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森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
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第53話 一歩

 第53話  一歩


 シャアルはできるだけ早く婚約式を終えておきたかった。

何故なら夜会があるからだ。アリシアは社交界デビューの年だ。

その前に、事が起きたとしてもアリシアを公式に守り、

もしアリシアを害する者がいれば

自分が公式に断罪できるようにしておきたかったのだ。

まだ、敵が事を固めぬうちに出来る限りの事をしておきたい。

その一念だった。


そのかいあって、最短で婚約式を迎えた。

大抵は女性の家で行われる。

結婚するときは男性の家が多かった。

獣族の婚約式は、家族に見守られて宣誓書に署名し、

指輪を交換し、食事をして親交を深める。

もう1つは2人だけの時に行うもので、

食後、夕暮れに行われることが多かった。

今日の大切な日にでさえも、夜は王宮に戻らねばならない。

次々と色んな情報が、上がってきているのだ。

黒幕を突き止めるまで、あと一歩という所にきていた。

この怒り、存分に受け止めてもらおう。

邪魔をされ続けているシャアルは、完全に臨戦態勢に入っていた。



マリーは、かなり忙しい日々を過ごしていたが、ご機嫌だった。

飾り付けに、花の準備、食事にデザート、お茶にお酒。

シャフやリリアーナと相談し、アリシアにも聞いてみる。

アリシアは恥ずかしそうに、皆が楽しめるなら、

マリーの考えたものが良いと譲らなかった。


今日は、以前にシャアルが褒めてくれた水色のドレスを着る事にしていた。

マリーは念入りにアリシアを磨き上げ、髪をかなり凝った結い方にして

白い花で飾っていった。


支度のできた頃、リリアーナがマリーを手伝いに来た。

自分が持っている代々受け継がれた、ネックレスを手にしていた。

アリシアのドレスと同じ、淡い水色で初々しい装いに華を添える。

それはアリシアの黒髪にとても合っていた。


フィルとグラントがアリシアの部屋を訪ねて来た。

フィルは、しょうがないと覚悟ができていたが、

グラントは、まだ膨れていた。

リリアーナとマリーは次の準備に、部屋をでる。

フィルが愛おしそうにアリシアを眺めて言った。

「アリー、婚約おめでとう。綺麗だよ」

アリシアの額に、親愛のキスを落とす。

グラントは、まだゴネていた。

「アリー、いいか、イヤになったら

いつでも言うんだぞ。まだ婚約で、結婚じゃないんだからな。

結婚しても、イヤだったら言うんだぞ」

そんな兄に、アリシアは苦笑いした。

「お兄様、悲しくなるから、そんなこと言わないで」

グラントの頭にゲンコツが落ちた。

フィルが、いさめる。

「グラント、いいかげん往生際が悪いぞ。あきらめろ。

アリシアの幸せを祈れないなら、屋敷からでてけ」

そんな兄にグラントは、ブツブツと文句を言うのだ。

「兄様だって、この間まで一緒に荒れてたのに……!!

自分だけ先に覚悟しちゃって、ずるいよ」

そんなグラントにフィルが笑った。

フィルはアリシアの頰を、両手で優しく包んで微笑んだ。

「アリー、婚約の時期を楽しむんだよ。

俺は分からないが、色んなヤツの話だと婚約時期は

目一杯、楽しんだ方がいいらしい。

シャアル殿とたくさん話して楽しむんだ。その時間が大切なんだそうだよ」

アリシアは、はにかんで答えた。

「はい、お兄様」


アリシアは不思議な気分だった。ニコラが忙しくなるのに比例して

フィルも忙しくなっている。どんどん身体つきは父に似て、

表情も今までとは違い、大人っぽさが強まっていた。

「お兄様、お兄様達にも(つがい)が見つかりますように」

アリシアは願いを込めて、兄達の頰にキスをした。

フィルは、微笑んだ。アリシアが自分に願ってくれるほど、

幸せな恋なのだろう。

グラントはまだすねていた。

「僕は、まだ当分いらない」

アリシアは笑ってグラントの腕にしがみついた。

「そんなこと言わないで、お兄様。とても幸せな気持ちに

なれるのよ。私、お兄様にも幸せな気持ちになってほしいわ」

グラントは、ふくれながらアリシアを見た。

アリシアの笑顔に、幼い頃の面影を見つけると、

しょうがないなと言い、つい笑顔になった。

「ダメだ、アリー。そんな顔していると、また

何でも許しちゃうじゃないか。」

横に首を振っていたが、ついに諦めた。

「しょうがないか、僕は一生アリーには勝てないんだよ……」

グラントは、うなだれた後、優しくアリシアを抱きしめた。

「アリー、ゆっくり進むんだよ。幸せは焦っちゃいけないんだって。

君らしく、幸せになるんだよ」

アリシアは、にっこりと笑って素直に答えた。

「はい、お兄様」


フィルが声をかける。

「さ、アリー。お出迎えの時間だ。お前の氷結の賢者がやってくる」

シャアルの二つ名を言われて、アリシアは思わず笑った。


アリシアの前だけ、溶け切ってるけどな……!!

グラントは心の中で、まだ文句を言っていたのだった。


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