表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
65/68

第64話 王子の心

 第64話  王子の心


 ニコラはあれから、考え込んでいた。


なぜ人族を巻き込んだのか。その問いに影は、

人々の関心を、偏見を持つ者に集める為だったと話した。

そして自分達に、関心を持たれないようにする為だと。

悪意を隠し持つ者達を、世間の目に触れさせ、

自滅させるつもりだったと話した。


何が正義で、どれが最善だったのか。

どうすれば復讐する心を取り除いてやれたのか。

まるで思考が、ぐるぐると同じところを回っているかの様だった。



そんなニコラを見かねて、フィルはお忍びで出かけるぞと言い、

自分の屋敷に連れて行った。

そこには、にこやかなアリシアが待っていた。

アリシアに歓迎され、抱きしめられる。

本当に無事で良かった。ニコラはしみじみを思うのだ。

現実として、ニコラが守れた存在が、そこに立っていた。

それは、ひどくニコラを安心させた。

アリシアは笑いながら、プレゼントがあるのと言い手招きした。


「ニコラ、お兄様、私につかまって。離してはダメよ」

そう言って、二人の手を自分の左腕に捕まらせ、右手を高く上げて

何かつぶやいた。足元に魔法陣が浮かび上がる。

アリシアは、いたずらっ子のように笑い、こう言った。

「転移魔法よ」


それはニコラをシャアルの屋敷まで運んでいった。

ニコラはつむじ風の光から抜け出た時、

何が起こったのか分からなかった。

アリーが、転移魔法?

アリシアを見ると、笑っていた。

「ビックリした?私、魔力がかなりあるんですって。

シャアル様に調べていただいたの。だから、結構何でもできるみたい。

ニコラ、あなたのおかげよ。学生の時に真面目にやってたらと

思うこともあるけど、もう1度、挑戦できたわ。

あなたのおかげなのよ、ニコラ」


晴れやかに話すアリシアを見て、ニコラは驚いていた。

ついこの間、学生時代にやらなかったことを後悔していたアリシアが

転移魔法を使っている。転移魔法は魔力があれば良いという問題ではない。

かなり高度な魔法なのだ。……結界を張るのだって苦労していたのに……。

「ニコラ、諦めなければできるのね」

そう言ったアリシアは、輝くような笑顔だった。


そうだ、僕はこの笑顔を守りたかったんだ……。

諦めなければできる……。この言葉をニコラが反芻していると

後ろからシャアルの声がした。

「殿下、我が領地へ ようこそ」

シャアルはニコラを、王族への礼を持って迎えた。

ニコラは、ゆっくりと振り返り、いつもの笑顔に戻った。

「シャアル、動いて大丈夫なのかい?」

「ええ、殿下。もう9割まで魔力が戻りました。お休みをいただいて

申し訳ありませんでした。明日から、王宮に戻ります」

ニコラは久しぶりに声を上げて笑った。

「休みの件は、大丈夫だよ。だいたい50回近く転移魔法を使ったんだ。

普通なら立っていられないはずだからね。魔法省の大臣が呆れていたよ」

その言葉に、アリシアがあんぐりと口を開けた。

「50回?」

そんなアリシアを見て、シャアルが笑う。

「殿下、それは内緒だったのですよ?

アリーが心配するといけないですからね」

あとで、アリシアに詰め寄られるだろう。シャアルは苦笑いした。


シャアルは自慢のサロンに、ニコラを案内した。

庭の後ろに広がる森を、ゆっくりと眺められる。

アリシアは、シャアルにねだった。

「シャアル様、お庭に出てベリーの実とハーブを摘んでもいい?」

実はニコラとシャアルに、ゆっくり話してもらいたかったのだ。

シャアルは笑って、フィルについて行ってもらうように言った。


ニコラは出された香り高い紅茶を、美味しそうに飲んだ。

「シャアル、アリーがとても幸せそうだ。ありがとう。

僕がお礼を言うのは何だか変だけど、彼女の親友として

とても感謝しているんだ」

シャアルは微笑んで、首を振った。

「いいえ、殿下。お礼を言うのは私の方です。

私をアリーに会わせて下さった。ありがとうございます」

2人は、庭に出たアリシアとフィルを眺めていた。

籠をもち、フィルに何か笑いながら話しているアリシアは、

とても楽しそうだった。


ニコラが、ゆっくりと口を開いた。

「シャアル、僕はね、白と黒でしか物を考えていなかった。

僕が目指す道は治世者だ。法を守ることが軸になる。

白か、または黒か。その判断をするのが大切だと思っていたんだ」

シャアルは静かに聞いていた。

「でもね、今回のことで身に染みたよ。それだけではダメなんだって。

黒に染まりそうな国民を、どうするのか。そこも大切なんだ。

彼を止める方法を、僕は思いつけなかった。それを悔やんでいるよ」


シャアルは、前よりも少し引き締まった表情をする若き王子を見た。

そして、ゆっくりと話し出した。

「殿下、私個人の意見を述べさせていただいても?」

ニコラはうなずいた。

「殿下、人の想いというのは止められません。

例え、それが破滅的な想いだとしても止められないのです。

(つがい)を見つけて、恋をするなと言っても誰も聞かないでしょう?

その破滅的な想いに近寄るか、離れるか。それは本人が決めることなのです。

今回の影は、殿下が何か他の方法を思いついたとしても、聞かなかったでしょう。

彼らは自分の手で、相手を破滅させたかった。何回か尋問しましたが、

特に弟の方の私怨は、凄まじいものでした。怒号と悲愴さを含み、

もう後戻りはできなかった」

シャアルは、ニコラと目を合わせた。

「殿下、私はお慰めするつもりで話しているのではありません。

人の心は難しい。確かに今回は、やめさせられなかった。

でも殿下が、今回の悔いを持っていらっしゃるだけで、

救える者が増えるかもしれない。それを積み重ねることが

国民の為になるのではないでしょうか?」

シャアルは優しく微笑んだ。

「殿下、法を守ることの大切さと、法を変えることのできる勇気。

この相反する二つを持っていれば大丈夫です。

殿下はきっと良い治世者になられる。

微力ながら私にもお手伝いさせていただきたい」

そう言うとシャアルは立ち上がり、王族への礼をとった。

ニコラは、シャアルを見て、いつになく真剣な表情をした。

「シャアル、本当にそう思う?」

「ええ、殿下。私は嘘はつかないことにしているのです。

隠し事はしますけどね」

そう言ったシャアルに、ニコラは笑い出した。

「僕は、まだ経験が足りないんだね。この悔いを忘れないようにするよ」

ニコラは少し吹っ切れたような表情でそう言った。


「ああ、アリーが戻ってくるね。楽しそうだ」

そう言ったニコラも、楽しそうに立ち上がったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ