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アンダーサイカ -旧南岸線斎珂駅地下街-  作者: 唄うたい
第10章 哩【とおいところ】
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10-3

雲が激しく流れ、空を覆っていった。

同時にぽつりぽつりと降り出す雨。

やがて雨はその量を増し、5分と経たないうちに豪雨へと変貌した。


夏の嵐は恐くて冷たい。

でもアンダーサイカでの恐怖に比べたらそんなもの…―――。


「……ッ、」


ガシャンと音を立てて、私はフェンスにしがみついた。


旧斎珂駅は相変わらず高いフェンスとシートに囲まれ、人が入り込む隙もない。

潤ちゃんたちと潜り込んだ穴も隠されたらしく見つからなくて、私はどうしようもないからフェンスを叩く。


「…だ、誰かっ、誰か中にいませんか…!?

お願いだから入れて!ちょっとでいいから…!!」


ガシャン、ガシャンと激しく音が鳴る。

雨のせいで周囲に人の姿はなく、誰に縋ることもできなかった。

小学生のひ弱な力じゃ歪ませることすらできない。今の私には、これが聳え建つ鋼の壁にしか見えなかった。


…それでも、そんな理由で諦めていいわけがなくて。


「…開けて!!開けて誰か!!

キョウくん!マサちゃん!!

……ヨシヤッ…――!」


ずきん。胸が痛む。

ヨシヤに声が届かないことなんて、分かりきってるのに。私のために…ヨシヤは消えたのに。


「………お願いっ…。開けてよぉ……!」


目の前がぼんやりする。

言わずもがな、私の目に涙が滲んできたためだ。


―――…泣いちゃダメ。6年生なんだから…。


子供ならわんわん泣いて、誰かに縋ってもいいのかもしれない。


でも、今の私はダメだ。

ヨシヤや稔兄ちゃんを助けるんだ。その私が、赤ちゃんみたいにビービー泣くなんて、ダメ。


「……泣かない。ヨシヤ助けるまで、私、絶対泣かない!」


滲んだ涙を袖で強く拭って、私はフェンスを睨みつける。


「…ヨシヤと稔兄ちゃんを返して…!!

私の大事な人たちを、理不尽なルールで取り上げないで…!

どんなに遠いところにやったって、私、絶対走ってって、取り返してやるから…っ!!」


誰に向けて言ったのかも分からない。

言うなればきっと“アンダーサイカ”に…だ。


…それに確信はなかったけど、なんとなく私の言葉は、“誰か”の耳に届いてる気がして…。



鋼の(フェンス)が、



「………え………?」



質素な、木の扉に変わった。


音もなく、気配もなく。

私が今さっき、手に血が滲むくらい叩いていたフェンスが、煉瓦色に塗られたこぢんまりとした木のドアに変わっていた。


ドアにはもちろんドアノブがついていて、それを捻ると、ドアは恐いくらいアッサリと入り口へと変化した。ドアの中には、


「……エレベーター……?」


稔兄ちゃんと乗った、ひどく寂れたあのエレベーターがあった。

「これに乗れ」と。そう言われてるのは明らかだ。


「………。」


罠かもしれない。

地上人を招き入れるための甘い罠かも…。


だけど、


「………っ。」


―――上等だよ。


私は力強い足取りでドアをくぐった。


望むところだ。

アンダーサイカに入れるなら、罠なんてちっとも恐くない。


生者の世界から、死者の狭間の世界への境界を跨ぐ。


――ギギイィ…


その直後、ドアはひとりでにゆっくりと、入り口を閉ざした。

後戻りはできない。そんな声が聞こえるようだった…――。

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