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森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
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第59話 動き

 第59話  動き


 カルロスに連れられて、アリシアはシャアルの元に帰ってきた。

広間の壁際に、そこかしこに設けてある椅子は、休憩や歓談用の為だ。

シャアルはすでに、飲み物と軽食を準備していた。

そこにシャロンや、ロゼッタ達も加わる。

皆、上気した頰を押さえ、飲み物で乾杯した。


アリシアは、驚いた顔をして言った。

「ニコラ、まだ踊ってるわ」

シャロンが笑って返す。

「ニコラ、王子だからね……」

ロゼッタも笑って言った。

「女王陛下が、ニコラの為に とても熱心ですもの」


デビューの者達が、一通り踊ると、あとはいつもの夜会だ。

皆でダンスを楽しみ、歓談を楽しむ。

若者は(つがい)を見つけるべく、色々な人に自己紹介をする。

知り合いや友情の輪を広げると、不思議と(つがい)が見つかったりするのだ。

ナラタナ王国の夜会は、いつでも熱気と、楽しみであふれていた。

カルロス達の世代は、それを大らかに受け止める。

ちょっとしたアドバイスをしたり、助け舟を出してやり、

別の世代からの尊敬を受けるのだった。


そうこうしていると、ニコラがフィルを伴って

アリシア達のところへやってきた。

皆、公式の場なので立ち上がり、王族への礼をとった。

ニコラは、笑顔でため息をついた。

シャアルが、驚く皆に変わって質問する。

「殿下、本日は夜会のお招きありがとうございました」

そう言うと再び皆で、礼をとる。

シャアルは小声になり、微笑して話した。

「殿下、笑顔でため息とは器用でございますな」

シャロンはこらえきれずに、下を向いて肩を揺らしていた。

ニコラは笑顔を変えず、答えた。

「そう?でも、誰か僕をほめてよ。とても頑張ったと思うんだけど」

そう言われ、シャアルが答える。

「さすが殿下、ダンスもご配慮も、お見事でございました」

そう言われ、ニコラは普通に笑い出した。

「ありがとう。シャアルにそう言ってもらえて良かった。

ごめん、ほめてなんて僕らしくないね」

そんなニコラにロゼッタが笑って小声で言った。

「いいじゃない、たまには沢山ほめてもらえば良いのよ」

「ありがとうロゼッタ。皆と話せて良かったよ。

僕は、この後も色々あるらしいんだ。じゃあ皆、楽しんでね」

そう言うとニコラは、また自分の席に戻っていった。


次々と挨拶を受けながら席に戻るニコラをみて、

シャロンは肩をすくめた。

「やっぱり、学生時代は自由だったわね」

アリシアもうなずいた。

「本当ね。どんどん責任が増えそうだわ」

そんな話をしながら、休憩し会話を楽しんでいた。

そろそろ、また踊ったり挨拶に周ったりしようとなり、

3人は、その前に化粧室に行ってくる事にした。

シャアルが廊下で待っていると言うのだが、

シャロンもいるからと、それを断ると

お化粧室の場所を指定された。

シャアルの安定感ある過保護っぷりに、

シャロンとロゼッタは笑って約束した。

「デヴォン辺境伯、承知しました。必ずその場所にします」


広間の熱気とは違い、廊下は少し涼しい風も通り抜け

3人は少しホッとした。

やっぱり皆、緊張していたのねと話しながら、ゆっくり歩く。

ロゼッタが何か言いかけた時、サッとシャロンが2人の前に立ち

片腕を横に出して、止まるように合図する。

アリシアが前を見ると、1人の女性がブツブツ言いながら

こちらを見ていた。

シャロンが小声で話した。

「ロゼッタ、急いで広間に戻って辺境伯とシモン達を呼んできて。

アリーの足じゃ、追いつかれる」

ロゼッタは後ずさりすると、ものすごい速さで走って行った。

「アリー、あの人に見覚えは?」

「……お化粧室に行くときにイヤミを言いにきていた人だわ。

でも……様子が違う。いつもは颯爽と歩いてすれ違いざまに

イヤミを言うだけの人よ……」


その女性はアリシアだけを見ていた。ロゼッタが走り出したことも、

シャロンがアリシアをかばっていることも、目に入っていないようだった。

アリシアは廊下で隠れられる柱を探した。運悪く、その柱は女性のすぐ側だ。


「シャロン、大丈夫よ。私、あなたも入れる結界が張れるわ」

シャロンは落ち着いて状況を伝えた。

「アリー、よく見て。彼女は右手に何かビンを持っている。あれに何が入っているかは?」

「分からないわ。今まで一度も、何か手に持っている事はなかった」

「分かった。あなたの結界の強度は?」

「シャアル様が、大きな岩や、攻撃魔法は防げるって。

王宮を囲む結界と同じくらいはあるみたい」

シャロンは、目を見張った。さすが辺境伯。

練習だけで、そこまでもっていったのか。

シャロンは、口の端を上げて笑った。

「では心配いらないわね。どの位置でも魔法は発動できる?」

「ええ」

「では私の後ろにいて。合図したら結界を張って」

アリシアはうなずいた。シャロンはできるだけ時間を稼ぎたかった。

女性は焦点が合っていないように見える。まるで酔っ払いのようだ。

後ずさりしながら距離を取る。自分の隠し武器だけでは防げるか分からない。

なるべく刺激せずに援護を待ちたかった。


その女性は、アリシアを見ながらずっとつぶやいていた。

アリシアには何をいっているかまで聞こえないが、シャロンには

内容が分かった。

「なぜ?……なぜ人族は優遇される?同じ伯爵家なのに……。

守られるだけで、何の能力もないくせに……。取り入る事だけうまい……」

シャロンはチッと舌打ちした。シモンに聞かれたら、女の子なのにとまた怒られるだろう。

女性のビンを持つ手に、力が入った。

シャロンが叫ぶ。

「アリー、今よ!!」

アリシアは、サッと手をかざした。

一瞬の内にアリシアとシャロンは結界の中にいた。

それと同時に、女性の後ろに突然シャアルが現れ、

ビンを掴んだ女性の手を、掴んでいた。

あっという間に、女性は捕縛され、ビンは没収される。

どこから現れたのか、騎士隊が女性を厳重に護衛し、連れていった。


アリシアは急に力が抜けて、座り込んだ。

シャロンが、アリシアを支える。

シャアルが、血相を変えて飛んできて声をかけた。

「アリー、もう大丈夫。結界を解いて!!できる?」

アリシアは、その声に反応し結界を解いた。

シャロンに代わり、シャアルがアリシアを抱きしめる。

こんなに切羽詰ったシャアルは、誰も見たことがなかった。

「アリー、アリー?!私の声が聞こえる?!」

両手でアリシアの頰を包み、視線が自分と合うか確かめていた。

アリーは、ほおっと大きく息を吐いた。

「大丈夫、大丈夫よ、シャアル様」

アリシアは自分の両手で、シャアルの頰を包み返した。

「大丈夫、シャロンが私を守ってくれたの。だから大丈夫よ、シャアル様。

ちょっとビックリしただけ。ありがとう、シャアル様に教えてもらった

結界の魔法がきちんと出来たわ。ありがとう、シャアル様」

シャアルは、泣きそうな顔をしてアリシアを抱きしめた。

いつもよりも少し強く。


シャロンは、シモンに抱きしめられながら、

淡々と説明をしていた。

ロゼッタは後ろから、走ってくる。

ロゼッタの父とグラントも一緒だった。

ロゼッタの機転のおかげで、騒ぎにはなっていなかった。

ロゼッタは、涙をこぼしていた。

「良かった、良かった……2人とも無事で、良かった……!!」

ロゼッタの父は、ロゼッタを抱きしめると、年長者らしく皆に声をかけた。

「よく頑張ったね。もう大丈夫だ。控えの間を借りておいたから

そこで少し休もう」


シャアルは、怒りでどうにかなりそうだった。

怒りで魔力が漏れ出している。

そんなシャアルの側で、アリシアは伝え続けた。

シャアルの手を取り、伝え続ける。

「シャアル様、大丈夫よ。大丈夫。私、きちんと出来たわ。

緊迫する場面でも結界が張れた。シャロンとシャアル様のおかげよ。

大丈夫、どこも怪我していないわ。心配ないの。私、大丈夫。

シャアル様、大丈夫よ、大丈夫だった」


その言葉にシャアルは、自分を取り戻していった。

それはまるで、アリシアがシャアルを守っているかのようだった。

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