表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します  作者: 梅丸みかん
第三章 帝國の野望

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

155/159

54, 惚れ薬

「……人形が、動いてる……」

 リゲルは目を見開いたまま、呆然とその場に立ち尽くしていた。


「エアデ様……?」

 ロイドの小さな呟きに、リゲルがはっとして振り向く。


「エアデ……様? それって、もしかして――あの地圏の大魔女か? ミカ、どういうことだ」

「えっと……説明は後で。今はそれより……」


「……まあ、そうだな。今はこの場の収拾が先か。だが、あとでちゃんと説明してもらうからな」

 リゲルはそう言って、この場の収拾を優先すべきだと判断したのか、渋々と引き下がった。


「それで、と……師匠。どうしてここに? それに……その人たちは?」

 私は師匠の隣に立つ二人の女性へと視線を移しながら問いかけた。


「おお、お前がエアデの弟子、ミカとかいう者だな」

 褐色の肌に、燃えるような赤髪を後ろで束ねた女性が、豪快に笑う。


「なるほど、噂に違わぬ魔力だ。俺はペレ――火圏の大魔女と言った方が分かるか?」


「火圏……」

 言葉を失っている私の前に、今度は水色の長い髪を揺らす女性が、ペレを押しのけるように一歩進み出た。


「あらあら、ペレ。抜け駆けはだめよぉ」

 にこやかに微笑みながら、こちらに手を振る。


「初めまして。私は水圏の大魔女、アウローラよ。よろしくね」


 ――大魔女、三人。


 あまりにも規格外な顔ぶれに、私は完全に言葉を失っていた。

 リゲルも私と同じように唖然としている。

 

 私は助けを求めるように、師匠へ視線を向ける。


「妾たちのことは気にするでない。ほれ、構わず続けるのじゃ」


「そうそう。せっかく見学……いえ、見守りに来たんですもの。どうぞ続けて」


「そうだ、ミカ。俺たちは邪魔しに来たわけじゃない。クライマックスは生で見たいだけだ。気にするな」


 ――なんだろう、この人たち。

 私は必死で戦ってきたというのに、まるで芝居か映画でも鑑賞しているような、あまりに軽い物言い。


 胸の奥から、じわじわと怒りが込み上げてくる。

 体内を魔力が巡り、空気がピリッと張り詰めた。


「ミ、ミカ! 魔力が暴走しそうじゃ! なぜ急に!? 抑えるのじゃ!」

 師匠の慌てた声が響く。


「ミカ! 待って! それより、父さんを……!」

 ロイドの叫びに、はっと我に返る。


 ――そうだ。

 今は怒っている場合じゃない。


 まずは、あの魔法師の一人――ロイドのお父さんを何とかしなきゃ。


「師匠」

 私は深く息を整え、指差した。


「あの魔法師の一人が、ロイドのお父さんらしいの。帝国の呪紋で洗脳されてるみたいで……でも、さっき師匠からもらった薬、全部使っちゃって」


 気圏魔法で動きを封じたままの魔法師たちを示しながら、必死に訴える。


「何とか、できないかな?」


「まったく……お主は、後先を考えぬのう。困った弟子じゃ」

 ――それ、師匠にだけは言われたくない。


 後先考えないのは、どう考えても師匠の方だ。


「そんなこと言ったって! 師匠、アイテムボックスに入ってるの、傷薬以外あんまり役に立たなそうな薬ばっかりじゃない!」


 私は口を尖らせ、溜め込んでいた不満を一気に吐き出した。


「だいたい惚れ薬ってなに! こんな状況で、どう使えっていうのよ! あの魔法師たちは洗脳されてるんだよ!? 私の魔法を解いたら、絶対に襲ってくるじゃない!」


「あらぁ……惚れ薬? 面白そう……じゃなくて、素敵ねぇ」

 くすり、と楽しげな笑い声がした。


「え?」

 思いがけない反応に、私は言葉を失う。


 声の主は、水色の長い髪を揺らす女性――水圏の大魔女、アウローラだった。


「……今、面白そうって……言った?」

 胸の奥に、再び怒りが込み上げかかる。


「まぁまぁ、そんなに怒らないで」

 アウローラは涼しい顔で微笑んだ。


「あなた、その惚れ薬を持っているんでしょう? ちょっと、わたしに貸してちょうだいな」


「……え?」

 言っている意味が理解できず、私は思わず固まる。


「ふふふっ。あの魔法師たちを大人しくさせたいんでしょう?」

 彼女は楽しそうに目を細めた。


「わたしが、なんとかしてあげるわ。ほら、惚れ薬を」


「……まさか……」

 一瞬ためらったものの、他に手立ては思いつかない。


 結局、私は惚れ薬の瓶をアウローラに手渡した。


「他の人たちに影響がないようにするわね」

 アウローラはそれを軽く掲げると、澄んだ声で呪文を紡ぐ。


「――アクア・コルティア」

 次の瞬間、私たちと魔法師たちの間に、水のカーテンが降りた。


 透明な水膜の向こう側にいるのは、アウローラと三人の魔法師だけ。

 外からは、中の様子はぼんやりとしか見えない。


 やがて、水のカーテンがすっと消え去る。

 そこにあったのは――


 まるで神を崇めるかのように恍惚とした表情をした三人の魔法師の姿だった。


「ミカ、もう彼らの縛りを解いていいわよ」

 アウローラの言葉を受け、私が魔法師たちの周りの空気を緩めた。


 その途端、アウローラの前にひざまずき、賞賛の声をあげる。


「お美しいアウローラ様」

「まるで女神様のようだ」

「アウローラ様、我が心は永遠にあなた様のものだ」


 ……え?

 思わず、言葉を失う私の横で、誰かが小さく息を呑んだ気がした。


「まあ、一応、攻撃はしてこないようだな」 

 目の前の光景に、苦笑いを浮かべながらリゲルが呟いた。


 けれど、その横でショックを受けたように呟くロイド。


「……父……さん?」

 彼は言葉を失い、戸惑いを隠せずに立ち尽くしていた。


 かつての面影を残しながらも、どこか滑稽で、痛々しいその姿に、視線が定まらないようだ。


「相変わらず、エアデの薬は効き目バツグンねぇ」

 アウローラがくすりと笑い、軽い調子で続ける。


「そこの少年、そんなに心配しなくても大丈夫よぉ。きっとこの薬の効果は、しばらくしたら切れるはずだから」

 そう言って、彼女はちらりと師匠に視線を向けた。


「……ねぇ、そうでしょ? エアデ」


「効き目は三日じゃ」

 師匠は腕を組み、あっさりと答える。


「まあ、その間に解呪薬を作れば問題はなかろう。……とはいえ、父親のあの姿を見続けねばならぬロイドにとっては、少々酷な話じゃがな」


 ロイドは一瞬、父親の方を見た。

 そしてすぐに視線を逸らすと、ぎゅっと拳を握りしめ、やがて意を決したように一歩前へ出る。


「エアデ様……どうか、お願いします」

 懇願するように頭を下げるその姿は、もう迷いの残る少年のものではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ