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魔術の名家に生まれたが、人権意識がカス過ぎる(旧題:実家を継ぎたくない魔術師がなんだかんだで飛ぶ話)  作者: 夏川ぼーしん
歌臼大学連続吸血事件編

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歌臼大学連続吸血事件 第五話




 ガチャリと複数のビールジョッキが打ち鳴らされる。そこは歓楽街から少し離れた……隠れ家的な趣の地下一階の居酒屋だった。ネパール人の店主がインドカレーの店を開くつもりが、いつの間にか居酒屋になってしまったという謎の経緯と、抜群に美味く格安のネパール料理が大学生に人気の名店である。


 会場にこの場所を指定したのは霧花だった。ただの数合わせ、何の目的もなくこの場所に来る人間にだって、料理に舌鼓を打つぐらいの楽しみがあったって良い筈だ。やってきた料理を前に、彼女は静かに目を輝かせる。だが、


「ねねね、自己紹介! まずは自己紹介からっしょ!」


 そんな調子の良い声が意識を料理から正面へ引き戻す。そこには四人の男が座っている。否、正確には三人の男と一人の女だ。霧花はジッと正面に座る小柄な男(?)を睨み付ける。相手は、何故か不自然なまでに霧花から目を逸らしてる。そして、何故か男装をして、何故か男としてこの合コンに参加している。知り合い、というには関係が浅い。けれど、霧花とは顔見知りと言える人物。


 武曽冴子(むそうさえこ)、霧花の婚約者である鷹峰空理の高校時代の後輩。


冴木武(さえきたける)……よろしく」


 心なしか普段より低い声で偽名を名乗り、簡潔に自己紹介する彼女。困ったことに残り二人の女性陣からの感触が良い。早くも合コンとしての意義に疑問を呈さざるを得ない展開である。


 冴木武に続いて、男性陣から順々に自己紹介をしていく流れ、じゃあと二番手に名乗り出た人物に女性陣はサッと目を伏せる。やけにツヤツヤした白髪、真っ赤な瞳、真っ白な肌……アルビノというには肌が白すぎる……まるで血の気のない死人のような男。ドス黒いクマとギラついた目付きと相まって、ホラー映画の登場人物のようになっている。


「オレァ……夜野(やの)カルマってんだ。趣味はサブカル全般と裁縫、よろしくなァ」

「こんな顔してるけど、ただのオタクだから……仲良くしてやって」

「悪役令嬢ものとか好き」

「だそうですぅ」


 似合わなっ。と霧花を含めた全員が心の中で声を揃えた。霧花などは魔物に比べれば可愛いものと最初から身構えもしなかったが、他の二人も今のやり取りで肩の力を抜いたようである。その様子を満足げに眺めた、フォローに出た男は「じゃあ次は俺ね」と立ち上がる。自己紹介を提案したのも彼である。


「うっす! 山下玄貴(やましたげんき)です! 実は自分、魔術師を目指してまして! 高校の頃は地元の魔術部で、県大会で準優勝した経験があります!」


 おお、と女性陣から感嘆の声が上がる。高校の頃の成績は立派だし、何より魔術師というのは社会的に地位のある仕事である。収入面ではピンからキリだが、腕があるなら下手をすると医者や弁護士よりもリッチになる可能性もあるというのだから、男漁りにここまで来た彼女等のテンションも上がるというものだ。


「へぇ、魔術師。じゃあ霧花と同じだ」

「えっ」


 思わず声が出た。そんな顔の霧花に視線が集まる。そもそも合コンに意欲のない人間に何故話を振るのか、そんな非難の目を友人の摩耶に向けるが、彼女はへらへらと笑うだけで気付いた様子もない。


「霧花はね、凄いんだよぉ? もうハンター事務所の内定決まってるし」


 更にそう続ける摩耶。言うまでもなく、完全に友達を自慢したいだけである。元々ビジュアルで男性陣から注目されていた霧花の意外なプロフィールに、相手方の食いつきが良いのも事実だった。


「え、そうなの? じゃあ先輩ですね!」

「…………そうね」


 山下の調子の良い笑顔にも、霧花の返答の温度感は変わらない。そもそも話を広げる気が無い、料理を食べ終わったらさっさと帰りたいと思っている人間にどうアプローチをかけても基本通じないのだ。それでも、話のきっかけがあれば、話しかけずにはいられないのか、夜野、山下、それからもう一人の男からも質問が飛ぶ。


「どこの事務所?」

「そういうのはちょっと」


「好きな魔法少女アニメは……」

「ごめんなさい、アニメには明るくないの」


「どこの魔術部でした!? ひょっとして高校の時どっかで会ったり」

「魔術部には所属してなかったわ。地元の部はレベルが低かったから」


「好きな魔術とか、得意な魔術って」

「企業秘密」


 当然そんな状況を面白く思う者ばかりではない。摩耶を挟んで霧花の反対側に座る女が鬱陶しそうに声をあげる。


「あのさぁ! 自己紹介の続き、しようよ」


 ガタンと、強くジョッキを机に置く音が響き、先ほどまでのに賑やかさが嘘のようにテーブルは静まり返る。それから、おずおずと男性陣最後の一人が自己紹介のために、口を開く。気取ったところのない、素朴そうな青年だ。緊張しているのか、正面に座る女の不機嫌オーラに怯んでいるのか、震える手で眼鏡のテンプルを持ち上げる。眼鏡をとった彼の顔は、決して華やかなものとは言えなかったが、清潔感のある整った印象で少し空理に似ているなと霧花は微かに笑った。


「ごめんなさい、昨日あまり寝れてなくて」


 と謝る男。目尻を揉む彼の下瞼の内側、本来なら赤いはずの粘膜が異様に白かった。


比嘉石弥(ひがいしや)です。あの、魔術の才能とかは無いんですけど、魔術オタクやってます。あと、大学のサークルで漫画とか描いてます」

「この三人、大学のコミックサークルの仲間なんですよ!」


 固まった空気を打開するためか、やけに明るくそう言って山下が比嘉と夜野の肩に腕を回して仲良しアピールをする。その様を横目に、武曽……もとい冴木は烏龍茶を啜る。仕事中である事を隠しもしない魔導警察の警察官に苦笑するしかない霧花、彼女……いや彼の事が気になるのは霧花だけではないらしく先ほどまで不機嫌だったもう一人の女が甘えた声をあげる。


「えぇ~タケル君は違うのぉ?」

「……違う」

「あ、はいm……冴木さんは、ボクのゼミの先輩で、最近ボクの調子が悪いから心配して付いてきてくれて」

「うん……比嘉、最近貧血気味だから」


 貧血気味という冴木(むそう)の言葉の通り、比嘉石弥と名乗った男は、どこか青白い顔色で今にも折れそうな危うい雰囲気を漂わせていた。瞼の下が白かったのもそのせいかと、霧花は一人納得する。


「大丈夫? 体調悪くなったら、いつでも言ってね?」

「ありがとうございます……」


 摩耶の気遣いに比嘉が軽く頭を下げると、今度は女性陣が自己紹介する流れとなる。比嘉の正面に座る女が即座に名乗り出る。一刻も早く自身をアピールしたいという腹積もりだろう。


「はーい、佐々木美紀二十二歳大学四年、趣味は食べ歩きでインスタに食べ物の写真とかあげてて、ほら見てこれ凄くない?」


 彼女の見せてくる自身のインスタの投稿、それらは痩せすぎとまで言えそうな彼女の印象からは真逆のガッツリ系で、男性陣の反応も良かった。それから、伊月摩耶、遠城霧花と手短に自己紹介を済ませる。男性陣の狙いはやはり霧花かと思われた。単純に見た目が良ければ、男の反応が良くなるのは当然の話だ。しかし、意外にも霧花に声を掛ける男は少なかった。物には限度というものがある。いくら美人でも美人が過ぎれば、自分など相手にされないと男も尻込みするものだ。丁度、霧花の態度もそれに拍車をかけた。


 そうすると、どうなるか。元々やる気のない霧花と冴木(むそう)が黙って向かい合うという、まるで合コンらしからぬ光景がそこに生み出される。冴木(むそう)狙いの佐々木としては腹立たしい事この上ない展開である。


 そんな感じで、合コンはつつがなく進行した。時刻は午後七時四十分丁度、良い感じに酔いのまわってきた霧花は、携帯の画面を眺めながらそろそろ帰ろうかと思案していた。


「なァ? いくらなんでも遅くねえか?」


 唐突に声をあげた夜野に、霧花は顔をあげる。気が付けば、他の面々も心配そうな表情で空席を見ている。ニ十分ほど前に席を外した比嘉のものだ。既に向かいに座る冴木(むそう)は立ち上がり、トイレに向かおうとしている。


「待って、私も行くわ」


 机から離れようとする魔導警察の背を引き留めたのは、ただ嫌な予感がするというだけの勘だった。その様子に不穏なものを感じたのか、合コン参加メンバーもぞろぞろと立ち上がり、後を付いてくる。店内はそこまで広くない、幾つかの大テーブルを迂回すればすぐにトイレの入り口に辿り着く。オレンジに塗装された壁に、シックな木製の扉が二つ並んでいる。片方が男性用、片方が女性用である。


 霧花も何度かこの店に足を運んだ時に利用させてもらったが、中はそこまで広くなく、中に利用者が居るなら霧花や武曽ほどの熟練者なら気付ける筈だった。


「気配がないですね……」

「そうだね……」


 目を細めた霧花の言葉に、武曽は静かに頷いた。


「えっ、それって……どういう事っスか」

「オイ、前の奴等は早くしろよ、比嘉に何かあったら救急車呼ばなきゃなんだぞ!!」

「ちょっと、大きい声出さないでよ!」

「霧花……大丈夫なの?」


 急に煩くなる背後の四人を捨て置き、二人は男子トイレの扉を開ける。飲食で火照った体に冷気が当たる。半地下になっているトイレの天井付近には換気用の窓があり、そこが開けっ放しになっていた。動体センサーが霧花たちの侵入を感知し電灯が付く。それは同時に、この場所に動く人間が居なかった事を表していた。


 入ってすぐの右手に小便器が二つ並んでおり、その奥に大便用の個室が一つ。綺麗と言うほど綺麗でもなく、汚いと言うほど汚い訳でもない、トイレ特有の異臭こそあるものの五感に異常はない。


「比嘉さーん?」


 まずは確認をと声を掛ける霧花、しかし当然のように返事はない。魔術師二人は瞬時に目を合わせ、頷き合うと中に入っていく。両名共に女性だが、男性用トイレに踏み込むことに躊躇は無かった。


 ゴンゴンゴン。武曽が個室の扉をノックする。鍵が掛かっている以上、そこに誰かが入っている事は確かだ。だが、反応はない。


「摩耶、店の人呼んできて」


 その頼みに、友人はあたふたとしながらトイレを離れる。佐々木もその後を追い、残されたのは男性二人とプロの魔術師が二人。とりあえず店の人に事情を話して、警察を呼んでもらって、なんて考えていた霧花の前でバキッと大きな音を立ててドアが破壊される。


「えぇ…………」


 あまりの手の早さに愕然とする霧花の前で、馬鹿力でドアを引き壊した武曽が中の様子を確認する。そして、中を見た彼女の顔を見て、霧花も自らの認識を改める。そんな悠長にしている場合ではなかったのだ。武曽の後ろから、個室の中を覗き込む。


 そこには枯れ木のように痩せ細った人のような何かが座り込んでいた。用を足していた痕跡はない。恐らくはその前に命を落としたのだろう。それは、まさにミイラ……


 血の一滴も残らず吸い尽くされた……比嘉石弥(ひがいしや)の遺体だった。

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