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森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
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第63話 傷

 第63話  傷


 この事件は王国に、かなりのショックを与えた。

国王は包み隠さず、事件の内容を国民に伝えた。


もはや王国が揺らぐとゆう問題ではなく、獣族、人族

それぞれの自身の倫理、正義との問題だった。

種族ではない、人としていかに生きるか。

その一点が、王国内で問われることとなった。


それでも、ナラタナ王国の民は、古来より

真面目で勤勉だったことも幸いして、次第に活気を取り戻した。

結局、誠実に真面目に、時折楽しみながら生を営むのだ。

そこが普遍の人としてのテーマだと、身分関係なく思い至った。


矢面になった者たちの癒しになるのは、愛する者だ。

女性であろうと、男性であろうと、子供であろうと、

全力で事に当たった者たちに、癒しを与えるべく

国民全員が動いていた。


シャアルは、魔力の使いすぎで自分の領地で寝込んでいた。

緊迫した状況のため、そして時間がなかった為、

もう隠す必要もなかろうと、ちょっと転移魔法を連発しすぎた。

事に大体の見通しがついた時点で、珍しく緊張もゆるんだのだろう。

少し休みを取った。と言っても、ただ寝て回復を待つだけだ。

大した事はないと、ゆっくりしていたら、アリシアが泣きながら領地にやってきた。

彼女は、一回見ただけの転移魔法を、フィルに紹介してもらった魔法科の者に習い

1日で覚えて、転移魔法を使ってやってきたのだ。

執事は前もって相談されていたらしく、

笑いをこらえながら若奥様は勤勉でございますと言って

アリシアの来訪を告げた。


シャアルの部屋に通されたアルシアは、大粒の涙をこぼしていた。

ベットの上で、体を起こしたシャアルはビックリして、

思わず自身の両手を広げた。

「アリー?おいで?フィル殿に聞いただろう?

私は大丈夫だと話していただろう?」

アリシアは怒っていた。

「お兄様はあてになりません。ご自分の時も

いつでも大丈夫だと言うのです。だからシャアル様ご自身から

ご連絡いただけるのを待っていたのに…… !!」

シャアルはあっけにとられた。自分は配慮してフィルに伝言を頼んだはずなのだ。

どうしてアリシアは怒っているのか?

アリシアは、自分の胸に飛び込んできたが、明らかに怒っていた。

「シャアル様?私はシャアル様が大切と、お伝えしましたよね?!

足りなかったのですか?!これ以上、どうやって伝えたら良いのか……」

アリシアは、ポロポロと涙をこぼしながら怒り続けた。


シャアルは、アリシアの背を手でさすりながら

この幸運を影に分け与えたいと願っていた。愛するものを手に入れれば

闇に取り憑かれることなど、もうないだろう。

「アリー、私が悪かった。フィル殿に伝えてもらえば、

君の気持ちは乱れずに済むと思ったのだ。

でも、私達はそれ以上に話をする必要があったのだな。

アリー、愛している。心配をかけてすまなかった。

私は大丈夫なのだよ。魔力の回復を待つだけだ。

その為には寝ているのが1番回復が早いんだ」

「シャアル様、お一人で体を休めたいの?」

「いや、別にじっとしていれば良いだけなのだ。

ただそれではアリシアが退屈だろう?」

「私は心配な時に、お側にいてはいけないの?

別に何もしなくていいわ。お話もしなくていい。

でも病気や、お疲れの時は、お側にいたいの。

だって私、シャアル様の婚約者なのでしょう?

良い時も、悩んでいる時も、悪いことがあったとしても

一緒にいたいの。シャアル様は違うの?」


シャアルは、とても驚いていた。

ついこの間まで、アリシアは完全に自分が守るべき存在だった。

でも夜会の後からの彼女は、

彼女自身が誰かを守るという、しっかりとした意思があった。

そして、その中に自分も入っているらしい。

シャアルは、アリシアの覚悟も気持ちも嬉しかった。


「アリー、これは私が悪かった。ごめんよ。

自分が動けない時に、アリーはしたいことがあるだろうと思ってたんだ」

「シャアル様、私、お側にいても好きなことはできるわ。

あのね、大変な時こそ、お話を聞かせていただきたいの。

もちろんシャアル様のお仕事上、全部話せないことは分かるわ。

でも全てが、内緒ではないでしょう?」

シャアルは、アリシア額に口づけを落とした。

「そうだね、アリー。私は自分のことを話すことに慣れないといけない。

あまり、自分のことを話すのは得意ではないんだ。

何でも一人でやってきたからね。これからはアリーが居てくれる。

アリーと一緒に考えよう」

それを聞いてアリシアは、今日初めて嬉しそうな顔をした。

「シャアル様、分かってくださったのね。良かった。

あのね、シャアル様はこのまま横になって。私、そこのお椅子で

本を読んで居てもいい?」

シャアルは、良いと答えたが、しばらくアリシアを離さず

口づけを落としていた。夜会から何日かしかたっていないのに

久し振りにアリシアを、この腕の中に閉じ込めている気がする。

アリシアはびっくりしたり、恥ずかしそうにしたり忙しそうだったが、

今日はしょうがないと、シャアルの好きにさせていた。


シャアルはアリシアの柔らかい感触を堪能した。

「アリー、こうしていると魔力が戻ってくるように感じるよ」

アリシアはシャアルの胸に頭をもたげて、恥ずかしそうに言った。

「そう?お役に立つのなら良かった。シャアル様のように、

ニコラにも元気になってほしいわ」

「殿下はどうしてる?」

「他の方は分からないみたいだけど、

珍しく私達には分かるくらいに落ち込んでいるの。

もっと他の方法があったかもしれないって」

「そうか……」

「私、ニコラにシャアル様に言っていただいた事と同じことを話したわ。

私はニコラが最善を尽くしてくれたと思うけど、

ニコラが失敗したと思うなら、次に繰り返さないように

気をつければいいだけよって」

「殿下は何と……?」

アリシアは少し笑って答えた。

「僕も早く(つがい)を見つけようって。でも少し寂しそうだった」


二人は同じことを考えていた。ニコラにも幸せになってほしい。

自分たちが感じている、この胸の暖かいものを

ニコラにも、皆にも分けたかった。


「シャアル様、皆が幸せになれると良いわね……」

「そうだね、アリー。皆、幸せになれば良い」


二人は寄り添いながら、ニコラと同じ願いを持つのだった。

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