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第7話「そらみちゃんとの開戦(後)」

翌朝、フォロワーが六百を超えていた。


目が覚める前から通知の音がしていた。


六時ちょうどに画面を開いた。「二百四十一件」と書いてあった。


「すご」と浅井は思った。一人で。


@sorami_1204は朝の四時に追加スレッドを投稿していた。


「WBRCの返信読みました。的外れです。ユクスキュルの話だけして料金や勧誘には答えてない。逃げてるの丸わかりなんですけど。」


「こういう"学術っぽい言い方"で若い子を取り込もうとするやつ、ほんとに増えてる。親御さんが心配。」


「反論できないなら大人しくしといてください。」


コメント欄の空気が昨日と変わっていた。「そらみちゃんが感情的になりすぎでは」「WBRCの方が落ち着いてる」「どっちが頭いいかは明らか」。


浅井は布団の中で読んだ。


「見た見た!」と藤代にLINEした。


「見てる!向こう焦ってきたな笑」と返ってきた。


「逃げてる丸わかりって書いてるけど、俺たち別に逃げてないよな?」


「逃げてないよ!「一切存在しない」ってちゃんと書いたもん。向こうが読んでないだけ笑」


「確かに。追加で返す?」と浅井が打った。


少し間があった。「いや、もう一個別のやつ出そう!」


「どういうこと」


「昼に!」


昼休み、藤代は「観察記録出したい」と言った。


「今回のやりとりを?」


「そう!こういうの、まさに「SNS上の野生的行動」じゃん!」


浅井は少し考えた。「それってそらみちゃんを被験体にするってこと?」


「名前は出さない。「SNS論争において観察された行動パターン」って書く!」


「それみんなわかるじゃん」


「わかっていい!でも俺たちは「観察した」だけ。学術記録だから!」と藤代が笑った。


「ひどくない?」と浅井は言いながら、なんか面白いと思っていた。


「浅井が書いて!」と藤代が言った。「俺が書くと意図が出すぎる笑」


「意図って何」


「いいから書いて!」


昼休みの残りで書いた。


【観察記録 No.38】 SNS上において、発信内容の「真偽」よりも「感情の温度」が議論の印象を左右するケースが観察された。


感情的な語調を用いる発言者は「感情的に見える」という評価を受けやすく、語調が落ち着いているほうの発言者が「冷静」かつ「信頼できる」という印象を持たれる傾向がある。


発信内容への反論よりも、発信者の「感情」に反応してしまう——これもまた、人間の野生的行動の一例として本センターは記録する。


藤代が読んで「いい!」と言った。


「変えなくていい?」と浅井が聞いた。


「最後の一文だけ」と藤代が言って、スマホを受け取った。少し直して返した。


浅井が読んだ。「……なんか感情がさらになくなった」


「そう!それがいい!」


「俺が書いたやつより本物っぽい」


「そう見えるようにした!」と藤代は言った。笑っていた。


浅井は「お前、ほんとに——」と言って、止まった。なんと言えばいいかわからなかった。


「面白いな、って思った」と浅井は言った。


「でしょ!」と藤代が言った。


投稿した。


夜になって、@sorami_1204の追加スレッドが止まっていた。


「止まったな」と浅井がLINEした。


「うん」と返ってきた。


「これ勝ちでいい?」


少し待った。「まあ笑」


「「まあ」ってなんだよ」


「勝ち負けで考えてなかった。ただ面白かった!」


「確かに」と浅井は打った。


そらみちゃんのプロフィールを開いたら、フォロー中の欄にWBRCがあった。


「え」と浅井は思って、もう一度見た。


「藤代!そらみちゃんWBRCフォローしてる!」


「知ってた!」と即返信が来た。


「いつから」


「昨日の夜から笑」


「なんで言わなかったの」


「面白いから!」


浅井は「最悪」と打ってから、笑った。


翌朝の屋上で、浅井が言った。


「なんで勝てたんだろうな」


「宗教っぽくなかったからじゃない?」と藤代が言った。


「どういうこと」


「俺たち、一回も「信じてください」って言ってないじゃん。観察してるだけで。だから向こうが「危ない宗教だ!」って言っても、なんか全然刺さらない!」


浅井は「確かに信じてないな」と言った。「俺たちが信じてないのに宗教って言われても」


「そこなんだよ!」と藤代が笑った。「感情がないと、向こうの感情だけが目立つんだよな。それで負けちゃうやつ、多い」


「意図してそうしてたの?」と浅井が聞いた。


「最初はそんな深く考えてなかった!でも途中からそうだな、ってなってきた」


浅井は「なるほどな」と言って、少し空を見た。「でもフォロワーたちはちょっと信じてたりするのかな」


「さあ。それは俺たちが関係あることじゃないから!」と藤代は言った。


風が吹いた。フェンスが揺れた。


下では野球部がまた走っていた。背番号11はやっぱり遅かった。

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