第45話 灯り
第45話 灯り
アリシアは急にもらった休暇に驚いていた。
シャアルと入れ替わったフィルは、アリシアに
深く考えずに楽しめば良いと言い、ニコラの元に戻っていった。
兄からシャアルとの時間を楽しめと言われるなんて……。
シャアルにとっては、快挙だった。
シャアルはコナーに、ニコラからの伝言をそっと告げ
コナーは軽くうなずいた。
同僚たちは、申し訳ないと思うアリシアに
気にしないで、ゆっくり休むように勧めた。
王宮を後にした2人は、シャアルの提案で
たまには良いだろうと、本格的な紅茶を楽しめる店にいく事にした。
そこであれば、軽食も出る。
個室もあるし、落ち着いて食事をしてみようとシャアルは話した。
その店は少し変わっていた。
まず、店に入るとカウンターがあり、その後ろの棚に
200種類はあろうかと言う、紅茶の棚があった。
1つ1つ缶に入っており、店のロゴが描かれていた。
缶に入れるのには理由があって、香りを逃さないように
するためだと、店の者が教えてくれた。
そのカウンターで、軽食をしたいものはメニューを選び、
それにあった紅茶が何種類か提案される。
香りを嗅いで、選べるようになっていた。
もちろん好きな茶葉でも構わない。
アリシア達は、サラダとサンドイッチのセットと
店員が選んでくれた紅茶を頼んだ。
個室に通され、すぐに軽食と紅茶が運ばれてきた。
紅茶の蒸らし方を教わりながら、カップに注いでもらう。
香りが、いつもと格段に違い、アリシアは驚いた。
なんて良い香り……家でも試してみよう、マリーにも教えなくちゃ。
久しぶりに、食欲が湧いてくる感じがした。
アリシアはシャアルに感謝した。
「シャアル様、連れてきてくださってありがとう。
とても美味しそうだけど、シャアル様の量は足りる?
ごめんなさい、私の食事の量が減っていたから……」
そう言うアリシアに、シャアルは笑った。
「アリー、そんなことは気にしなくて大丈夫。
私を気遣ってくれてありがとう。でも君と食事できるから
私は満足なんだ。量は気にしないで」
そう言うシャアルにアリシアは、はにかんだ。
シャアルは、さあ食べようと言い、口に運んだ。
アリシアも一口食べて、ニッコリ微笑んだ。
「美味しい……。シャアル様、大丈夫。
私、もう以前と同じように食べられると思うわ」
それを聞いたシャアルは、嬉しそうに大きくうなずいたが
少し残念そうにもした。
「良かった。でも、私が食べさせる機会が減るのは残念だ」
アリシアはポカンとし、次に真っ赤になった。
もう!!と、少しふくれる。そんな様子も、
シャアルには愛らしさが増すだけなので、少しも効果がなかった。
久しぶりにお腹がいっぱいになったと思った頃、
給仕が来て、2杯目の紅茶を入れてくれた。
給仕が下がると香り高く、美味しい紅茶に
後押しされるように、アリシアは口を開いた。
「シャアル様」
カップを置き、シャアルを見る。
シャアルは何事かと目を見張り、同じようにカップを置いた。
「どうした?」
アリシアは自分の心臓に負けないように、一気に言った。
「私、シャアル様と一緒に居たいの。シャアル様と嬉しいことも
楽しいことも、辛いことも、悲しいことがあったとしても
一緒に気持ちを分け合いたいの。
こんな私でもシャアル様は本当に良い?」
アリシアの心臓は早鐘がなっているようだった。
どうしよう、うまく伝わったかしら……?
シャアルは呆気に取られていた。アリシアの気持ちが
自分に傾きつつあるとは思っていたが、
こんなに早く、アリシアが打ち明けてくれるとは思わなかったのだ。
まるで不意をつかれた時のように、実感がわかない。
次の瞬間、突然に自分の中で歓喜が溢れるように湧いてきた。
自分の考えより先に、獣族の本能が喜び出したかのようだった。
固まっているシャアルに、アリシアは不安になった。
こんなに時間がかかったから、シャアル様の気持ちは
変わってしまったのかもしれない……
悲しみに支配されそうになった時、シャアルは立ち上がって
アリシアの席まで行き、ひざまづいた。
ビックリしてシャアルを見ると、いつもと同じように手を優しく取られる。
「アリー、嬉しすぎて聞き逃したかもしれない。
もう一度、言ってくれ。君の気持ちが聞きたい」
もっ、もう一度?!アリシアの鼓動は、また速くなった。
まさか、もう一度言うことになるとは思っていなかった……。
それでもアリシアは、口を開く。
今まで、自分を大切にして待ってくれたシャアルの為に。
「シャアル様。私、私……シャアル様と一緒に居たいの。
楽しいことも、悲しいことでさえも、シャアル様と
同じ気持ちを分け合いたいの。
こんな私でもシャアル様は本当に良いの?」
「アリー、もちろんだ。そのままの君が良い。
愛しているよ。愛してる。私の生涯をかけて
君を守ると誓おう。お願いだアリー、
君も同じ気持ちだと言って?」
そう言われて、アリシアは真っ赤になった。
「あ……あの……その……」
恥ずかしさのあまり、声がだんだん小さくなっていく。
「アリー?」
シャアルにうながされて、覚悟を決めた。
「好きなの……。シャアル様が好き」
小さな声で聞こえてきた告白に、シャアルは自分は
世界一の幸せ者だと震えた。
生きてきて、これほど幸せだと思ったことはなかった。
心が温かいもので満たされる。
まるでアリシアお気に入りの、魔法の灯りのようだった。
どう表現したら良いだろう。嬉しい、嬉しくて幸せだ。
自分の語彙力のなさに腹がたつほど、
シャアルは歓喜に包まれていた。
そっとアリシアの手に口付ける。
アリシアが初めて恋人からもらう、優しいキスだった。




