57, エピローグ
ロイドとルネが父親のダリオさんと感動の再会を果たしてから、数日後。
エアーレイ王国から、ついに迎えがやって来た。
私とロイドは、その報告を受け、応接の間へ呼び出された。
上座には、帝國から皇帝の座をもぎ獲った男――堂々とした佇まいのリゲルの姿があった。
私たちが部屋に入ると、柔らかな笑みを浮かべた、可憐な女性が椅子から立ち上がった。
その姿はどこか少女の面影を残しつつも、気品に満ちている。
「ミカ、ロイド。元気そうでよかったですわ。本当にご苦労さま」
そう言いながら近づいてきたその女性は――なんと、エアーレイ王国第一王女、リディア様だった。
「リディア……様? リディア様が、私たちを迎えに来てくださったのですか?」
「ええ、そうよ。お兄様たちは忙しいから、一番時間のあるわたくしが来たの」
リディア様はにこやかに微笑み、続ける。
「今、リゲル陛下からあなたたちの活躍を聞いていたところよ。本当によくやってくれたわ。……そちらのロイドもね」
「リディア様。俺は、自分の家族を救うために当然のことをしたまでです。それに、リディア様自ら迎えに来ていただけるなんて……本当にありがとうございます」
その言葉に想いを込めるように、ロイドはリディア様に向かって深々と頭を下げた。
「それでは、リゲル陛下。準備が整い次第、わたくしたちは攫われた人々と共に、国へ帰らせていただきますわ。
ですが――これで終わりではございません。たとえ攫ったのが前皇帝であったとしても、今の皇帝はあなた。国としての責任は、きちんと取っていただきますわよ」
「それは当然のことです。たとえ父上の所業であったとしても、可能な限りの賠償はさせていただきます。
それに、先ほどお話しした同盟条約の件も、貴国優勢の条件で構いません。くれぐれも、国王陛下、王太子殿下、そして第二王子殿下に、よろしくお伝えください」
リゲルは、いつもの人を食ったような態度を巧みに隠し、恭しくリディア様に頭を下げた。
「承知しましたわ。必ず父上と兄上たちに伝えましょう」
そう言ってから、リディア様は私とロイドへと視線を向け、柔らかな笑みを浮かべる。
「さあ、ミカ、ロイド。準備が整い次第、出発するわよ」
リゲルとの話を終えたリディア様は、こちらへ振り返って穏やかに告げた。
私たちがいくつもの大型バスのような魔導車で向かった先――ディースラ帝國の玄関口とも言える最大の港町。
その湾岸には、エアーレイ王国の紋章を刻んだ巨大な船が横たわっていた。
海と街を睥睨するかのようなその姿は、否応なく人々の視線を引き寄せている。
私たちは、その豪華客船とも呼べる船に乗り込み、エアーレイ王国への帰路に就いた。
水圏の大魔女アウローラと火圏の大魔女ペレとは、皇城で別れた。
なぜか二人は「大魔女会」ならぬ謎の集まりを勝手に立ち上げ、年に数回、大魔女たちの集会を開くと決めていた。
新参者の私は断る術もなく、曖昧に首を縦に振るしかなかった。
エアーレイ王国に戻ってからは、アドニス様への報告をはじめ、報奨金を受け取ったり、潜入捜査の詳細を聞きたいという要望から、アドニス様やリディア様だけでなく、国王陛下や王太子殿下の前にまで呼び出されることになった。
もちろん、ロイドも一緒だ。
その後、ロイドから聞いた話では、母親のパメラさんは、夫であるダリオさんの帰還がよほど嬉しかったらしく、しばらく涙が止まらなかったという。
ロイドとルネ、そして両親の四人は、王都で家族そろって暮らすことになったそうだ。
ダリオさんは、師匠の若返り薬によって人体実験で失った寿命を取り戻したものの、見た目まで若返ってしまった。
そのせいで、妻のパメラさんの方が年上に見えてしまい、結局、彼女も師匠の若返り薬を使うことになった。
若返ったパメラさんは、「あら、これならもう一人くらい子供が生めそうね」なんて言っていた。
それを耳にしたダリオさんが心なしか頬を染めていたのは気のせいではないだろう。
ダリオさんは魔法師団で働くことになり、ロイドとルネは双子ということにして、魔法学園へ入学することになった。
「ミカも一緒に学園へ通おうよ」とルネに誘われたけれど、正直、少し迷っている。
だって――中身はアラフォーの私が、今さら学校なんて。
……とはいえ、魔法学園と聞くと、どうしても心惹かれるものがある。
なので、かなり前向きに検討中だ。
師匠は師匠で、「ほう、久々の魔法学園は楽しみじゃな」などと、すっかりその気になっている。
人形の姿で、いったいどうするつもりなのだろうか。
まあ、魔法学園には魔導機人形、オートマトン・ティモシーがいるし、魔導機人形だと言い張れば、なんとか誤魔化せるかもしれない。
いずれにせよ――ルネや攫われた子供たち、さらにそれ以前に連れ去られていた人々まで、全員を無事に救い出すことができた。
そう思えば、今回の私の役目はきちんと果たせたといえるだろう。
当初は、魔力の強い子供たちの情報を外部に流している裏切り者が学園内にいるのではないかと疑っていた。
だが、調査の結果、そのような人物は存在しないことが明らかになった。
実際に子供たちの魔力を判定していたのは、受付にいた女性が身につけていたブローチだった。
それは魔力を感知し、送信する魔導具で、彼女自身もその正体を知らなかったらしい。
聞けば、そのブローチはかつて交際していた男性から贈られたものだという。だが、その男性はしばらくして彼女の前から姿を消したそうだ。
女性のことを思うと胸が痛む。
それでも、学園に裏切り者がいなかったと分かったのは、せめてもの救いだった。
何はともあれ、子供たちの誘拐事件はこれで解決だ。
残る後始末は王族たちに任せることにした。
この世界に来てから、まだそれほど長い時間が経ったわけではない。
それでも、私はふと足を止める。
これから自分は何を目指し、どこへ向かっていくのか――その答えを、少しだけ考えてみようと思ったのだった。




