第62話 真相
第62話 真相
怒涛の一夜が明けた。皆、少しの仮眠をとった後、
再び引き継ぎを終えたもの、新しく探索に加わるもの
意思の疎通に違いがないか、念入りにチェックした。
コナーは、人族の生活の環境に危険が潜んでいないか
何人かの影とチームを組み、もう出かけていた。
それぞれが、打ち合わせ通り動く中、
ニコラとフィル、そしてシャアルは、ある場所に向かった。
そこは王宮からは少し離れており、シャアルはニコラの執務室から
転移魔法を使った。
そこは、田舎の中にある大きな屋敷だった。
人の影や気配が、どこにも無かった。
「殿下、ハワード伯爵の屋敷です」
ニコラの前にフィルが立ち、扉を開ける。
そして報告あった間取り図の通り、真っ直ぐに執事の部屋へ向かった。
フィルは中の気配を伺い、扉に手をかける。
シャアルはニコラを自分の後ろに隠し、魔法の準備をした。
フィルが扉を明けた瞬間、シャアルは結界を張る。
中で立ち尽くしていた人物に……。
結界の中で、その人物はゆっくりと振り返った。
「殿下、やはり真実にたどり着かれたのですね」
その者は、結界の中でゆっくりと王族への礼をとった。
それはニコラ達の間で、報告を勤めていた影だった。
「なぜ?君の能力があれば、こんなことをしなくとも
皆、法の前に連れ出せた。影 ジョルジュ、
いや本名はジャン・アバウだったね。君の話を聞こう」
ニコラは、悲しそうに問いかけた。シャアルが静かに続ける。
「君の弟は、ハワード家の執事だったんだな。
夜会の最中から、彼は王宮で取り調べを受けている」
ニコラとシャアルにとって、1番に捕獲しなければならない人物、
それはハワード家の執事だったのだ。
影、ジャンは微笑みながら話し出した。
「弟は逃げられなかったのですね。早く姿を隠すように言ったのに。
せめて弟はと思ったのですが……。
よく私の本名がわかりましたね。もう、何十年も前に捨てた名なのに」
それはシャアルが調べたものだった。それは情報の相違から始った。
シャアルは影の報告におかしな点を見つけたのだ。
自分の手の者からは報告を受けているのに、影からの報告はない。
それが、シャアルが影を疑った最初の理由だった。
ハワード伯爵は5年ほど前から、新しい執事を雇った。
それからほどなくして薬草の栽培に手を染めていたのだ。
そして、執事が入れ知恵したと思われる証拠が上がってきたのだ。
新興貴族によって追い出された先代のアバウ伯爵の息子だった。
兄弟で2人。いずれも男の子だったが、学校を兄が卒業した年に
2人とも行方が分からなくなっていた。
それでも執事と影を結びつけるのは苦労した。
彼らは30代後半。二人共、過去の痕跡は粉々に砕いていたのだ。
特に影は王宮勤めが長い。かなりの手を尽くしたのだろう。
彼の過去は何も浮びあがらなかった。しかし、それがシャアルにさらなる疑問を呼んだ。
過去のない者など、いないからだ。と、言うことは意識的に過去を消した。
それだけで、探るツテは出てくる。シャアルにとって、それは勝利を意味した。
でも……、しかし……、惜しい人材だった。そんなことに手を染めなくとも
そのまま自分の能力だけで、充分幸せな未来を望むことができたのだ。
ニコラは問いかけた。
「なぜ? 君なら告発する能力があった。
こんな事をしなくとも、父上に話せば真相は国民に広められた。
君の父君の名誉も回復できた。なぜこんな方法をとった?」
影はニコラに優しく微笑んだ。
「殿下、私怨でございます。私には殿下や、デヴォン辺境伯、
宰相副閣下、コナー様にチャンスをいただきましたね?
いつでも打ち明けた私を、迎え入れる準備を整えておられた。
それでも、この私怨は消えませんでした」
ニコラは、首を振った。
「なぜ?影でいた者であれば復讐が、どのほど自分や家族を
破滅に向かわせるか、分かっていただろう?戦乱の世なら
そのようなことも許されたかもしれない。
でも、今は戦乱ではない。君は父上と平和な今世を作りたくは
無かったのか?」
影は微笑みながら、ゆっくりと首を振った。
「殿下、恐れながら陛下と夢を見させていただいた時代もございました。
でも、私の血がそれを許さなかった。ニア・アバウは私の義妹になります。
彼女と彼女の母は、私の母が亡くなってすぐ屋敷に急に現れた。
それでも最初は良かったのです。
ニアは父の心を、幼いながらにとても慰めていた。
でも、彼女は私の義母の連れ子だった。現アバウ伯爵との子だった。
父が、少しずつおかしくなり幻聴や幻覚を訴えるようになり、
私たちは破綻したのです。彼女の母がとった方法を知ったのは
私が学校を卒業した時でした。遅かった。殿下、遅すぎました……。
そして彼女が成長し、彼女の母が私の父にした事を繰り返そうとしていた。
ニアがお茶を飲んでいた理由は、お分かりでしょう?
弟は、彼女の母も彼女も許せなかった。自分が味わった絶望を、
アバウ伯爵と夫人に思い知らせたかった。弟の気持ちを思うと
私には止められなかった。私にも、その気持ちあったから。
そこが全てでございます。
ハワード伯爵領で、遠い昔から行われてきた、おぞましい政略結婚。
アバウ家のように、もはや領を超えて、王国中に広まりだしている。
それを終わらせなければならなかった。
殿下、私たち一族の呪いは、やっと終わるのです。
ハワード領の消滅によって……」
影がそう話し終わった瞬間、シャアルは結界を解き、
彼の側へ行ったかと思うと、右手を押さえた。
「ジャン・アバウ殿。私の結界を自身を傷つけるために使ってもらっては困る」
影はシャアルの結界の強度を利用して、自身の魔法で攻撃魔法を
跳ね返させ自決する覚悟だったのだ。
右手の拘束と共に、彼の魔力もシャアルの魔力で封じ込めさせた。
影は、ゆっくりと微笑み、涙を一粒こぼした。
「デヴォン辺境伯、生きているには私は罪を重ねすぎました」
「生きるのだ。生きよ。それが陛下と王子の望みだ。
そして、道を誤った者でも、もう一度生きていける世を作らねばならぬ。
その為に、アバウ家の兄弟が必要なのだ。罪を償い、歩きなおすのだ。」
シャアルは静かに、これから王国が目指す道を、影に示した。
影は、涙をこぼす。
「それは、私たち兄弟が担える物ではないと……」
「それは、誰にも分からぬ。なぜできないと決めつける?
未来は決まってはいないのだ」
シャアルが、そう言うと影は床に崩れ落ちた。
フィルが身柄を拘束する。
ニコラは、そのやり取りを見て唇を噛み締めていた。
フィルが、影を拘束し自決もできぬようにした後
部屋から連れ出して行った時、ニコラの頰にも一筋の涙が流れた。
この方法が彼らの幸せだったのか?彼らを止める方法があったのか?
自分は、何か間違っていたのか?彼を救えたのではないか?
この解決法で良かったのか?自分に何が足りなかったのか?
ニコラは自身の涙を噛み締めるのだった。




