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森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
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第55話 風雲

 第55話  風雲


 素敵な婚約式だった。シャアルは自分でもそう思っていた。

こんな幸せな気持ちの中、アリシアを置いて王宮に戻るのは

せつなかった。皆、結婚までどうやって耐えるのだろう。

どおりで、婚約式から結婚式まで期間が短いのが通例な訳だ。

もう自分の側にアリシアがいないなど、考えられなかった。


そんなシャアルにフィルが声をかけた。

「シャアル殿、ここからです」

シャアルはフィルを見た。ニコラが動くほど

フィルは目に見えて力をつけてきていた。

洞察力も、きめ細やかな手配も。

体つきもひと回り大きくなり、顔つきも精悍になっていた。

自分もこの歳の頃は、そうだったのだろうか。

「フィル殿、そうだな、ここからだ」

シャアルはフッと笑った。

その後のシャアルには、もう甘い空気は微塵もなかった。

冷静ないつものシャアル。何を考えているか、

もう誰も読み取れない。

ここからが、シャアルの本領発揮なのだ。

フィルはそんなシャアルを、静かに見ていた。


シャアルとフィルは王宮に戻り、ニコラの執務室へ向かう。

すでに影、レモンド、コナーが来ていた。

近侍は、今日は紅茶にしたと言い、給仕してから下がった。

フィルは部下に、廊下で護衛を続けるように指示した。

ニコラが、口を開いた。

「シャアル、婚約おめでとう。ああ、ゆっくり話が聞きたかったのに」

残念そうなニコラに、シャアルが答えた。

「殿下、ありがとうございます」


「さて、おさらいをしようか」

ニコラが、状況を確認しだした。

この何週間かで、色々なことが上がってきていた。

問題は黒幕で、彼、もしくは彼らの本当の目的は何だろうかと言うことだ。


みんなの持っている情報を整理すると、

集会のリーダーは、父親の借金のこともあるが

自ら手を染めているものと思われた。

かなり用心深く、自分自身では動かないようにしていた。

シャアルは、浅いな……と思った。自分で動かないと言うことは

手のものを使うと言うことだ。後ろ暗いことを手伝うものは

荒くれ者が多い。そこからほころびは生まれるのだ。

案の定、手の者は ある薬草を栽培している男に頻繁に会っていた。

ニコラは影に尋ねた。

「薬草が特定できたと言う事?」

「さようでございます。薬草の名は、眠りの木でした」

「眠りの木……」

ニコラは、唇を硬く結んだ。それは、どの国であっても

禁忌の薬草だ。昔は外科的な手術で、痛みを紛らわせるために

よく使用されていた。もちろん医療に携わるものしか

扱えず、厳しく制限される薬草だった。

しかし、手術後、幻覚を見たり、その薬草を違法に手に入れようとする

元患者が出てきたため、他の薬草で代用するようになり

栽培も使用も禁止されたのだ。今では野生に生息するものしか

残ってはいないだろう。


シャアルは尋ねた。

「栽培者は、どこの領地に住んでいる?」

「ガザンでした」

その報告に、コナーがひゅっと息を漏らした。

「ガザンといえば、ハワード伯爵だねぇ」


コナーはレモンドが早速に宰相に話をつけた為、2日後には採用になっていた。

宰相が、1日でコナーの身辺調査をしたのだろう。最速での採用だった。

今回は人族の安全を担うために話に入ることになっていた。


ニコラは、すでにうんざりだという顔をしていた。

「ハワード伯爵は絡んでいるの?」

「まだ、確証がありません。ただ、あの伯爵が自分の領地で

禁忌の薬草を栽培しているものを、知らないとは思えませぬ」

「父上は、まだ泳がすように言っているの?」

「焦るなとおっしゃっています。大元を絶たねば

悪の芽はいつでも出てくると」

「ホントに父上ってば、難しいこと言うんだから」

「幸いハワード伯爵は、かなりご自分に自信があるようで、

バレるなどとは思っていないのでしょう。領地では

何の警戒もされておりません」

「彼の領地は、少し離れているからね」

「手の者もガザンの出身者だけを、配置しました」


シャアルは再び尋ねた。

「なぜ新興貴族を巻き込んでいるのだ?新興貴族が出だしたのは

ここ最近ではない。数十年前から始まっていたと言うことか?」

「少なくとも100年前くらいには、この方法を使っていたと

思われます。ハワード伯爵家は、新興貴族の元祖なのです。

さかのぼるとハワード家に嫁いだ者の親戚が、現在新興貴族と呼ばれております。

ハワード家は、家長の死者も、病人もだしておりません。

たまたま(つがい)同士だったのでしょう。

そして、結婚で成り上がるほど地位が低い訳ではありませんでした」

シャアルは、静かに言った。

「では親戚だな。嫁いだ者の親戚に、うらやむものがいたのだろう。

そして事を始めた。領地内で自分の親戚がしでかしたとなると、

公表をためらう領主がいても、おかしくない。

もしくは手口に気が付いた時は、遅かったか、

自分の領地を広げるための野心だったか」

「おそらくその辺が理由かと。確証を手に入れるように

調査を続けております」


コナーは、一つ尋ねた。

「ニアって女の人は?なぜ彼女だけ、薬草茶を飲んでいるんだろう?」

「そのご婦人だけ、飲んでから症状が出るのが早いと言う報告が。

集会の前から、飲んでいる可能性があります。まだ証拠が掴めておりませんが

ハワード伯爵の愛人だと言うウワサがあります」

「それが本当なら、邪魔になったって事だ」


シャアルはつぶやいた。

「人体実験……。最初に彼女を使った可能性がある」

ニコラは、考えた。ハワード家ならそんな事をしなくとも

充分に地位も名誉も手に入る。なぜそんな事に手を染めたのか。

「ハワード家の財務状況は?そんなに窮地におちいったなんて

記憶にないけど」

「窮地ではありません。が、少しずつ減っているようです。

ただ伯爵の個人資産だけ増えております」

「なぜ?」

「領地から少しずつ人が流出しているのです。おそらく

税収が減っているものと」


コナーはのんびりと頭の後ろに手を組んだ。

「そりゃあね、禁忌の薬草を密かに作らせる領主なら

何か他にもやっていそうだ。個人資産だけ増えるなんて

投資もしていないのに、おかしいよね。領民は空気に敏感だからね。

別に悪い事が自分に起きなくても、移住したくなるのかも」


ようやく、全容が掴めそうなところまでたどり着いた。

ニコラは、今の段階で手をつけられるところから

順番に進めようと思った。

まずは中毒になる前に、国民を救って罪をつぐなわせなければ。

そうすれば、生きていれば立ち直るチャンスがくるかもしれない。


ニコラは、やはり国民全ての幸せを祈るという夢を

諦める訳にはいかないのだった。

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