第47話 闇
第47話 闇
カルロスが帰宅することが分かり、
2人が、アリシアの屋敷に向かっている頃、
王宮ではニコラが、とても不機嫌になっていた。
あっちが上手くいけば、こっちが上手くいかない。
それが王族の仕事と分かっているが、自分の大切な友人の
晴れやかな時間が初まるこの時に、邪魔をされるのは
はなはだ面白くなかった。
影からの報告はニコラを更にうんざりさせるものだった。
真昼間から、気つけの酒を飲むわけにもいかない。
耐えるしかなかった。
リーダーは、伯爵家の長男だった。
父親の借財が、かなりあった。本人は一時期 騎士団にいたらしいが、
フィルの記憶にも残らないくらい、すぐにやめたらしい。
彼だけはお茶を飲まない。ということは、脅されてやっているか
分かってやっているか、まずどちらかだろう。
人族との接点は、どんなに調べても出てこなかった。
間違いない、黒幕がいる。
ニコラは、いつもよりも用心せねばと思っていた。
政治的な問題より、貴族の慢心より、明確な悪意を感じる。
この王国で、ただの悪意で起こる犯罪で大掛かりなものは記憶にない。
隣国との関係が影響してる……?
こんなに大胆にも、結界も張らず集会をしている。
世界は獣族のものと、声高に主張しているのに
やっているのは小さな嫌がらせだ。
どうにも行動と言動があっていなかった。
何か見落としている事が、あるはずだ。
考え込むニコラに、近侍が声をかけた。
「ニコラ様。少し休憩なさっては?」
そう言って、豆茶を入れ出した。
今日の豆は黒豆で、煎ってから入れるらしい。
その様子を見て、ニコラは思いついた。
お茶だ。カギはお茶にあるはず。
近侍に問いかけた。
「ありがとう。君はお茶に詳しいよね。
自分でブレンドしたりしないの?」
近侍は、にこやかに答えた。
「お褒めに預り光栄です。お父上はお茶が
大変お好きでいらっしゃったので少しばかり勉強をしました。
ブレンドもやりますが、あくまでも自分用です。」
「なぜ?ブレンドして良い出来だったら、味見してもらいたくなるだろう?」
「そうなのでございますが、それは家族か よほど近しい友人だけにしております」
「何か訳があるの?」
「私は薬師ではありません。それが1番の理由でございます。
何でもそうですが、薬草やハーブにも良い点と悪い点があります。
組み合わせが悪くて、副作用が起きてはいけないのです。
ですから、まず自分で試します」
「なるほどね。お茶も奥が深いんだね」
そう言って、ニコラはお茶に口をつけた。
お茶の専門家か、薬師が絡んでいるのか?
何の目的で?
しばらく考え込んだニコラは、
図書室にいるはずのロゼッタを呼んで来て欲しいと
近侍に使いを頼んだ。
近侍は、かしこまりましたと下がり、15分後には
ロゼッタが何冊かの本を持って現れた。
部屋に入り、ニコラとフィルしかいないことを確かめると、
ロゼッタは、笑い出した。
「ニコラ、どうしたの?急に、紅茶の本が読みたいだなんて」
ニコラは内心しまったと思っていた。ロゼッタをただ呼ぶだけでは
目立ってしまう。近侍が気をまわしたのだろう。
僕もまだまだだな……、これは気をつけなければ……。
「この間、お茶をブレンドしたものを飲ませてくれたろう?
ちょっと興味があってね」
ロゼッタは、なんだというような顔をした。
「あなた、本を読むヒマなんてあるの?」
「夜にね。ところでロゼッタ。君が薬草をブレンドするときに
1番気をつけることは何?」
ロゼッタは、ニコラが本格的にお茶を入れ出すのかと思い
不思議そうにした。
「飲むことで、具合が悪くならないようにすることよ。
う〜ん、難しいわね。飲んで病気になるわけではないから。
ほら、女性って香油を使うじゃない?あれも
例えば、肌が敏感な時期は使ってはいけない香油とかが
あるのよ。それと同じで、少し気をつけなければならないの」
「もし、その香油を間違って使ってしまったら、どうなるの?」
「肌が赤くなったり、荒れてしまう可能性があるわ。
でも肌が強い人もいるから、皆がそうなるわけではないの」
ニコラはロゼッタが、きちんと理論に基づいて
ブレンドしていることに驚いた。
「君は、どこでそれを勉強したの?学校では薬草は
薬剤学として習うだろう?お茶の授業は無かった」
それを聞いたロゼッタは笑い出した。
「習わなくったって、街の茶葉の専門店に行って聞いてみたり、
あ、でも確かに薬剤学は役に立っているわ。
色々な薬草を習うもの。薬草はすぐに効果のある強いものと
長年飲んで体質を変えるものと両方あるでしょう?
お茶にするのは、体質改善の薬草だから、病気になるほどには
ならないわ。もちろん、そうならないように気をつけているけど」
ニコラは、街中の茶葉の専門店にお忍びで行けそうか
ロゼッタに聞いてみた。
ロゼッタは朗らかに笑って言った。
「そうね、どんな格好かによるわよ。商人風にするにはニコラは
ちょっと無理があるわ。フィルの付き人として行って、
体調の悪い人に送りたいって話せば、自然に見えるかも」
フィルの眉間にまたシワが寄った。
ロゼッタはフィルに肩をすくめた。
「フィル、しょうがないわ。ニコラも言い出したら
聞かないもの。でも本当に薬草茶を自分で作りたいわけじゃないんでしょう?
だったら、気をつけて。あまりにも店が専門すぎて、
客は記憶に残りやすいと思う」
ロゼッタは、ニコラが何か問題を抱えていると感じて
注意点を話してから、図書室に戻っていった。
ニコラは、顔をしかめながら言った。
「フィル、デヴォン辺境伯に終業時間頃に
王宮に戻るよう、使いを出して欲しいんだ。」
めずらしくニコラは、ため息をついた。できれば今日は
アリシアと2人きりだけの休暇にしてやりたかったのだ。
そんなニコラの意を組んでいるはずのフィルが言い放った。
「ニコラ、あんまり気にするな。どうせ辺境伯の事だ
激務の中、アリーを独占するべく動くさ」
自分の妹を番にと望むシャアルだ。
この際、能力を最大限 活かしてもらおう。
どうせ、アリシアとの時間を邪魔されたシャアルは、
その腹いせを存分に発散するだろう。
そんなフィルの思惑を読み取ってニコラは、
悪人にとって、どっちが良いのかなと楽しそうに思うのだった。




