第65話 仲人
第65話 仲人
少しずつ落ち着いてきて、日常の業務に皆が戻った後の休日に
シャアルとアリシアは、ロゼッタの屋敷を訪れることになっていた。
小さな友人、ロレーヌがアリシアの番に会いたいと
せがんでいた為だった。
アリシアは、シャアルへの自分の気持ちに気が付いた
きっかけがロレーヌの言葉だったと話してあった。
シャアルは優しく微笑んで、私の恩人に会いに行きたいと
ロゼッタに話してくれたのだ。
その日、ロレーヌは朝からソワソワして、オシャレに余念がなかった。
ロゼッタに何度も、髪型やドレスはおかしくないか尋ね、
リボンを何度も取り替え、鏡の前で悩んでいた。
そんな妹を、ロゼッタは笑いながら相手をしていた。
「ロレーヌ?あなたの番ではないのよ?」
念のため、ロゼッタはロレーヌに話した。
「お姉様、分かってるわ。アリシアお姉様の番にお会いするのよ」
ロレーヌは、ぷんぷん怒っていた。後一年すれば、学校に行くのだ。
もう赤ちゃんではないのにと、ロゼッタに話す。
ロゼッタは笑いながら、あやまった。
「ごめんね、ロレーヌ。分かっているなら良いのよ。
あんまりにも嬉しそうだから、ついね」
ロレーヌは、ロゼッタの首に抱きついた。
「だって、お友達の中で、1番早く番を見つけたのが
アリシアお姉様なんですもの!!」
「そうね、ロレーヌ。私も嬉しいわ。さあ、次は紅茶を選ぶのよ。
リボンはどちらにするの?決めてしまわなきゃ」
そう言って、ロレーヌを抱き上げた。
ロレーヌのお昼寝の時間を考えて、午前中にくることになっていた
シャアルとアリシアは、ロレーヌへの土産を手にやってきた。
シャアルは、ロゼッタの両親と挨拶を交わし、招いてもらった礼を言った。
シャアルの小さな恩人は、サロンにいた。
アリシア達を見るとパッと顔を輝かせて、淑女の礼をとった。
この日のために、何度も練習したのだ。
「初めまして、デヴォン辺境伯。ロレーヌと申します。以後お見知りおきを」
小さな膝を、ちょこんと折った。金色の巻き毛が、クルンと揺れる。
アリシアは、ロレーヌの可愛さに微笑んだ。
シャアルは、ロレーヌの目線に合うようひざまづき、
ロレーヌの手を取った。
「初めまして、ロレーヌ。どうぞよろしく、私の恩人」
そう言われると、ロレーヌはちょこんと首を傾げて尋ねた。
「恩人てなあに?」
シャアルは、そうか、君には難しい言葉だったと笑い、
「恩人というのはね、感謝したい人のことだよ。
アリーから聞いたんだ。君とのお話のおかげで
アリーは私を選んでくれた。君のおかげなんだよ、ありがとう」
ロレーヌは嬉しそうに、シャアルに聞いた。
「本当?よく覚えていないけど、でも良かった」
幼い無垢な良い笑顔だった。
そんなロレーヌにシャアルは土産を手渡した。
ロレーヌは飛び上がって喜び、箱を開けても良いか尋ねた。
シャアルは立ち上がり、もちろんと答えた。
ロレーヌが席に着き、箱を開けている間に、
アリシアはマルコムにもお土産があるのよと、手を引いた。
マルコムは騎士の礼で、シャアルに挨拶をした。
皆で、ロゼッタの入れてくれた紅茶を飲む。
柔らかくて渋みの少ない紅茶で、とても美味しかった。
ロレーヌは、すっかりシャアルになつき、
ロゼッタを慌てさせるほどだった。
1番にお茶を飲み終えると、シャアルの前にやってきて
「デヴォン辺境伯、お膝に乗っても良い?」
シャアルは笑い出して、どうぞと言って抱き上げた。
ロゼッタの母とロゼッタが慌てて止めたが、シャアルは笑って
大丈夫だと話した。そして、ロレーヌは恩人なのだから自分のことは
シャアルと呼ぶように言った。
ロレーヌは、喜んで答えた。
「はい、シャアル様。お父様と一緒で、お膝の上だと
周りがよく見えるわ」
横でアリシアが笑っていた。
その笑顔をみて、無邪気にアリシアに尋ねた。
「アリシアお姉様、結婚式はいつ?」
ロゼッタが、思わず紅茶でむせた。
「ロレーヌ!!」
ロレーヌは、なぜロゼッタに注意されたか分からなかった。
「だって、シャアル様とアリシアお姉様は番なのでしょう?
結婚式でお手伝いしたいんだもの。お花をまく係がいいの」
アリシアは笑いながら、シャアルを見た。そして、優しく答えた。
「ロレーヌ、ちょっと忙しくて結婚式の相談は、
まだシャアル様とできていないの」
「そうなのね、では今相談すればいいわ。そうしたら係もいっぺんに決まるもの」
アリシアは、笑いながらロレーヌに手を伸ばした。
ロレーヌはシャアルのひざから、アリシアに抱きついた。
「そうね、お花の係はロレーヌにお願いするわ。
シャアル様、どうかしら?」
シャアルは、笑ってうなずいた。
「もちろんだ、アリー。私もロレーヌに頼みたい」
ロレーヌは、アリシアに抱かれながら手を叩いて喜んだ。
「嬉しい!!お姉様、私の係は決まったわ。
お姉様とお兄様はどうするの?」
マルコムは、憮然として答えた。
「僕は、騎士になるんだから花嫁を悦ばすために
一緒に花をまいてやる。」
「じゃあ、お兄様もお花の係ね。お姉様は?」
ロゼッタは、ため息をついた。
アリシアは目配せして気にしないように伝えている。
少し笑顔になって、答える。
「私とシャロンはブライズメイドになるのよ」
ロレーヌは、誇らしげにシャアルを見た。
「シャアル様、もう係が決まったわ。これで心配ないわね」
シャアルは、笑ってロレーヌに言った。
「本当だ。これで大丈夫だ。やっぱり君は私の恩人だ」
その後もロレーヌの活躍は続き、楽しく過ごした後、
シャアルとアリシアは昼食をとり、アリシアの屋敷で
庭を散策していた。
もう咲き誇る花も入れ替わり、新しい木々に実をつけているものもある。
シャアルは尋ねた。
「アリー、君は結婚をどう思う?」
アリシアは、優しく答えた。
「私、シャアル様と一緒にいたいわ。シャアル様は?」
そう尋ねたアリシアは、とても穏やかな顔をしていた。
シャアルは足を止め、大きな木の下でひざまづいた。
そして柔らかく微笑みながら言った。
「アリー、小さな恩人に勇気をもらったよ。
本当はね、もっと色々な場所を考えていたのだよ。
でもあんなに素直な恩人を目の前にしたら、
自分の気持ちを、そのまま話すのが1番いいと思ったんだ。
アリー、どうか私と結婚してほしい」
そう言って、アリシアの手に口づけを落とした。
アリシアは、ゆったりと微笑みながら答えた。
「はい、シャアル様」
シャアルは、アリシアを抱きしめながら、自分の生涯最大の幸運を
かみしめていた。やっと毎日そばに居られる。
もうアリシアの側に自分が居ないなど考えられない。
アリシアは大きな木の下で、シャアルに抱きしめられながら思った。
まるで森に守られているようだ。大丈夫、2人で分かち合っていこう。
シャアルは、幸せそうにアリシアを抱きしめていた。
「アリー、愛しているよ。愛してる。何回伝えても
足りないくらいだ。アリー、愛してる」
そう言って、アリシアにたくさんの口づけを贈った。
そして、いかに最短で結婚式を上げるかの算段を始めていた。
こうして小さな恩人は、また1つ番の手伝いをしたのだった。




