第56話 視線
第56話 視線
影は報告を終え、王に状況を伝えるため戻っていった。
ニコラはシャアルが、目の端で影を追っている事に気が付いた。
シャアルに尋ねるべきか、言うまで黙っているべきか……。
シャアルは、スッと別の方を見て、自分を見ていたニコラに気がついた。
そう思ったが、ニコラから特別に声はかからなかった。
「殿下、これからは陛下と毎朝、話をなさってください」
「そうくると思ったよ……。分かった。食後のお茶を一緒にする」
ニコラは大きなため息をついた。なにせ、我が父は油断も隙も無いのだ。
市政の事で話が盛り上がったかと思ったら、一つ厄介ごとがくる。
何か話すたびに、後日解決しなければならないちょっとしたことが
増えていくのだ。別に難題を抱えるわけではない。
本当にちょっとしたこと。でも、それを更に厄介な出来事に
しないようにするには、なかなか手間がかかった。
コナーが思わず微笑んだ。
「殿下、殿下でもため息をつかれるのですねぇ」
ニコラは笑った。
「君達は、僕をどんな人間だと思っているのさ。
毎日ため息つきたいことだらけだよ」
「申し訳ありません、不敬に当たるのかもしれませんが、
人間らしい殿下を拝見できて、ホッといたします」
「コナー、それじゃ僕が人間じゃないみたいだ」
ニコラがふくれると、笑い声が上がった。
この会話で、少し場の空気も軽くなる。
打ち合わせを続けやすくなり、ニコラはホッとした。
皆、気の滅入るような報告ばかり聞いていたのだ。
思わず表情も固くなろうというものだ。
もうすぐ全容がわかるかもしれない。あとは証拠だけ。
そこまで来ていた。
ニコラは、色々な報告を聞いた。多分、ニコラが
1番情報を持っているはずだ。それでも何か釈然としない
違和感が残っている。
何だろうな……。黒幕の割に、手応えがない。
こんなに邪悪な事に関わっているのに、まるで強敵のような
手応えがないのだ。どちらかというと単純で、すぐに片がつきそうだ。
喜ぶべき事なのに、何だか釈然としない。思わずつぶやいた。
「何だか変だな……」
レモンドが聞き返す。
「殿下? 何か気になることが?」
「誰か、この件について違和感を持っている人はいる?」
その質問に、コナーがにこやかに答えた。
「僕は持っています」
ニコラは密かに驚いた。まさかコナーが答えるとは思わなかったのだ。
「コナー?どこが変だと思う?」
「かなり大掛かりに仕掛けているのに、敵が弱すぎます。
単純で、用心深さがない。変じゃありません?
禁忌の薬草まで栽培させているのに?
これじゃ、すぐに捕まえて一件落着しそうですよ」
「でもコナー、黒幕が油断していることもあるだろう?」
「殿下、本当に黒幕なんですかねぇ?自分たちの思っている人物、
その人が本当に黒幕なんですかねぇ?」
「コナー?とても強い違和感なんだね?」
コナーは変わらず首をかしげていた。
「はい、殿下。そうですね、とても強い違和感です。
何だか腑に落ちないんですよね。人族の不安は思いの外大きいですよ。
人族の子供を持つ獣族はどうなんでしょう?
不安だけでなく、怒りもあるんじゃないんですか?
そんなに簡単に尻尾を掴めて、解決できるほどではない気がするんですよね」
コナーにそう言われて、ニコラは考え込んだ。
コナーは思いつくまま話してみる事にした。
「殿下、殿下のおっしゃる通り、表向き黒幕は愚鈍な可能性があります、
でも、このナラタナ王国で、そんな冒険をする貴族がいますか?
愚鈍な者であれば、もっとくだらない発想で罪を犯し、
こちらもやすやすと解決できる。
でも今回、1つ1つの事は、人に恐怖心や、怒りを産むのに、実害は範囲が狭い。
こちらが捕らえようと思うものは、墓穴を掘っていることが明確。
変じゃありません?」
レモンドとシャアルが、顔を見合わせた。
シャアルが、しょうがないなというようにフッと笑い、
その次に、ニヤッとしてニコラを見た。
「殿下、切り札は最後まで隠す物ですよ」
何回か見た事はあるが、今回も良い笑顔だった。
シャアル、君、魔王みたいだよ……。
その笑顔を見て、ニコラは思うのだった。




