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森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
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第42話 陰り

 第42話  陰り


 アリシアをロゼッタの屋敷に送り届けたシャアルは、

猛然と仕事を片付けていった。もはやこの速さで仕事をするのが

当たり前と言わんばかりに、次々と厄介な事を片付ける。

彼の補佐は、そんなシャアルにだいぶ慣れ、同じように

平然とこなしていった。


領地も、騎士団の事務も終えたシャアルは、

面会が入っていると告げられた。

表向きの役職は執務官だったが、それは王の影だった。

シャアルは補佐の者に、もう今日は上がって良いと伝え、

影が座った瞬間に結界を張った。


「デヴォン辺境伯、ご報告です。

同じ内容はすでに王と側近には上がっております」

シャアルは無言でうなずいた。

「例の集団ですが、メンバーが確定しました。

デヴォン辺境伯から伺った者以外にも何名かおりました。

それからは、人数が増える様子はありません。

ですので内部に手の者を潜り込ませるのは難しいかと。

集会の際に、会話内容を聞こえるように手配してあります。

狂信的な事を信じる集団に見えますが、ちょっと違和感が」

影がそう言って言葉を切った瞬間、シャアルは片眉をあげた。

「集会の始めに、リーダーが必ずお茶を勧めるのです。

全員が飲み干すと、リーダーは何やら小声でささやき続けます。

すると、リーダー以外は体が横に揺れ始めるのです」

シャアルが口を開いた。

「幻覚か……」

「おそらく、お茶に仕掛けがあるという事で間違いないかと」

いくら魔法があるとは言っても、幻覚を見せられるほどの

魔術師はいない。そんな力のある魔術師がいれば

国の存亡に関わる。

「王は何と?」

「お茶の種類を特定せよと。早急に解毒できる方法も見つけるようにと

仰せられております。それから……」

「かまわん、話せ」

「なぜ人族に焦点を当てているのか、背景を調べよと」

確かに、密かに流通でもしたら幻覚を見るものが増える。

幻覚を見せる根源を遮断することが、急務だ。

「リーダーの裏に暗躍するものは?」

「どうやらリーダーは、かなりの借財があるようです。

裏組織と繋がっていると考えておりますが、まだ特定

できておりません」

「幻覚まで見せているとなると……やっかいだな。

大掛かりな企みも潜んでいそうだ」

チッと舌打ちし、考え込む。

王の言う通り、なぜ人族を標的にしているのかが

分からない。狙うなら、もっと候補がいるはずだ。

少数の者を狙って、得になる人物……。

いくつか思い当たるが、幻覚を見せている段階で

規模が大掛かりすぎてピンとこない。

シャアルは影に問いかけた。

「ニコラ殿下には、もう話したか?」

「いえ、明日の晩に伺う予定でおります」

この影の様子だと、事態はまだ切迫しているわけでは

ないらしい。


「他に気になる点は?」

「……お知らせいただいていた

アリシア殿に嫌がらせしている連中の内の1人が

この集団におりました」

「……1人?全員ではないのか?」

「1人です。他の連中を集会へ誘う行動もしていません」

アリシアへの嫌がらせは、本当に子供じみたものだった。

ちょっとした嫌味で、捕まえるわけにはいかない。

それを分かってやっているかのように、地味でしつこかった。

何か裏がある。全員の裏はとってあった。

後ろ暗い事がある者もいる。

「その者の名は?」

「ニア・アバウ」

その名を聞いた途端、シャアルはチッと吐き捨てた。

内心、1番やっかいな者だとマークしていた名前だった。

やっている事は、ただの嫌味を言うだけだが、

だからこそ厄介だった。捕まえる理由が見当たらないのだ。

彼女は新興貴族で成り上がるために、密かに

(つがい)でもない男に狙いを定め、声をかけて回っている。

新興貴族は結婚で成り上がるのだ。

結婚の後に(つがい)を見つけたら、どうやっているのか

家を乗っ取って、当主に収まる。ニアは女性なので、

(つがい)を当主にし、子供を跡取りにするのだろう。

分かっているのに、新興貴族と結婚する者がいるのだ。

待てよ。シャアルは考えた。

獣族にあるまじきと思っていたが、これにも裏があるかもしれない。


シャアルの瞳に怒りが浮かんだ。その怒りは、赤い炎をしのぎ

青い炎になっていた。

やっとこの厄介者に、付け入る隙ができた。

シャアルはニヤッと笑った。


シャアルは影にいくつか情報を話し、指示と頼みごとをした。

そして内容を王と側近に知らせるように頼む。


アリシアを侮辱した事、絶対に忘れぬ。

シャアルは、アリシアに嫌がらせした者を野放しにする気など

全くなかったのだった。

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