度もなかった。
でも、助かった、と書いてある。
「藤代」とLINEした。「あのDMの人、本当に信じてんだな」
「だね!」とすぐ返ってきた。「初めて会ったな、本気のやつ」
「なんか…どう思う?」
少し間があった。いつもより長かった。
「面白いな、って思う。あとは俺にはわかんない」
浅井は「そっか」と打った。
「お前は?」と返ってきた。
浅井はしばらく考えた。
「なんか…よかったな、とは思う。でもなんでよかったのかわかんない」
「それでいいんじゃない」と藤代は言った。「おやすみ!」
「おやすみ」と浅井は返した。
スマホを置いた。
@tane_1109のアイコンの木の芽が、なんとなく頭に残った。




