第8話「バズった朝」
通知が止まらなかった。
そらみちゃんとのやりとりが終わって四日後の朝、浅井はスマホを手に取った瞬間に気づいた。画面が光り続けていた。
「…え?」
通知欄を開いた。
フォロワーが増えていた。見ている間に増えていた。数字が動いていた。
三万二千。三万三千。
「なにこれ」と声に出た。誰もいなかった。
「藤代!」とLINEした。送信する前に通知がまた来た。
「起きてる!?」
「起きてる笑 見てる見てる」とすぐ返ってきた。
「なんで増えてるの!?」
「そらみちゃんのフォロワーがWBRC見に来てる。あと誰かがまとめ記事書いてくれたっぽい」
「まとめ記事??」
「送る!」
リンクが来た。
「【悲報】そらみちゃん、謎の学術団体に論破される」というタイトルだった。
クリックした。スクリーンショットがずらっと並んでいた。そらみちゃんの投稿、WBRCの返信、観察記録No.38、コメント欄の変化。全部まとめてあった。
見出しに「WBRCの対応が冷静すぎて逆に怖い」と書いてあった。
「怖いって書かれてる笑」と浅井はLINEした。
「ほめ言葉!」と返ってきた。
学校に着いたら、藤代が靴箱のところで待っていた。
「見た見た!?」と藤代が言った。声が少し大きかった。
「見た!まとめ記事になってたじゃん!」
「しかも複数あった!三個くらい!」
浅井は「三個?!」と言った。
「あとXのトレンドにWBRCが入ってた!一瞬だけど」
「マジで!?」
二人でスマホを並べて確認した。トレンドからはもう消えていたが、数字は動いていた。四万。四万二千。
「これどこまで増えるの」と浅井は言った。
「わかんない。でも面白くなってきた!」
昼休み、屋上でコメントを読んだ。
藤代がスクロールしながら声に出して読んだ。
「「WBRCの文章、なんか好き。感情がなくて逆に好き」」
「「観察記録ってのが面白い。続き読みたい」」
「「マダニの話、最初は意味わかんなかったけど読んでたらなんかわかってきた」」
「「先駆者さんの言ってること、ずっとそう思ってた」」
「先駆者って俺のこと?」と浅井が言った。
「お前のアカウントだから笑」
「なんか恥ずかしいな…」
「ほかには?」と浅井が聞いた。
「「ここ入るにはどうすればいいですか?」って何件かある」
浅井はしばらく黙った。「入る?」
「ヴィラ・ナチュラーレに入りたいってことじゃない?笑」
「どうやって入るの、架空の場所に」
「そこだよな笑」と藤代が言った。
放課後、コメントの返信をどうするか二人で考えた。
「「入り方を教えてください」に何て返す?」と浅井が聞いた。
「返さなくていいと思う。公式アカウントって、全員に返信しないほうが雰囲気出るじゃん」
「雰囲気?」
「神秘性!笑」
「神秘性かー」と浅井は言った。「でも完全無視も冷たくない?」
「じゃあ一個だけ。一番いいコメントに返そう」
浅井はスクロールした。「これかな」と止まった。
「「マダニの話、最初意味わかんなかったけど読んでたらなんかわかってきた。こういう見方があるんだって思えた。ありがとう」」
「いいね!」と藤代が言った。「それに返そう。何て返す?」
浅井は少し考えた。「「観察、続けます」だけでいい?」
「最高!それだけがいい」
打った。送った。
十分後に「いいね」が三百ついていた。
「「観察、続けます」って言葉、なんかいい」「簡潔すぎて逆に好き」「続き絶対読む」というコメントが来ていた。
「やば!」と浅井は言った。
「わかった、俺たちの文章、短い方が刺さる!」と藤代が言った。「長く書くより削った方がいい!」
「それ、そらみちゃんのときも言ってたじゃん」
「そうだった。でも数字で証明された!」
夜、フォロワーが五万を超えた。
「五万…」と浅井は思った。
五万人が、WBRCのアカウントをフォローしている。五万人が、マダニの観察記録を読んでいる。五万人が、ヴィラ・ナチュラーレという架空の場所を、本物だと思っているかもしれない。
「藤代」とLINEした。「なんか実感ない」
「俺も笑 でもちゃんといるんだよな、五万人」
「なんか…急に怖くなってきた。いい意味で」
少し間があった。「それが正しい感覚だと思う」
浅井は「そうかな笑」と打った。
「明日、新しいの出そう。勢いのうちに!」
「何出すの」
「また考える。おやすみ!」
「おやすみ」と浅井は返した。
スマホを置いた。通知がまだ来ていた。
五万人が、今日もどこかで、WBRCを読んでいた。




